マイナーチェンジを受けたレクサスRC F 。レースで培ったノウハウを投入するとともに、新たにカーボンで武装した軽量モデルもラインナップに加わった。日本プレミアム・ブランドが誇るスポーツカーの実力は? advertisement
荒井 トヨタ・スープラ、ホンダNSXに続くのは、レクサスの高性能スポーツ・クーペ、RC Fです。RC Fは2014年にデビュー。現行型は2018年にマイナーチェンジを受けたモデルです。2019年1月のデトロイト・ショウでお披露目、日本発売は5月だから出たばっかり。
塩澤 前後のホイール・ハウスにダクトを設けたり、20㎏軽量化したりと、レースで培ったノウハウを取り込んだ。エンジンの出力も上がり、ロンチ・コントロールも付いた。
荒井 しかも、我々が試乗したのは、最も過激なパフォーマンス・パッケージ。エンジン・フード、ルーフ、フロント・スポイラー、リア・ディフューザーなどにカーボンを用いるほか、ブレンボ社製カーボン・セラミック・ブレーキ、4連チタン・マ
フラーで武装する。ノーマルより50㎏軽い。価格はノーマルより約400万円高い1404万円。
齋藤 500馬力級のライバルは、BMW M4クーペが1185万円、メルセデスAMGC63が1235万円、アルファ・ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオが1132万円。
大井 僕の知り合いがRC F買った。もう、サーキットをバリバリに走る人。M4クーペと迷わなかったの? って聞いたら、1185万円も払うのに、3シリーズ・セダンと同じ内装はあり得ないって。RC Fはオッケー。
齋藤 インテリアにものすごく比重を置くお金持ちって多い。たとえば、僕たちがアルファ・ロメオ・ステルヴィオのクアドリフォリオに乗ると、エンジンがすごいとか、この重心の低さはなんだ! ということに心惹かれるわけだけど、ドアを開けて「ノーマルと同じ内装はなし」って、踵を返す人って少なくない。
荒井 トヨタはそれを良く知っている。まずお客さん目線がある。
大井 だって、軽量化やるんだったら、まずシートでしょう。ポルシェだったら、カーボンのバケットになって、ドアの内張が簡素化されて、ドア・ノブはヒモになる。
塩澤 でも、大井さんの知り合いは、あの赤いゴージャスなレザー・シートが刺さったわけでしょう?
大井 そうそう。一番スゴイやつ持ってきてって言う人は、ペラペラのバケット・シートだったら「バカヤロー!」でしょう(笑)。
荒井 私はロックン・ローラーなので、あのV8サウンドでもうOKです。ヨロシク。
大井 あれ、イチコロだよね。
齋藤 あのエンジンは初代トヨタ・セルシオのときに開発したV8の末裔なんだよ。
塩澤 80年代後半に開発されたんだけど、RC FのようなドロドロというV8サウンドは一切なかった。静かで振動も小さく、ボンネットに40脚のシャンペン・タワーを作り、ベンチ・ローラーで240km/h出しても倒れないというCMがあったほど。
齋藤 あのシューン! と回ることで我々の度肝を抜いたV8が、巡り巡っていかにもアメリカ人が喜びそうなドロドロ・サウンドを出す高出力ユニットになったのが面白い。
大井 低回転で走っているとV8だなあというのを感じさせてくれ、上へ回すとバランスの良さに驚く。
塩澤 そもそも自然吸気V8というのが珍しい。
荒井 まず、チューニング違いでレクサスLC500。それからマセラティのクーペ、コンバーチブル。「在庫があれば」のシボレー・コルベット。
齋藤 メルセデスAMGもV8だけど、ツイン・ターボだからね。北米におけるメルセデス・ベンツの主力商品はCクラスで、そのトップ・モデルとしてV8ツイン・ターボを積んだC63がある。
大井 AMGみたいなのを作れ! というのは絶対あったと思う。
塩澤 それはそう。メルセデス・ベンツにはAMG、BMWにはM、そしてアウディにはRSがある。プレミアム・ブランドとして、レクサスにはFが必要なわけだから。
齋藤 トヨタはメルセデス・ベンツをすごく意識している。クルマ作りがBMWやアウディ的ではない。
荒井 RC Fの乗り味は確かにAMGっぽい。
塩澤 僕は幸せだなあと思って運転してた。
一同 おおー。
塩澤 だって、少し前まで“国産スポーツカーはもう絶滅した”なんて言われてたんだよ? そもそもアメリカを意識して作られたものかもしれないけれど、5リッターV8の国産クーペに、いま乗れる幸せ。貴重な体験ですよ。
大井 やっと、という感じ。グローバルな時代になった。そうなると、スポーツカーを持っていない、というわけにはいかない。
荒井 トヨタはおカネあるなあと思った。こういうものを余裕で作る。マツダ・ロードスターで「清貧」という言葉を思い出したんだけど、まったく逆。カーボンでもなんでも持って来い! カネならある! という感じがした。
塩澤 よく言うよ! ロックン・ローラーのくせに。
齋藤 マツダ・ロードスターと対極にあるよね。
塩澤 質素なマツダ・ロードスターと豪華なRC Fを両方味わえるんだから、日本人で良かった。
大井 雰囲気はすごいよね。エクステリアのチューニングなんか、これでもか! って。
荒井 さっきも話が出たけれど、お客さんが何を望んでいるのかを、トヨタはよく研究している。レクサスのスーパースポーツ、LF-Aは開発陣が高みを目指した結果のクルマだと思うけれど、RC Fはマーケティングがまずある気がする。
齋藤 LF-Aなら成瀬 弘さん、日産GT-Rなら水野和敏さんの顔が見える。RC-Fはそこがちょっと希薄だよね。LF-Aとの共通点は魅力の中心がエンジンだということ。LF-AはV10だから素性が違うけれど、どちらも自然吸気で回して気持ちいい。ターボ過給を採用するライバルたちに対して、軽々と息をしているような気持ち良さと、雑味のない音に関しては、断トツにいい。
塩澤 そこは本当にぬかりがない。
齋藤 プラットフォームはIS Fと共通なんだけど、基本はトヨタ・マークXやクラウン系。もし、専用設計のプラットフォームだったら、大化けしたかもしれない。
大井 マイナーチェンジ前のモデルにサーキットで乗ったんだけど、脚が硬すぎて、路面状況が直接ボディに影響する。タイヤへの荷重も変化して、運転するのが大変だった。新型はサーキットで脚がどのぐらいしなやかに動くのか? 試してみたい。
齋藤 僕はパワー・ステアリングに違和感があった。ハナが重いのは仕方ないんだけど、司令塔としてのステアリング・フィールが頼りない。
大井 エンジンが素晴らしいからね。周りはもっと頑張ってと思っちゃう。はっきり言いましょう。マセラティの4.7リッターV8よりパワー感あります。
齋藤 昔の大排気量V8はトルクでドーン! と押し出す感じだけど、ずっと洗練されている。単なる懐古趣味のクルマじゃない。だからこそ、エンジンを輝かせるチューニングをやって欲しい。
大井 ノスタルジックな感じになっている現状がもったいない。
塩澤 あちこちからいろいろ言われたんじゃないかな? サーキットに寄せれば、やりすぎだと言われ、ラグジュアリーに寄せれば、走りはどうした? って。
荒井 開発ボスの顔というより、お客さんの顔を想像する。そこはすごく日本的だと思う。
齋藤 ここまでいい意味で“トゥー・マッチ”なことをやっていながら印象が薄い。その分、伸びしろが大きい。
塩澤 大化けして欲しいよね。
話す人=齋藤浩之+塩澤則浩+荒井寿彦(以上本誌)+大井貴之 写真=神村 聖
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