2026.08.21

LIFESTYLE

ルイ・クープラン全集、ベートーヴェン後期三大ソナタ、デュザパン世界初録音|注目のクラシック新譜3選

チェンバロとピアノの演奏家がいつか録音したいと考え、技巧、表現、解釈を磨き抜いてきた待望の作品がリリースされた。

フランス出身のチェンバリスト、ジャン・ロンドーは、伝統的な奏法に革新性あふれる内容を加味して聴き手に新たな衝撃を与え続けている。彼が2026年に生誕400年を迎えるフランスの偉大な音楽家ルイ・クープランの記念碑的な全集を録音した。

(c)Warner Classics

ロンドーが「人生でもっとも重要な仕事」と語るCD10枚と1DVDは、2024年に8カ月間コンサート活動を休止して取り組んだもので、ヨーロッパ各地に保存されているチェンバロやオルガンを吟味して作品に合わせて弾き分けている。ルイ・クープランが残した「組曲」を網羅し、さらにオルガン作品や室内楽曲も含み、クープランの全容が明らかになった。解説書にはロンドーの詳細な文が綴られ、貴重な資料の意義も成す。宝石のようなセット物の誕生だ。ロンドーの演奏は特有の間が印象的で、これが熟成した音楽を編み出し、聴き手を17世紀フランスの音楽世界へといざなう。

イギリスを代表するピアニストのひとり、イモージェン・クーパーは、アルフレート・ブレンデルをはじめとする数多くの名ピアニストに師事し、ベートーヴェンやシューベルトの作品の解釈を深めてきた。そんな彼女がピアニストなら生涯に一度は録音したいと願うベートーヴェンの後期三大ソナタ、第30番、第31番、第32番を録音した。

Photo : Sim Canetty-Clarke

いずれもベートーヴェンの豊かなロマンと内省的な美と精神性の高さを描き出した演奏で、とりわけ印象的なのは香り高い歌心と語りかけるような親密さ。この解釈と奏法はブレンデルの教えによるそうだが、これまで聴いたどの演奏とも異なる新しい3曲が目の前に現われ、作曲家の進取の気性に近づく思いがする。一音一音ゆったり響く美音は、現代の時間の流れの速さを忘れさせ、作曲家の生きた時代へと導かれるもので、感情の多様さに心が揺さぶられる。

2025年、エリザベート王妃国際音楽コンクールで日本人史上最高位の第2位に輝いたピアニスト、久末航の快進撃が続いている。ドイツ・フライブルク音楽大学、パリ音楽院、ベルリン芸術大学で学び、ずっとベルリンに住んでいる。

(c)Janine Guldener

2017年ミュンヘン国際音楽コンクールでは第3位入賞を果たし、委嘱作品課題曲「Did it again」でパスカル・デュザパン(1955~)の作品を6人の参加者のうち唯一暗譜で演奏し、特別賞を受賞。新譜はそれが世界初録音として収録された。曲は各素材を展開していく表現法で、7曲でひとつのサークルを描いている。久末はCDをデュザパンに送ったが、「きみの演奏は現代音楽っぽくなく、モーツァルトやシューベルトのように自然なままで演奏している。いままで聴いたことのない音が聴こえてきた」と、喜んでくれたそうだ。

文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)

(ENGINE2026年6月号)

advertisement



RELATED

advertisement