新型アウディTTの日本発表から1か月後、ドイツから残念な知らせがもたらされた。それはTTの終焉。アウディの年次株主総会の席でアウディ・ブランドの会長を務めるブラム・ショット氏の口からTTを現行型で終了することが明らかになった。代わりに同じ価格帯でTTのように魅力的な電気自動車の投入が示唆されたものの、1998年にデビューし、秀逸なデザインで多くのファンを魅了したコンパクト・クーペは残念ながらその役目を終える。もちろん当面は生産が継続されるが、現行型が内燃機関最後のTTということだ。
今年の春にメルセデス・ベンツもSLCの生産終了を発表したし、BMWもトヨタがスープラで相乗りしてくれなければ3代目Z4を出すことは叶わなかったというウワサもある。ユーノス・ロードスターで再燃したコンパクト・スポーツ市場だが、どうやら受難の時代がやってきたのかもしれない。
これが最終モデルとなる新しいTT。このクルマの魅力はやはりデザインだ。初代譲りの丸みを帯びた特徴的な外観もさることながら、3世代目で目を惹くのは内装である。最新のインフォテインメント機能を成立させるために、インパネの一等地に大きな液晶パネルを鎮座させるクルマが多い中、TTは液晶メーターにその役割をもたせることでインパネの中央に液晶パネルを排除。さらに空調スイッチもセンターの吹き出し口にビルト・インすることで、他のクルマとは一線を画すスッキリとして個性的なデザインに仕立てている。
今回の取材車はTTS。標準仕様とRSの間に位置する"S"モデルの一員で、TTRSが未導入の現在、日本のトップ・グレードとなる。アウディのSモデルはS4をはじめ、好感度の高いモデルが多い。速さだけではなく、上質かつバランスの取れた大人の走りが魅力だ。
ところがTTの"S"はハードコアとまでは行かないものの、その乗り味はけっこう硬派。その仕立てはラグジュアリー・クーペではなく、スポーツカーそのものだ。ステアリングの操舵力が重く、また脚が硬めなこともあって、軽やかにコーナーを駆け抜けていくというよりはグイッと力でねじ伏せていく感じ。286㎰/38.8kgmの2.0ℓターボは4気筒なのになぜか5気筒のような独特のエンジン音を奏でるのだが、アウディお得意の4WDの助けを得て、どの速度域からも鋭く気持ちのいい加速を見せる。
3世代、20年以上に亘って愛されてきたTTも、新車で手に入れられる期間は残り僅か。この個性的なデザインを愛でたいなら早めに決断した方がいい。ただしスタイル重視なら、Sではなく素のグレードがオススメ。
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文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=郡 大二郎
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