■今回のENGINE編集部メンバー
村上 政編集長/齋藤浩之/塩澤則浩/上田純一郎
上田 今回は新型アウディA6が登場です。上陸直後のためナンバーが付いておらず、伊豆の日本サイクルスポーツセンターのロードコースを占有して試乗しました。
村上 僕はすでにポルトガルの国際試乗会で乗ってたんだけど、今回のクールなセダンというテーマにドンピシャなのは、BMW3シリーズよりアウディA6の方かもしれない。
塩澤 現行のアウディの中でクールという言葉が似合うのはA7とA6かな。A8はちょっと違う気がするし、3シリーズと同じクラスのA4は、また違うニュアンスが入ってくる。
齋藤 A4も大きくなっているんだけどA6に比べるとひとまわり以上小さい。そうすると遊びがない。やらなくてはいけないことをきっちりやって、そぎ落としている感じがする。
村上 余裕みたいなものがない、と?
齋藤 そうだね。あと、アウディの中でA8とA4はそれぞれキャラクターが立っているというか、これはA4、これはA8っていうものがあった。けれど先代A6はどこかつかみ所がなく、印象が薄かった。
(村上)確かにちょっと陽の当たらない存在というか、堅実ではあるけれど、やや地味だったよね。だけど新型A6は違う。
齋藤 ただし、ベタじゃないんだよ。
村上 そう、A7ほどわかりやすくない。アウディの持つアンダーステートメントの要素は残しながら、新たなカタチを作り上げている。
齋藤 A7は見るからに、私はスポーティですって主張している。反対に先代A6は、色気がなさすぎた。
村上 でもそれは先代だけじゃない。先々代だってそうですよ。
上田 そのさらに前のオールロードクワトロが登場した世代は、けっこうクールだったと思います。モダンでフューチャリスティックだった。
齋藤 でもあの世代だけだよね。A6っていわれて、ぱっと姿形がちゃんと思い浮かぶのは。
上田 特にお尻の造形。フェンダーとトランク・フードとライトの面がきれいにまとまっていて、ほかと明確に違って、でもアウディだっていう存在感があった。新型A6はそれを思い出させる雰囲気がある。
村上 やっぱりアウディのセダンのいちばんのポイントというか、見所っていうのは、押しの強さと、控えめな部分とのバランスが絶妙なところにあると思うんだよ。派手過ぎても地味すぎても駄目。そこのサジ加減がすごく微妙で、難しい。もしかしたら上田君のいう世代のA6はそのサジ加減が絶妙だったのかもね。新型はデザイン言語としては全然違うものになっているけれど、すごくうまく決まった感じがある。
上田 新型A6はA7みたいにテール・ランプを左右でつなげていなかったり、基本のアウディの姿は残してある。でも、よく見ると違う。
村上 A7とA6のデザインは、とにかくデジタル技術を駆使している。しかし、その一方でアウディはクレイモデルをすごく重視していて、それで最終的な線や面を決めている。そして、さらに、いつ、どこからの光でどう見えるか、シミュレーションもしている。停まっている時だけでなく、走らせたらどうなるか、ほかのクルマに対しどう見え、どう映り込むか、いろんなことを試している。アナログとデジタルの融合だよね。そこに、ちょうどいいバランスが取れた要因があると思う。いわゆるデジタル一辺倒なクルマではないよ。柔らかい線とか、アコースティックな感じが随所に感じられる。クールそうに見えて冷たくはない。温かみみたいなものはどこかに残っている。
塩澤 絶妙だよ。アウディってバウハウスや、ミース・ファン・デル・ローエのレス・イズ・モアの精神を受け継いでいるようだったけど、その段階は終わって、新たなアウディ像を模索してきた。で、色々なチャレンジを経て、やっと今後のアウディを象徴するカタチができつつあると思う。リア・フェンダーなんか、ボリューム感に驚かされるよね。
齋藤 試乗車のような暗いメタリックだと、フェンダーのきれいな抑揚とか、わずかだけどちゃんと膨らみがあるようなところが、何かの拍子にぱっと映えて、すごくいい。オーバーフェンダー的な造形って、例えばQ5とかは、どこから見てもそれが一番最初に目に入る。A6は逆だよ。ふとした時にはっと気がつく。ようやくいい落としどころを見つけたんじゃないかな。新しいA6は佇まいに存在感があるよ。
村上 いっぽうインテリアも一気にデジタル化された。だけど、やっぱりアコースティックなぬくもりみたいなものをどこか感じさせるようなところもある。かなりデジタル色が強いけれどね。
塩澤 相当強いでしょ、これは。
村上 A7もそうだけど、これまでダイヤルを使ったMMIをあれだけ強調していたのに一気にやめた。代わりに大きな液晶が都合3枚そそり立っている。だけどBMWの3シリーズが従来のメーターのデザインを一掃したのとは違って、A6はサイズを変えられるとはいえ、アナログ計器を模したメーターを残している。やっぱりアナログとデジタルの融合をすごく考えている気がする。少なくとも我々の世代は、3シリーズよりA6のメーターの方が安心感がある。
上田 ボタン1つでほとんど地図だけにも切り替えられますけどね。
村上 でも、小さくてもちゃんとメーターと針があるんだよ。
上田 古典的ですが、一瞬で速度を認識できますからね。
村上 そういうデジタルとアナログの融合した見た目の感じと、乗った印象もよく似ている。すごくクールだけど温かみのある乗り味だと思った。
上田 340PSの3リットルV6エンジンも、7段のデュアルクラッチ式自動MTも、基本はA7と同じです。
村上 クワトロ・システムも同じで新世代の後輪への駆動を完全に切り離せるタイプ。
齋藤 それなのに、見た目と同じでA7ほどベタじゃない。A7は「私は今、スポーティな中型サルーンに乗っています」というのが走っている間ずっと伝わってくる。
村上 A6の方が控えめで冷静。
齋藤 よりアウディらしいんだよ。
塩澤 アウディというものをぎゅっと凝縮しているのはこのA6やA7かもしれないね。数が出るのはA3やA4だろうし、A8になると最新最先端の技術をぜんぶ突っ込んでいるのかもしれないけれど……。
齋藤 ショーファー・カーだからね。
塩澤ドライバーズ・カーとして見ると、A8はちょっと違う。
齋藤A7がパイロット・モデルとして先行し、ほぼ最初に見つかった改良点みたいなものは全部改良した状態でA6は出てきた。すごくこなれているというか、いきなり最初からA7より完成度が高い気がする。
村上 いちばん思ったのは、いいもの感だよね。品質感。スムーズネスみたいなもの。本当に、まったくこう、何もひっかかるところがない。あとはデジタル化だよ。インフォテインメントだけじゃなく、クルマの動力性能に関わる部分に、ものすごく新しいデジタル技術が入っている。BMWやメルセデス・ベンツもすごい勢いでやっているけれど、アウディのほうが、入り方がよりナチュラルで、嫌みがない感じがした。例えば、後輪操舵の使い方がすごく上手い。最小回転半径はA3とA4の間だっていうからね。
上田 狭いコース内だと、齋藤さんの乗るA6はUターンできても、カメラ・カーは全然曲がれなかった。
齋藤 低い速度域だけじゃない。ロードコースの奥のヘアピンみたいな、本当にタイトなコーナーは、後ろが逆相になっているのが分かる。クルンと回るから。お尻が積極的に外へ出て行って回り込む。
塩澤 滑っているかのように。
齋藤 グリップはしているけどね。
上田 でもルノー・メガーヌのスポーティ・グレードみたいな、回り込みすぎるような感じはしない。
塩澤 きっとクルマのデジタル化選手権みたいなことをやったら、ドイツ御三家は最先端を行っている。それぞれ特徴があって面白いんだけど、その中でアウディはよりナチュラルな方向にしようとしている。
上田 理由の1つは一番進んでいるからだと思いますよ。デジタルの使いどころが分かっているというか。
塩澤 気になるところを見つけるのがなかなか難しいクルマだった。
齋藤 強いて言えば、見た目最優先で履いていた21インチ・ホイールかな。もしこのエンジンに対して標準サイズの19インチで、試乗車のようにオプションの電子制御式ダンパーを組み合わせていたら、隠し味でスポーティが入っていて、しかもどーんと直線を安楽に走ることもできつつ、しっとりまったりした乗り心地も確保できたと思う。それなら見た目と乗った感じがより整合性がある。試乗会場は基本自転車のための場所だから、うねりとか穴が空いていることはないんだけど、アスファルトのひび割れを補修した目地段差はあって、それを拾ってしまう。
村上 そうかもしれないね。ちょっとスポーツの匂いがしていた。
齋藤 硬いエッジは取れているけど一般道を走ると気になると思う。我慢できないほどじゃないから、絶対に大径ホイールがいいっていう人は、それを受け入れるしかない。
村上 国際試乗会では日本市場に設定のないエアサス装着車にも乗ったけど、一番良かったのは今回の試乗車と同じ仕立てだった。ただし、タイヤは20インチだったけどね。減衰力が固定の機械式ダンパー装着車も乗ったんだけど、けっこう柔らかいから、峠道はちょっと……。
上田 日本仕様だとデビュー・パッケージに相当する仕立てですね。
齋藤 それはそれで柔らかいなりに整合性があるからいいと思うけどね。だけど、もう1つのSラインに相当する硬い方の機械式ダンパーは、もうマジモンだからね。
上田 でも、アウディのその手の仕立てが好きな人は、ある一定数いらっしゃるんだそうですよ。
齋藤 だからこのクラスのクルマを買うなら、寿命や交換コストや、故障を心配して一発決めの脚を好む人もいるけれど、もう電子制御式ダンパーを受け入れざるを得ない。
村上 昔はともかく、故障したって話を聞いたことがないよ。すごく技術的に成熟したものになっている。
塩澤 もう1つ気になったのは、新しいクワトロ・システムかな。試乗当日はけっこう雨が降っていたからね。
齋藤 ドライブシャフトを完全に切り離して、基本はFFだといいながら、けっこういろんな状況でトルクを後ろに流している。今回は後輪の駆動を完全に絶つような状況にはほとんどなっていないと思う。
上田 僕は試乗会場までずっと後輪駆動のギブリに乗ってきたから、A6の自然な安定感には驚いた。
齋藤 でも従来のクワトロのような、常に積極的に後輪が掻いているものとも違う。だからといってFFのアウディとは全然違う。
村上 後輪駆動感はない。
齋藤 でも前輪駆動感もない。
塩澤 でも、それが気持ち悪いとか嫌だとは、一切思わなかった。
齋藤 結果的なトラクションはすごくあるんだよ。前には進む。
塩澤 安心感もある。
齋藤 でも後輪駆動のぐっと後ろ脚で蹴上げる感じがない。前輪駆動のなんとしても前で掻こうという感じもない。今までのアウディの常にギアがかみ合って、4つ脚で掻いていく感じもない。不思議なクルマだ。
村上 トルクステアが出ちゃうような感じも全然ない。
齋藤 全体の印象がさらっとしていいる。そういう意味でもクールだ。エンジンもそう。今回ドイツの3台はみんな3リットル過給エンジンだったけど、A6はほかの2台に「何をそんなに血眼になってやってるの?」って言っているみたいだった。姿形も、走りも、いろんな意味で新しい。
村上 新境地だよね。
齋藤 A7やA8に端を発した新時代のアウディは、この新しいA6で1つにまとまったんじゃないかな。
写真=郡 大二郎
■アウディA6 55 TFSIクワトロSライン
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