荒井 新型BMW3シリーズの印象をみんなで話し合う前に、この特集の意図をもう一度、編集長から説明してもらいましょう。
村上 BMWの3シリーズと、アウディA6という輸入セダンの主力選手の新型がほぼ時期を同じくして上陸するのを機に、もう一度セダンの復権をはかろうじゃないかということです。
荒井 クールでカッコイイと。
村上 クールでカッコイイというのは、見た目はもちろん、使い勝手が良くて、走りも気持ちいい。その3つを全部合わせて考えると、セダンはいまだクルマ界の中心選手だという主張をしていきたい。いま輸入SUVのブームが起きているけれど、あれだけ大きくて、背が高くて、重ければ、運動性能はセダンより落ちるわけだし、使い勝手で言えばスポーツカーやクーペは到底4ドア・セダンに及ばない。セダンは最もバランスがとれたクルマだと言える。
新井 若い人にとってはオヤジが着るジャケットみたいなイメージがある。
村上 そうではないセダンというのを、僕たちは推していきたい。この特集で扱う12台のセダンはどれもオヤジ臭くはなく、本当にクールでカッコイイ。新型BMW3シリーズはその代表選手でしょう。僕はあまりにも立派になったことに驚いたけどね。車格が上がったというのが第一印象。
新井 ボディが大きくなりました。全長は4715㎜、全幅1825㎜、全高1430㎜。ホイールベースは先代から40㎜伸びて2850㎜。
齋藤 BMW3シリーズはそもそも前席を優先した小型サルーンであることをずっと守ってきた。
荒井 初代は2ドア・セダンだった。
齋藤 そう。4ドア・セダンが登場した2代目も最初は2ドアとしてデビューしたんだけど、メルセデス・ベンツ190が出るっていうので、大慌てで4ドアを追加した。後席が狭くても許してね、その分スポーティになってますからというのが、3シリーズだった。
新井 後席の広いのが欲しい人は5シリーズをどうぞと。
齋藤 ところがライバルのアウディA4がバーンと全長を伸ばして、イッキに後席の不満を解消した。
新井 先代3シリーズが出る前です。
齋藤 メルセデス・ベンツCクラスも現行型で全長を伸ばした。3シリーズも先代で後席をどうにかしなくちゃというのをやったけれど、まだできるだけ全長は短くしたいという意図が見えた。ところが、新型3シリーズは完全にそのタガが外れた。ライバル4台に実際に座ってみたら、驚いたことに新型3シリーズが一番広い。
村上 全幅もいままでは1800㎜でおさめようとしていた。4代目の5シリーズと比べても、新型3シリーズの全幅は広い。
荒井 昔はコンパクト・サルーンなんて言ってたのに。
齋藤 今回試乗したのは330iMスポーツだったこともあるけれど、外観も迫力が増した。バンパーのエア・インテークの形状とか、もうほとんどM3並みの迫力。
村上 昔のM3の方がもっとおとなしかったよね。羊の皮を被った狼とか言ってたけど、もういまは見た目がすでに狼。
荒井 インテリアで驚いたのは反時計回りのレヴ・カウンター。ドライバー・オリエンテッドはどこへ行った? と思った。
齋藤 いままではアナログを模した液晶だったけれど、もうアナログを模すことを放棄している。
新井 スピードメーターとレヴ・カウンターの間に自動運転の情報とかを出すというのが前提のデザインで、いまの段階でレヴ・カウンターをちゃんと見せるというのは二の次になっちゃったんだと思う。
齋藤 メルセデス・ベンツもアイパッドみたいなメーターになった。ドイツのメーカーは、完全自動運転の世界になったときには、デジタル表示の概念が変わるということを見据えている。場合によっては内装の壁面に出したりするということを想定に入れたりして。どうやってそこに向かっていくかというフェイズにもう入っている。
村上 AI(人工知能)を使ったヴォイス・コマンド・システムのほか、狭い道に迷い込んだときにボタンを押すと、来た道を綺麗にトレースしながらバックするという機能もある。視認性の悪いレヴ・カウンターになったのは、インパネ周りに関しては“走り派”より“デジタル派”が勝利したということかな。それでも運転席に座れば、ドライバー・オリエンテッドな感じはきちんと残っていた。
齋藤 ダッシュボードの造形とかね。
新井 3シリーズだと思って期待して座ると、まさしく3シリーズの世界が広がっていた。
齋藤 新型3シリーズのインテリアとエクステリアはリンクしていると思った。真円のアナログ・ライクなメーターがなくなったし、ヘッドライトのイカ・リングもなくなった。
荒井 ワイド&ローで、ドーン!としたシルエットだよね。
村上 新型3シリーズは見た目からして、車格が上がったということがわかるんだけど、同じことが走りにも言える。重厚な走行感覚はいままでの3シリーズが持っていたカジュアルな木綿のシャツみたいな感じではなく、ビシッとスーツで決めたよう。
一方で、スポーツ性能も破格に上がっている。僕は海外試乗会でM340iというMパフォーマンス・モデルにサーキットで乗った。そのときに新型3シリーズの本質は、ここにあるんだなと目から鱗が落ちるみたいによくわかった。パフォーマンスがイッキに上がっている。サーキットを平気で走れるぐらいの、セダンになっている。
齋藤 今回僕たちが乗った330iMスポーツの2リッター直4ターボは最高出力258ps。自然吸気3リッター直6相当の出力を持っている。Mスポーツ・サスペンションに加え、オプションのファスト・トラック・パッケージと19インチ・タイヤを備えているから、Mパフォーマンスに限りなく近い仕様だった。
はっきり言って、乗り心地はシビック・タイプRより硬い。「うわあ、これ気持ちいい!」って、溜飲が下がるのは、日本ではサーキットだけだと思う。
新井 ルノー・スポールの域です。
村上 脚は硬いけど乗り心地は悪くないって書いている雑誌もあるけど、正直言ってそれはウソ。僕たちはハッキリ言ったほうがいい。この仕様では乗り心地は悪いです。飛躍的に上がったパフォーマンスを支えるシャシーには、それだけのポテンシャルが必要だということ。それぐらいレベルの高いクルマになっている。
新井 シャシーは先代の進化型ですけど、ボディはすごく一所懸命やったとエンジニアが言っていた。
荒井 5シリーズ、7シリーズとシャシーは違うんだっけ?
新井 3シリーズは独自のシャシーでリア・サスの形式も違うし、後輪ステアもない。(村上)剛性感がすごいよね。
齋藤 大きくなって、ポテンシャルも上がっているからね。ボディは相当強くなってるでしょう。先代の3シリーズはサスペンション系のポテンシャルで、ジャガーXEやアルファロメオ・ジュリアに負けてたからね。ライバルがそこに力を入れてきたならBMWはさらに上を行くしかない。
新井 重心も下げましたからね。
齋藤 先々代の3シリーズもMスポーツのサスペンションはすごく硬かった。ロールしないでグイグイ鼻が入る。次のモデルチェンジでおおらかに脚を動かす柔らかい設定に変わった。今回はまた"ロールなんかさせませんよ"というものになった。先々代から乗り換えた人は、こんなに速くなって、こんなにスポーティになったと思うかもしれないけど、先代から乗り換えたら、ビックリすると思う。
新井 結局、320iのスタンダードが来て、どうなのか? という話じゃないですか?
齋藤 新型BMW3シリーズとはどういうものか? というのを、そのポテンシャルを極端なカタチで見せてくれたのが今回乗った330iMスポーツだと思う。なんてったって、3代目のM5ぐらい速いから。いわゆる僕たちが街乗りで使う3シリーズの本当のところはどうなの? というのは、320iが来てみないとわからない。
荒井 320iにはスタンダードと、さらに装備が省かれた受注生産のSEというモデルがある。どちらもタイヤは205/60R16。
新井 これが標準サスペンションになるわけです。320iにもMスポーツがある。つまり脚に関しては標準、Mスポーツ・サスペンション、Mスポーツ・サスペンションに電子制御ダンパーを加えた3種類がある。330iにはMスポーツしかない。
齋藤 想像だけど、標準サスの320iは日本で乗るとスポーティで、乗り心地も円満で、いわゆるスポーティ・セダンというものにバチンと合うものだと思う。
村上 新型3シリーズのシャシー性能が上がっているから、余裕があって、すごく気持ちのいい感じで走れる可能性はとても高いよね。前後席差別のない等しく快適に過ごせる4ドア・サルーンになったし、320iに乗れば、全方位的にクラスがひとつ上がったクルマになっていると感じるんだと思う。
荒井 330iMスポーツのファスト・トラック・パッケージは、ちょっと特殊すぎて、これをもって3シリーズ全体の良し悪しを言えないかもしれないけれど、BMW3シリーズがあくまでもスポーティなサルーンであることを軸にしていることは間違いないと感じた。
齋藤 いま、このクラスのセダンにフォーマル性というものが求められなくなった。フォーマル性が求められるのはもっと上のクラスでしょ? 安いということを売りにするクラスでもない。そうなると、武器はスポーツ・イメージしかない。だからメルセデス・ベンツはAMGラインが中心になってきたり、アウディがアウディ・スポーツを正式に立ち上げたりした。昔、このクラスのセダンをスポーツ・セダンなんて言ってたのは、BMWだけです。
新井 あと、当時斜陽だったアルファ・ロメオぐらいですか?
齋藤 だから、BMWとしてはライバルがスポーツ・イメージで攻めてくるなら、さらに先へ行くしかない。
村上 そう。だから今回のクールなセダンというのは、実はスポーツ・セダンなんだよ。はじめに言ったとおり、見た目と、使い勝手と、そして何より運動性能が上手くバランスしているセダン。それがクールなセダンで、新型BMW3シリーズに乗って、改めてそう思った。
話す人=村上 政編集長+齋藤浩之+荒井寿彦+新井一樹 写真=望月浩彦
BMW330i Mスポーツ
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
PR | 2024.12.12
CARS
SUVに求められる要素をしっかり満たしている 新しくなったルノー・…
PR | 2024.12.06
CARS
純内燃エンジン搭載のプレミアム・コンパクト・スポーツ、アバルト69…
PR | 2024.11.27
CARS
14年30万kmを愛犬たちと走り抜けてきた御手洗さんご夫妻のディス…
2024.12.04
LIFESTYLE
現実となった夢のカメラ 焦点距離43mmのライカQ3が登場 超高性…
2024.12.02
CARS
順調な開発をアピールか? マツダ次世代のロータリー・スポーツ、アイ…
2024.12.09
LIFESTYLE
特等席はカウンター シェフが目の前で鍋を振る割烹のような料理が楽し…
advertisement
2024.12.07
パ・リーグ新人王・武内夏暉投手 とりたての免許と初めての愛車 夢のカーライフがスタート!
2024.10.18
冒険心があるなら誰でも一度は乗ってみたい憧れのクルマ 総合15位はこのSUV! 自動車評論家44人が選んだ「2024年 身銭買いしたいクルマのランキング!」
2024.12.04
現実となった夢のカメラ 焦点距離43mmのライカQ3が登場 超高性能レンズ、アポ・ズミクロンを搭載!
2024.12.09
ホンダWR-Vとどう違う? スズキの新しいBセグメントSUV、フロンクスに自動車評論家の森口将之が試乗!
2024.12.05
プラモ好き、集まれ! タミヤ プラモデルファクトリー 新橋店がリニューアル デジタルでは味わえないリアルな模型の楽しさとは?