ポルシェが、モータースポーツ用車両の新たな選択肢として「911チャレンジ」を発表した。現行「911GT3」のDNAとレーシング・カーのDNAを融合させ、ロード・カーの技術と充実の安全装備で、本格レースへの間口を大きく広げる1台だ。
ポルシェのGTレーシング・カー、これで全4車種が「911」に
「911チャレンジ」は、ポルシェのモータースポーツ用車両に加わる最新モデルであり、この登場によりポルシェのGTレーシング・カー、つまり国際GT4カテゴリー向けの「911GT4 R」、カレラ・カップなどワンメイク・レース用の「911カップ」、そして国際GT3カテゴリー向けの「911GT3 R」を含む計4モデルは、すべて「911」がベースとなる。

「911チャレンジ」は2025年8月に発表された「911カップ」とは異なり、市販モデルの「911GT3」譲りの技術を数多く採用しているのが特徴だ。エアロダイナミクスに加え、7段のデュアルクラッチ式自動MT、「GT3 RS」由来のレーシング機能を強化したステアリング・ホイール、そしてエアコンも装備する。ABS、トラクション・コントロール、電子制御スタビリティ・コントロールなどの調整可能なドライバー補助システムによって、モータースポーツへの参入がより容易になる。2027年シーズンから「911 チャレンジ」は、世界各地のワンメイク・レースへのエントリーも可能になる予定だ。

ポルシェ・モータースポーツのトーマス・ラウデンバッハは「911チャレンジ」によって、新たな顧客層が「911」によるモータースポーツの興奮を味わえるようになる、とコメント。またセールスを統括するミヒャエル・ドライザーは、ロード・カーの「911GT3」のドライビング体験を、これまで以上にダイレクトな形でカスタマー用のモータースポーツ車両へ与えた点を強調。長い習熟期間を必要とせず、見慣れた911でサーキットへの第一歩を踏み出せるとし、モータースポーツ用の安全技術やデータ収集システム、パーツのサポート、技術資料までを一括提供する、1960年代から続くポルシェの原則に従った1台、と説明している。

心臓部は「911GT3」由来の高回転型の4リットル自然吸気の水平対向6気筒で、最高出力は515ps/8500rpmで、最大回転数は9000rpmとなる。リアのサイレンサーはレース仕様に変更されているが、触媒コンバーターは残しつつも、パティキュレート・フィルターは不要とされた。市販の「911GT3」と同じく、ステアリング・パドルによるマニュアル操作も、オートマチックでのシフト・チェンジも選択可能だ。
シャシー面では「911カップ」譲りのレーシング・コンポーネントを数多く採用した。ショックアブソーバーはモータースポーツ専用特性でセッティングされており、標準装備のスタビライザーは3段階の調整式。レーシング・スリック・タイヤは5穴の18インチ・ホイールとの組み合わせで、これは新型「911GT4 R」を踏襲する。380mm径のスチール製ブレーキ・ディスクを用いるレーシング・ブレーキ・システムも「GT4 R」と共通。

主なボディ構成部品は「911GT3」と同一で、標準装備として3基構成のエア・ジャッキ・システムを搭載。リアにはFIA公認のレイン・ランプが追加されるほか、ボンネットは専用のクイック・リリース・タイプ。リア・ウイングは4段階に調整が可能である。

インテリアは公道仕様の「911GT3」との違いがより顕著で、遮音材やカーペット、内張りはすべて撤去された。その代わりに溶接式のロールケージが車体剛性を高めており、クラッシュ時にドライバーを保護する。さらに110リットルの燃料タンク、レーシング・バケットシートと6点式ハーネス、消火システムなど、安全装備にも一切妥協がない。
新しい「911チャレンジ」は、初代「ケイマンGT4クラブスポーツ」や「718ケイマンGT4 RSクラブスポーツ」の後継にあたり、ポルシェのカスタマー・レーシングカーの中で最も手が届きやすい存在となる。主戦場はポルシェ・チャレンジやトロフィーといったワンメイク・レースだ。
気になる価格だが公式な発表はない。「911チャレンジ」はポジショニング的には「718ケイマン GT4 RSクラブスポーツ」に代わる車両だが「911GT3」ベースへと車両自体がグレード・アップしていること、最高出力も515psまで引き上げられていることを踏まえると、少なくとも容易く手に入れられるものではないだろう。

とはいえ、購入者の熱意とサーキットを走りたい、という思いがあるならば、プレミア価格になりがちなロード・バージョンよりも、ずっと手に入りやすい「911GT3」ベースの1台なのかもしれない。
文=上田純一郎 写真=ポルシェ
(ENGINE Webオリジナル)