フェラーリ初のEV、「ルーチェ」が遂に姿を現した。イタリア・ローマで行われた発表会にモータージャーナリストの大谷達也氏が参加。果たして、イタリアのスポーツカーメーカーであり、F1コンストラクターであるフェラーリはどのようなEVをつくり上げたのだろうか。
チッタ・デッロ・スポルトでワールドプレミア
フェラーリ初のEV、ルーチェが ローマのチッタ・デッロ・スポルトでワールドプレミアを飾ったのは、現地時間の2026年5月25日夜遅くのことだった。
初優勝を収めた日にその場所でお披露目
彼らが発表の場にローマを選んだのには理由がある。
エンツォ・フェラーリ率いるフェラーリが自動車メーカーとして産声を上げたのは1947年のこと。この年、初の作品である125Sを完成させたフェラーリは早速、同年5月11日にイタリアのピアチェンツァ・サーキットで行われたレースに挑んだが、このときはトップを走っていながら燃料ポンプのトラブルでリタイアに追い込まれる。しかし、その直後の5月25日にカラカラ・サーキットで開催されたローマGPでフランコ・コルテーゼ操る125Sは見事に優勝。その後に続いた無数ともいえる勝利に先鞭をつけたのである。
この記念すべき日からちょうど79年後に、同じローマでルーチェは初公開されたのだ。
フェラーリは例外
フェラーリはモータースポーツを戦うために生まれてきたブランドといっても差し支えない。そんな彼らが、車重が重く、ハンドリングが軽快とは言いがたいEVを手がけることに違和感を覚えるファンは少なくないだろう。
しかし、そういった懸念は、平凡な技術しか用いることのできない自動車メーカーにとってのみあてはまることで、フェラーリは例外といって差し支えない。いや、むしろEVでなければ実現できない新技術に積極的に取り組み、エンジン車では実現できなかった新たな“ドライビング・スリル”を生み出すことが、ルーチェを開発する究極の目標だったといって構わない。ちなみに、フェラーリはルーチェの開発を通じ、実に60件を超える特許を出願したという。
4輪の駆動力を個別に制御
その第一としてあげるべきは、4輪を独立した4基のモーターで駆動するシステムをスポーツカーに採用した点だろう。同様の手法は、ロータス・エヴァイヤやリマック・ネヴェーラなどのように、ごく少量が生産される特殊なモデルに用いられたことはあるが、フェラーリという大規模なスポーツカーメーカーが継続的に生産するモデルとしては史上初のこと。
その最大のアドバンテージは、4輪の駆動力を個別に制御することでしかできないトルクベクタリング機能を実現することにあった。これは、1基のエンジンで4輪を駆動する内燃エンジン車では不可能といっても過言ではない技術。また、たとえエンジンで実現できたとしても、エンジンの反応は電気モーターに比べてはるかに遅いので、ルーチェほど緻密な制御は実現できなかったことだろう。
ちなみに、ルーチェのトルクベクタリングは、後2輪で直進性を確保するいっぽう、前後4輪でコーナーリング性能を最適化する構成とされている。
アクティブサスペンションを搭載
しかも、フェラーリはこの4モーター式4WDの性能を最大限引き出すため、プロサングエ、F80に続いてカナダ・マルチマチック社と共同開発したアクティブサスペンションを搭載。さらに、後2輪は左右独立して制御できる4輪操舵、ブレーキトルクベクタリング、ABS evoなどを採用するとともに、これらをサイドスリップ・コントロールXで統合制御している。さらにその上位に、駆動力も含めた制御システムとしてビークル・コントロール・ユニットを置くことで、新次元のハンドリングを実現したという。
システム総合出力は1050ps
いかにもフェラーリらしいのは、こうした電子制御だけに頼るのではなく、低重心化やマスの集中化によって物理的な素性を磨き上げた点にある。この結果、ルーチェは車重が400kg軽い車両と同等のアジリティを確保。さらに車体構造にアルミを多用することで、122kWhの大容量バッテリーを搭載するEVでありながら車重を2260kgと軽量に仕上げている。
ちなみに自然吸気V12エンジンを積むプロサングエの車重は2033kgなので、本当にフェラーリが主張するとおり電動化により実質的に400kgの重量削減効果があるとするなら、ルーチェのほうがプロサングエよりも200kg分近くも軽快なハンドリングを実現できたことになる。
なお、前後左右輪を独立して駆動する4基のモーターは減速機とともにコンパクトなeアクスルとしてまとめられ、前車軸と後車軸のそれぞれに搭載されている。そのシステム最高出力はフロントが286ps、リアが843psで、前後輪全体のシステム総合出力は1050psと発表されている。単純に前後を合計した数値と食い違っているのは、各車軸が最高出力を発揮する回転数が異なっているからだろう。
クリエイティブ集団がデザインを担当
ジョニー・アイブとマーク・ニューソン率いるクリエイティブ集団“LoveFrom”が担当したデザインは、スムーズな曲面で覆われていて無駄がないほか、大きなガラスエリアを設けることで未来的な印象を与えることにも成功している。それでいて、どこかフェラーリらしいと思わせる雰囲気も漂わせる。なお、実際のデザイン作業は、まずLoveFromが基本的なデザインをまとめたうえで、フェラーリの社内デザイン部門であるチェントロ・スティーレと協力しながら「当初の意図を保ちながらコンセプトを洗練させた」という。
いっぽうのインテリアはトグルスイッチやダイヤルといった物理スイッチの復活が話題になっているが、LoveFromが実践したのは単なる物理スイッチへの回帰ではなく、物理スイッチとタッチスクリーンを適材適所で使い分けることにより、現代のスポーツカーに求められる様々な機能を扱い易く、そして美しくまとめあげることにあったと推測される。
フェラーリの価値を再構築
フェラーリになくてはならない“サウンド”は、モーターが発する振動をセンサーで拾い上げ、ここにフィルターやイコライザーをかけることで美しい音色に仕立てたとされる。
フェラーリ初のEVとして登場したルーチェは、フェラーリ伝統の価値を電動化技術で再構築したこのモデルが既存のフェラーリ・ファンにどのように受け入れられ、また新規顧客の獲得にどの程度貢献するのか、興味は尽きない。

文=大谷達也 写真=フェラーリ 編集=新井一樹
(ENGINE WEBオリジナル)