塩澤 ジャパニーズ・スポーツカーは今どうなっているのかがテーマでスバルBRZの登場です。ロード・インプレッション的なことは試乗したBRZについて語るのがいいと思いますが、
ニッポンのスポーツカー的視点から語るときは、双子車の86も含む86BRZとして話してもらうのがいいと思います。で、実は僕的にはこだわりたいテーマがあるんですけど。
大井 ほう、何ですか?
塩澤 よくFRは運転が楽しいというけれど、ホントにそうなのか。何でそんなことをいうのかと言えば、卓麻が何年か前にプライベート・カーをWRXからBRZに乗り換えたでしょ。
そのとき、「なんで?」って聞いたら「運転が楽しい方がいいから」って言ったの覚えてる?
大井 勝手にスバルからクルマが届いたからなんじゃないの?
鎌田 届かないです(笑)。自分で中古のBRZを買いました。なんでかっていうと、WRXって楽なんですよ。ターボが付いてるし、後席にドアもあるし、トランクもある。
それがたまに仕事でBRZに乗ると、やっぱり自分が乗りたいのはこうだよなって思った。自然に走りたくなるし、箱根やサーキットに行きたくなる。やっぱりこういうクルマに乗るべきだと。
大井 とてもラリー・ドライバーとは思えないお言葉(笑)。
鎌田 楽して移動してラリーに出ている自分に、ふと疑問を感じた。これではダメだと。でも、今回現行モデルのBRZ・STIスポーツに乗ってよくわかった。あの頃のBRZってノーマルのままではお世辞にもイイとは言えなかったけど、
現行型の完成度はFRしては相当高い。リアのスタビリティは更に高くなって、辛い思いをしなくても済むFRですよ。乗り心地は硬いと思うけど。
大井 なんと言ってもFFや4WDに真似できないのは重量配分でしょ。
鎌田 何をおっしゃいます。BRZだって56対44くらいですよ。
大井 え? けっこうフロント・ヘビーなんだ。
鎌田 あまりそう感じないのは旋回軸が後ろ寄りにあるからですよ。
大井 ま、前後重量配分って、あくまでも車検証上の静止した状態のものだからね。走っているときは別ものですよ。E46のM3ってあの当時スーパー耐久に出てたんだけど、
ピットインのたびに、まるでFFみたいにフロント・タイヤを交換してた。実は止っているときの重量配分はあまり当てにできない。
塩澤 ぶっちゃけな話、86BRZって、いわゆるテールハッピーなクルマなんでしょうか?
鎌田 程度にもよると思うけど、テールハッピーというほどではない。テールハッピーなFRっていうと昔のAE86とかをイメージするかもしれないけど、FRの考え方もどんどん変わっていて、
別のモノになってると思いますよ。昔AE86でラリーに出てた人がいまの86BRZに乗ると、リアのスタビリティが高すぎて上手く運転できないくらいですからね。
大井 86BRZって、たとえば前後重量配分はフロントが激オモだし、リアのサスペンションはストロークが全然ないし、水平対向エンジンで重心が低いって、この水平対向はそんなに重心は低くないぞって、
突っ込みどころ満載なんだけど、パッケージングとして絶妙にまとまっている。86BRZではスーパー耐久も出たし、北海道の氷上トライアルも走ったし、ジムカーナもやったけど、文句なく楽しかった。
鎌田 だって筑波サーキットを走ったらWRXより速いですから。
大井 マジ?
鎌田 チューニングしたクルマですけどね。ノーマルだと1分12秒くらいだったのが、1分フラットにはなる。これだけチューニングで速くなるクルマもなかなかない。
↑STIスポーツ(6MT)の室内。基本デザインは他のモデルと変わらないが、ほとんどの装備が標準で備わる。アルカンターラと本革のスポーツ・シート(シートヒーター付き)も標準装備。ステアリングやインパネやドア・トリムにはSTIモデルを示す赤いステッチが入る。
↑2ℓ水平対向4気筒の自然吸気エンジンは、6MTモデルは207馬力で6ATは200馬力となっている。
↑STIスポーツに標準で装備されるブラック塗装の18インチホイール。ブレーキはブレンボ製の17インチ対向4ポット(フロント)でこれも標準装備。タイヤは215/40R18のミシュラン・パイロット・スーパースポーツ4を履く。そのほか写真では見えないが、ザックスのダンパーとSTIのコイルスプリング、STI製の補強パーツなども標準で装備される。
塩澤 国産のFRスポーツカーって、いまなにがあるのかというと、マツダ・ロードスターと86BRZ、日産フェアレディZ、それからトヨタ・スープラ。これだけですよね。
大井 これだけという話もあるけど、世界のどこを探しても、庶民が手を出せるような価格帯の後輪駆動車がこんなにある国って、実は他にない。
塩澤 スポーツカーがないと言いながら、実は日本はスポーツカー大国だった。しかもその主軸がFRというところがすごい。
大井 もっと言うと、輸入車のスポーツカーは大排気量、大パワーのクルマばかりでもはや走らせるところに困るような状態になっている。しかも当然、価格も高い。
最近出てみんなを感動させたアルピーヌのA110も一声800万円もする。一方、日本はスープラでさえもっと安い。
塩澤 実は幸せな状況なんだということを実感しなければいけない。
鎌田 86BRZって、最初出たばかりの頃って、パワーがなくて非力だってさんざん言われたけど、いまはみんな言わなくなりましたよね。
大井 それって結局パワーがないことの楽しさや気持ち良さがわかったからだと思う。実はロードスターは30年前からその世界観でやってきた。
ライトウエイトというのも大事だけどパワーがないというのも重要な要素になっている。さっきも言ったように最近のスポーツカーはどんどん速くなっている。
たとえばパワフルで速いクルマで箱根を走るとするでしょ。そうするとアクセルを踏むことよりも戻すことばかりを考える。でもこれが、パワーがないと踏んで行ける。やっぱりそれが楽しい。
鎌田 非力だけど、いま86BRZはサーキットでもダートでも速いですよ。ロードスターはレギュレーションでダートは走れないから、FRでダートを走ろうとすると選択肢は86BRZしかない。
大井 しかし、あんなにリア・サスペンションのストロークが少なくて、ダートが速いというのはどういうわけなの?
鎌田 単純にリアのトラクションがあるからじゃないですか。
大井 でもトラクションに重要なのはストロークでしょ。
鎌田 少ないストロークのなかでもトラクションが出るようにチューニングされている。その上すごいバンプインなんですよ。
塩澤 バンプインって何?
大井 沈み込めば沈み込むほどトーインが大きくつく。
鎌田 ブレーキングするとノーズダイブするじゃないですか。そうするとリアはトーアウト方向に変化してハンドルを切るとギュッと曲がる。で、滑り出したと思ってアクセルを踏むと、リアが沈み込んでトーインになって安定して前に出る。
塩澤 つまりリア・ステアのようなことが起こっている。
大井 まあそういうこと。
鎌田 踏めば踏むほど安定するタイプのクルマ。ダートでも人気があるのはそういうクルマだからですよ。でも、これがホンダのS2000だったら、いまみたいなFR人気はなかったかも知れない。
塩澤 それはどういうことでしょう。
大井 S2000は運転が難しいからね。アッと思ったときはスピンしてるか刺さってる。86BRZの方がずっとコントロールしやすい。
鎌田 それに何よりもクルマと対話している、クルマを操っている感じがするところがいい。FFだとこうは行かない。
塩澤 ん~、なんだかFRが欲しくなってきた。
話す人=大井貴之+鎌田卓麻+塩澤則浩(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦
スバルBRZ STIスポーツ
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