1936年から38年にかけてわずか4台しか製作されなかったタイプ57SCアトランティーク・クーぺ。このクルマに80年以上にわたり解き明かされていない謎があるのをご存知だろうか?
2019年のジュネーブ・ショーでブガッティ・オートモービルズは、自身の誕生110周年を祝うワンオフ・モデル"ラ・ヴォワチュール・ノワール"を発表した。この超弩級のスーパースポーツがモチーフにしたのが、1936年から38年にかけてわずか4台しか製作されなかったタイプ57SCアトランティーク・クーペだ。
ところで、実はこのクルマに80年以上にわたり解き明かされていない謎があるのをご存知だろうか? エットーレ・ブガッティの息子、ジャン・ブガッティが1934年に発表したT57は、史上最も多く作られたブガッティとして知られている。その数あるバリエーションの中で最も象徴的なのが、1936年のパリ・モーターショーで発表された"Aerolite(エアロライト)"だ。ジャンはそのボディに当時最先端の素材であった航空機用マグネシウム合金エレクロンを用いたのだが、溶接の熱で燃えやすいという欠点があったため、繋ぎ合わせたボディ・パネルをルーフ・ラインに沿ってリベット留めするという奇策を実行。大反響を巻き起こしたことで、素材をアルミに変えて4台の生産型が作られることとなった。このうち#57374はイギリスの銀行家ビクター・ロスチャイルドに、#57473はフランスのジャック・ホルツシュ夫妻に、#57591はイギリスのテニス選手リチャード・ポープにそれぞれ納車された。
残る1台がジャン・ブガッティのために作られた#57453だ。当時のパンフレットをはじめ数々のPRに使われた後の#57453の行方については「ブガッティ・ワークスのウィリアム・グローヴァー・ウィリアムズの手に渡ったところで第2次大戦が勃発。ウィリアムズが英国に帰国後フランスに置き去りになった」とか、「戦時中メカニックが乗りフランスからの逃避行に使われた」とか「ナチスに接収された」など諸説あるが、記録上は1938年から行方不明で、80年以上経った今でも手がかりすら見つかっていない。もし今、#57453が姿を現したら……1億ユーロ以上の値が付けられても不思議ではないという。
文=藤原よしお
(ENGINE2019年5月号)
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