心踊るホリデーシーズン。この秋冬は、逸話あふれる一生モノの腕時計を、大切な人や自分への贈り物として選びませんか。“時計愛&好!”を持って任ずるENGINE時計委員会9名が、知見・体験や思い入れをふまえて「推し時計の歴史やストーリー」、「時計と自信の物語(ナラティブ)」エモーショナルに紡ぎます!
今回取り上げるのは、F.P.ジュルヌ「クロノメーター・スヴラン」。文字盤の“Invenit et Fecit”は、ラテン語で「発明し、製作した」の意。天才創業者が今も第一線で活躍し続ける希有なブランドだ。
流れる時間を楽しむ時計
F.P.ジュルヌの個人的な思い出は、ジュネーブの本社兼工房にある。先輩ジャーナリストの付き添いでお邪魔したので、取材中は手持ち無沙汰。ラウンジスペースで切りたての生ハムと削りたてのチーズ、そしてシャンパンでよろしくやるのが楽しみだった。ジュルヌさんは美食を愛する男であり、好きが高じて市内に開いたレストランは、すぐにミシュランで星をとったという。時計というのは贅沢品だが、単体で楽しむものではない。その時計とどう過ごすかが重要であり、そこには美酒・美食も欠かせないし、心地よい空間も大切だ。ジュルヌさんは、何よりも時間を楽しむセンスに長けている。だから彼の作る時計は美しく、素晴らしいひと時を演出してくれるのだ。
(篠田哲生/時計ジャーナリスト)
色濃いフランス
フランス人時計師フランソワ-ポール・ジュルヌの作る時計は、ストーリーの宝庫だ。トゥールビヨンやコンスタントフォース、レゾナンス、あるいはオフセンターダイアル、薄型ケースなどに、2世紀以上も前のフランス時計、とりわけブレゲからのインスピレーションが見られるのはそのひとつ。また、トレンドには興味を示さず、自身の「発明」に重きを置いて我が道を行く姿勢もそうだ。誕生から20周年を迎えた「クロノメーター・スヴラン」は、シンプルながら、異例のダイアル表示やマリンクロノメーターから着想した独創的なゴールド製ムーブメントなど、実は凝りに凝った会心の作。ジュネーブで作られる最高峰のフランス高級時計という印象だ。
(菅原 茂/時計ジャーナリスト)
F.P.ジュルヌ クロノメーター・スヴラン
F.P.ジュルヌのコレクションで最もシンプルでクラシカルなこのモデルは2005年に誕生。20周年を記念する最新作は、直径40mm、厚さ8.6mmのケースをはじめ、3時位置パワーリザーブ、7時と8時の間のスモールセコンド、快適なフィット感を生む独特のショートラグといった数々のディテールや、往年のマリンクロノメーターを範にした独自設計のゴールド製ムーブメントを継承しつつ、ピンク色の濃厚な6Nゴールドのケースと、アプライドのインデックスを配したブルーダイアルを採用。手巻き。パワーリザーブ約56時間。3気圧防水。価格要問い合わせ。
問い合わせ=F.P.ジュルヌ東京ブティック Tel.03-5468-0931
写真=奥山栄一
(ENGINE2026年1月号)