2019.08.05

CARS

スポーツカー史に残る傑作! 17年ぶりに復活したトヨタのFRスポーツ、スープラ

BMWとの協業によって永い眠りから目覚め、再び市場に舞い降りたスープラ。スポーツカーはもとより自動車そのものが転換期に差し掛かる中に登場した5代目は、日本だけでなく世界に名を残すような功績をスポーツカー史に刻むことになるだろう。


村上 エンジンでは久々の日本のスポーツカー大特集。本当に久しぶりで、日産GT-RとレクサスLFAが出たとき以来だ。


齋藤 どっちも大きく取り上げたね。


村上 スープラの登場はその台以来の衝撃と言っていい。久々に日本のスポーツカーが大注目を集めているけど、今回2台の現象は凄く面白いと思う。なぜならスープラは日本のスポーツカーと言っても、日本のスポーツカーではないから。トヨタのクルマをBMWが開発した。


大井 いや開発はトヨタもしている。だからBMWと共同で開発したトヨタのスポーツカーということになる。


上田 トレッド、ホイールベース、重心高はトヨタが提案して、エンジンや変速機といった主要な部位はBMW製を用いている、と先月号の試乗記で大井さんは書いてます。


齋藤 ある意味ではZ4がBMWでありながらBMWでないとも言える。


新井 トヨタがスープラの開発を持ちかけていなければ、新しいZ4は開発されなかったと言われています。


村上 最初、BMWは相手にしなかったらしい。ところが一転、やっぱりやろうということになったというんだな。その結果、17年ぶりにスープラが復活することになった。


齋藤 そしてZ4も延命した。


村上 つまりトヨタとBMWの協業のおかげで、2つのスポーツカーが生まれることになった。その結果、蓋を開けてみれば大人気。6月末の日本での受注台数は約2200台。なお6月までにデリバリーできた台数はたったの8台だから、残り2192人が待っている。


大井 作った張本人のトヨタが売れないと思っていたってこと?(笑) 


パワートレインはすべてBMW製。340psの3.0ℓ直6ターボはRZに、258psの2.0ℓ直4ターボはSZ-Rに搭載。このほかにSZ-Rのデチューン版となる197psの2.0ℓ 直4ターボがSZ用に用意される。変速機はすべてZF製の8段AT。
タイヤはRZとSZ-Rでトレッド幅は共通だが、ホイール径が異なる。ブレーキ・キャリパーはSZ-Rがスライディング式なのに対し、RZには4ポッド対向式が奢られる。
横基調デザインのインパネはBMWのスイッチを流用しているものの、デザイン自体はスープラ独自のものとなる。
インパネ中央の液晶パネルはZ4よりもひと回り小さい8.8インチ。主要部分に液晶パネルを用いたメーターはZ4のような未来志向ではなく、指針式を模した意匠となる。
荷室容量は290ℓ。天地は浅いが、ゴルフバッグは収納できる。
シートは表皮と調整機能が異なるものの、形状自体は全グレードで共通。RZとSZ-Rは革とアルカンターラのコンビで、ボディ色にかかわらずRZは赤と黒、SZ-Rは黒のみしか選べない。RZは全面革仕様も選べるが、その場合はステアリングやセンターコンソールを含め、すべて黒一色となる。ちなみに廉価モデルのSZは黒のファブリック仕立て。

村上 Z4ともども、生産はオーストリアのマグナ・シュタイア社に委託しているため、おいそれと増産できないのは痛い。その結果、7月4日時点に注文すると、2020年2月以降の工場出荷となる。


新井 日本に来るのは来年の3月か4月ってことですね。


村上 これだけ日本のスポーツカーでクルマ好きが色めき立つということはいいニュースだよね。


大井 今、日本とアメリカ以外に、500万円以下で買えるスポーツカーなんか存在しない。


齋藤 マツダ・ロードスターや86とBRZの姉妹が200万円中盤で買えたり、200万円以下の軽スポーツが2台もあるという日本が特別。


村上 日本はそういう部分をずっとやってきた。その文化が終わりそうになってきたところに、まさかのBMWとの協業で、しかもトヨタから生まれたというのは大きなこと。エ
ンジンとして特集を組むだけのインパクトのある事態だと思う。


齋藤 全く違う会社同士が共同開発して最後までうまく行って商品化された例はそれほど多くない。


村上 同じグループ内ではいろいろ出てきているけれど、今回はトヨタとBMWというまったく違う国の、まったく違う会社が組んで形にしたことは称賛に値するんじゃないかな。


大井 スープラの話を聞いたとき、Z4に屋根を付けただけのものだと思っていたけど……。


村上 スープラは独り立ちしたすごくいいスポーツカーになっていた。


大井 いい意味でBMWテイストが残っていて、BMWで作っているから、いろんなものがBMW臭いわけですよ。それがいい味を出している。


村上 乗って驚いたのは、今までのトヨタのスポーツカーとは全然違うこと。だけど、完全にBMWかというとそういうものでもない。


大井 実際にベースのディメンションが決まって、基本的な要件が定まってからはまったく相談なしに開発を進めたという話。開発途中でも「そっちはどう?」みたいな交流はなかったらしい。


齋藤 俺達は俺達、あんた達はあんた達って感じだ。


日本の山道にドンピシャ

村上 スープラのデザインについては賛否両論あるみたいだけど、今回初めて実物をマジマジと見て、かなり独創的でカッコイイと思った。とりわけ、リア・フェンダーの造形が素晴らしい。ちょっとクラシックなデザインを狙っているんだろうけど、相当頑張ったと思うな。


大井 僕は前が未だに馴染めないけど。でも、最初は「何じゃこりゃ」と思ったけど、乗った印象が良かったので、そのあとは良く見えてきた(笑)。


齋藤 フォトジェニックなクルマではないよね。実物の方がずっといい。タイヤの位置とか、キャビンの大きさとか、オーバーハングの長さとか、昔のTVRに似ている。表面は今風だけど。


村上 ディテールのデザインが複雑で、うるさい感じがあるけど、パッと見た印象はそんなに悪くない。


大井 最初はもっとBMWなのかなって思ったけど、Z4を隣に並べて比べると、内装はスイッチ類こそそのまんまBMWだけど、レイアウトも違うし、座った景色も違った。


村上 かといってトヨタ車とも全然違う。単純に方向指示器が左にあるというだけではなく、周りに見える雰囲気とかがなどとは別物。まず乗った時のタイト感はびっくりした。


大井 86よりもタイト感は強いけど狭くはない。


齋藤 あとガラス面積がすごく小さく、ウインド・スクリーンも今のクルマにしては立っている。


大井 Z4に乗るとわかりやすい。ウインド・スクリーンの上端がロードスターよりも前にあるから。座ったタイトな感じからするとすごく運転し難いのではと心配したけど、際は狭いところでもラクラク。4輪の位置感覚もわかりやすいし。そして何と言っても乗り心地がいい。


齋藤 大井さんと行った試乗会場の周りの道はずっとうねっているような、鋭くはないんだけど連続して入力が入り続けるような路面だったんだけど、6発はノーズがヒタッと収まって横にだけ動く。そういう挙動を見せる日本車は今までなかった。そんな第一印象が期待値をドーンと上回っていたから「これスゲーちゃんとしてるじゃん」という話になった。


村上 あとボディ剛性がメチャクチャ高い。


齋藤 プラットフォームがオープン・ボディで成立するように作られているところに屋根がくっ付いているんだから、そりゃ有利だよね。


大井 サイド・シルはビックリするほど高い。乗り降りはちょっと苦だけど、この剛性のためならと思える。


村上 今までのトヨタ車にはない剛性の高さ。


大井 ボディが安っぽくない。そしてダンパーがまたいい仕事をしているんだ。本当にしなやかで上質。とくに低速の乗り心地がいい。


齋藤 試乗会では低速のワインディングしか走れなくて、常にステアリングを90度以上切るような状況ばかりだったから、中心付近でゲインがキュッと立ち上がる神経質な感じもわからなかった。


村上 僕はずいぶんピキピキ動くスポーツカーだと思ったな。


大井 低速コーナーだと気持ちよくクルマがついてくる。その速度域ではピキピキな感じは出ない。でも今回、もっとスピード・レンジの高いコーナーを走ったら、ピキピキだった。ニュルブルクリンクだったら、手にも脇にも汗を掻くだろうな、と。


齋藤 日本の山道で一般的な九十九折れみたいなところだとすごくいい。速度レンジが上がり、舵角が小さくなると神経質なところが出てくる。ポルシェ911を上回る!?


村上 ハンドリングが6気筒と4気筒で全然違うのにもびっくりした。4気筒の方が軽くて気持ちいい。


齋藤 それはあるね。でも、試乗会の連続したうねりでは4発の方はノーズが正直に上下に煽られて、「横の動きが軽やかなのはいいんだけど、これではな」と思った。しかし、今回乗ったらその感じは一切出なかった。


大井 試乗会のときより今回の方が6発と4発で乗り心地の差は少なかったのは確かだね。


新井 4発の圧倒的な軽さは魅力的だと思いましたが、クルマ全体のまとまりは6発の方が良かったですね。もちろん軽さを求めて4発を買っても後悔することはありませんけど。


齋藤 なぜなら4発もBMWだから。ガサガサ、ギスギスが一切なくてまろやか。6発に負けてない。


村上 4気筒で200万円安いなら、4気筒でもいいと思ったな。積極的に乗り味が好きだから4気筒を買いたいと思わせる独自の魅力があった。


齋藤 4発であろうが6発であろうがエンジンのフィールがリッチ。


大井 ノーマルのままで乗るなら、SZ-Rを選んだ方がいいけどね。SZだといろんなものが付かない。


齋藤 電子制御ダンパーとか、電子制御LSDが付かないし、タイヤはランフラットになるし。


村上 車重はどのくらい違うの?


齋藤 4発の方が70㎏軽い。


大井 しかもそのほとんどが前だね。


村上 それにしても本当にトレッドが広い。それでいてこれだけホイールベースが短いから動きが独特なスポーツカーらしいものになっている。


齋藤 スープラの主査である多田さんが、「スポーツカーのキモはトレッドとホイールベースの寸法比なんです」って力説していた。スープラのトレッドに対するホイールベースの短さは現在スポーツカーの中で2位なんだって。1位はポルシェ992。リア・エンジンでホイールベースを短くできるポルシェ991を上回るんだから、相当思い切ったショート・ホイールベースなんだよ。残念そうだったもんね、992に抜かれて。


大井 残念というよりも、ポルシェ911もそっちの方向に行ったんで、「ほらね」とドヤ顔だった。


村上 それに座っているところはかなり後輪に近い。


新井 でも前輪が遠い感じは薄く、ロールの中心が後ろにある感じはしないんです。


齋藤 ロードホールディングも高い。


大井 ただ、スポーツカーって全員がその性能を引き出すわけではないけど本物であって欲しいと願う人は多いはず。そう考えたときに、ニュルで手や脇に汗を掻きそうというのはスープラとしてはいかがなものかなと思う。ただ、86も後期型でかなり進化したから、スープラも今後煮詰めていけば良くなるとは思うけどね。


齋藤 ピキピキ動くのは多田さんの好みなんじゃないの?


大井 トヨタ車でチーフ・エンジニアの匂いがするという時点でいい。それが自分の好みとあっているかどうかは置いておいて。


齋藤 背景に居る人間が見えるというのはトヨタとしては極めて稀。


大井 それって、ステキじゃない。


やるじゃん、トヨタ

村上 このスープラは間違いなく傑作だよ。GT-Rが出た時とはまた違う衝撃があった。GT-Rは普通に乗って気持ちいいというものではなかったけど、スープラは普通に乗って気持ちいい。とくに4発はね。


大井 今後の熟成を期待しながら見守っていきたいクルマだ。


村上 日本のスポーツカーにはGT-Rがあって、NSXがあって、RC-Fがあって、ロードスターがある。その仲間の中でいうとロードスターに寄った、極めてオーソドックスな日本のスポーツカーだ。GT-Rは日本を代表するスポーツカーだけどすごく特殊だよね。NSXもそう。


齋藤 NSXは未来カーだよね。今後の主流になるかもしれないけど。


村上 スープラは日本のスポーツカーが進むべき道を、ロードスターがやってきたようなオーソドックスなところに戻した点に意義がある。


大井 しかもちゃんとこだわりを持っていて、安いんだからしょうがないだろうという妥協がない。


齋藤 元のクルマがよくないとあーだこーだ言う気も起こらない。これだけいろいろな意見が出るってことはそれだけクルマがいいってこと。


村上 今回スープラが出来たのは「BMWのおかげでしょ」と言えばそのとおりなんだけど、BMWを上手く使ってやったと思えば、「やるじゃんトヨタ」ってことだよね。


齋藤 そういう意味で言えば、トヨタの企画力の勝利。BMW側から声を掛けたわけではないんだから。


村上 とにかくベースとしてすごくいいクルマが出来たのは間違いない。このクルマを大事に育ててほしいし、我々受け手もこのクルマのいいところをどんどん宣伝していきたいよね。


話す人=村上 政+齋藤浩之+新井一樹+上田純一郎(以上ENGINE編集部)+大井貴之 写真=郡 大二郎


駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動


全長×全幅×全高 4380×1865×1295㎜
ホイールベース 2470㎜
トレッド 前/後 1595/1590㎜
車両重量(車検証記載前後重量) 1450 ㎏(前720 ㎏:後730 ㎏)
エンジン形式 直列4気筒DOHC16V直噴ターボ
総排気量 1998cc
ボア×ストローク 82.0×94.6㎜
最高出力 258ps/5000rpm
最大トルク 40.8kgm/1550-4400rpm
変速機 8段AT
サスペンション形式 前/後 ストラット式/マルチリンク式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 255/40ZR18 95Y/275/40ZR18 99Y
車両価格(税込) 590.0万円


トヨタ GRスープラ RZ


駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4380×1865×1290㎜
ホイールベース 2470㎜
トレッド 前/後 1595/1590㎜
車両重量(車検証記載前後重量) 1520 ㎏(前780 ㎏:後740 ㎏)
エンジン形式 直列6気筒DOHC24V直噴ターボ
総排気量 2997cc
ボア×ストローク 82.0×94.6㎜
最高出力 340ps/5000rpm
最大トルク 51.0kgm/1600-4500rpm
変速機 8段AT
サスペンション形式 前/後 ストラット式/マルチリンク式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 255/35ZR19 96Y/275/35ZR19 100Y
車両価格(税込) 690.0万円


(ENGINE2019年9月号)

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