雄大かつ荒涼な南米チリでの初試乗から1年。アウディが初めて送り出すSUVクーペ、Q8に日本で乗れる日がやってきた。SUVクーペの先駆者であるBMW・X6は先日発表された新型ですでに3世代目を数えており、出遅れた感は否めないものの、ここから一気に巻き返しを図りたい、というのがアウディの本音だろう。
Q8のイメージ・カラーはドラゴン・オレンジと呼ばれる鮮やかなちょっと濃い目のオレンジ・メタリックだが、この色はチリでたっぷりと見ていたので、取材車にはナバーラ・ブルーを選んでみた。ちょっと緑色が混じった紺色はアウディの落ち着いた面を強調するいい色だ。
デザイナー曰く、「後発にもかかわらずライバルと同じスタイリングでは意味がない」ということで、ルーフ・ラインはX6やメルセデスGLEクーペのような大きな弧を描いた、いかにもクーペ然としたものではなく、1980年代前半に登場し、WRC(世界ラリー選手権)で活躍したアウディ・クワトロをモチーフにQ8オリジナルのデザインを構築。 同じくアウディ・クワトロからヒントを得たフェンダー上部に特徴的な峰を持つ、"クワトロ・ブリスター"と呼ばれる前後のワイド・フェンダーとともに、ライバルとは違うQ8、そしてアウディにしかできない独自の世界を作り出している。格子模様を取り入れた新しい意匠のシングルフレーム・グリルを含め、今のアウディの中で一番イケているデザインではないだろうか。全長4995㎜、全幅1995㎜といったようにボディ・サイズはそれなりに大きいものの、無駄にデカイ印象はない。全高の違いによる影響もあるが、アウディA6アバントよりも小柄に見える。もちろん実際は100円パーキングに入れると枠からはみ出そうなほど大きいのだけれど……。
室内の広さもQ8の特筆すべき点だ。ベース・モデルのQ7と比べると全長は75 ㎜短いが、ホイールベースは2995㎜で同値。若干Q8の方が小柄とはいうものの同じようなボディ・サイズでも、3列シートで大人7人が乗れるQ7に対し、Q8 は5人乗車の2列シートだから広くて当たり前ではあるが、後席は足元がリムジンのように広いし、ロングルーフ・デザインにより頭上空間もSUVクーペながら窮屈ではない。荷室もキャンプはもちろんのこと、一人暮らしの引っ越しならこなせてしまうのでは? と思えるほどの容積を有しているのだ。
日本に導入されるQ8は48Vのマイルド・ハイブリッドを組合わせた3・0ℓV6ターボに常時駆動式の4WDを組み合わせた55TFSIクワトロのみ。チリで試乗した高出力版の50TDIをはじめ、とりあえずディーゼルは用意されない。1000m以上の標高差を一気に駆け上が るような特殊な道路環境のチリでは太いトルクを活かしたディーゼルの方がいいかなと思ったが、ガソリンも日本で乗るとそれに勝るとも劣らぬほど好印象だった。340ps/51.0kgm のV6は2200㎏の車体をフル・スロットルを躊躇させるほど軽々と加速させるし、アクセレレーターに対する反応も鋭い。このレスポンスの良さと高回転域での気持ちよさ、さらに掛かっているかどうかわからないほど静かなエンジン音はディーゼルでは成し得なかったガソリンだけの魅力と言えるだろう。
取材車のSラインには空気バネのサスペンションが標準で備わるが、その走り味はけっこうスポーティ。ロールをガッチリと抑え込むような設定ではないもののその動きは自然だから、コーナーを気持ちよく駆け抜けることができる。高速道路を巡航するよりも、山道でステアリングを右に左に操っていた方がQ8の良さが味わえるかも。オプションの後輪操舵を付ければ取り回しも想像するより苦ではないし。
クーペ・ルックのスタイリッシュな外観、A8も真っ青の広い後席、A6アバントを上回る高い利便性など、アウディの上級モデルのいいところがギュッと凝縮されている。SUVクーペというと流行りモノの印象を受けるかもしれないが、中身で選んでも間違いない。
アウディQ8 55 TFSI クワトロ Sライン・パッケージ
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文=新井 一樹(ENGINE編集部) 写真=郡 大二郎
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