初代にあたるC10型スカイラインGT-Rの登場から数えて、今年は50周年のアニバーサリーとなる。途中2度ほどブランクがあったものの、その間、この名前が日本のクルマ好きにとって格別なものであったことに疑いはない。
とかく商品展開において日本市場を軽視しているといわれる日産だが、GT-RそしてZと、足元には世代を超えてその価値を共有できるスポーツカーのビッグネームを2つも従えているわけだ。
17年型として内外装意匠を含めたビッグ・マイナーチェンジを受けたGT-Rは、このタイミングでさらに改良を重ねた20年型にスイッチした。
標準車もタービンの吸気側ハウジングにアブレダブル・シール加工を施し充填効率を向上、エンジン及びトランスミッション制御も見直しレスポンス向上を果たしたほか、ダンパーやブレーキ・ブースターのチューニングも改められるなど細かくリファインの手が入っている。
20年型において、それ以上の変貌を遂げたのがもう1つのGT-Rであるニスモだ。動力性能面ではタービン側のインペラのブレード形状を最新の解析で最適形状とし、翼数を1枚少なくし、翼端に背板を設けることで重量を14.5%低減しながらより高い過給レスポンスを実現している。が、エンジンのスペック的には600ps&66.5kgmと変化はない。
これは20年型GT-R全体のテーマである、単なる速さだけでなく人の感性に応える気持ちよい応答を目指し、そのためにトータルバランスをより高い次元に到達させることを目指したためだという。つまりは600psをいかに使い切らせるかにフォーカスしたともいえる。
20年型ニスモの最大の特徴は素材置換による軽量化だ。上屋ではフロントフェンダー、ボンネット、トランクリッド、そしてルーフをカーボン化し、先代に対して約10㎏の削減、レカロ・シートの骨格構造見直しで5㎏以上の削減、そしてバネ下ではブレンボ製カーボン・セラミック・ブレーキ・システムの採用で13㎏以上削減と、合わせて30㎏の軽量化を達成したという。何より、バネ下重量の軽減はクルマの印象を一変させるほどの変貌にひと役かっていた。
この軽量化に合わせて、足まわりは17年型でもスーパーハードだったスプリング・レートをリア側のみさらに締め上げており、一方でダンパーは緩める側にセットアップしたという。
これは17年型で拘った車体前後の減衰特性を均一化するという方針と、パフォーマンス向上との折衷点として編み出されたものだという。
リア側を締めた1つの要因となっているのはコーナリング・フォースが5%向上したことだ。これはコンパウンドで7%のハイグリップ化を果たし、接地面積を11%拡大させたタイヤの構造見直しが大きく作用しており、旋回性能をフルに引き出すための施策ということになる。
↑反射防止のアルカンターラなどは従来と同じだが、左右別形状だったシートはレカロ製カーボンバックの専用開発品に変更。
↑クリーン・ルームで匠が手組みする3.8ℓエンジンに組み合わせるターボ・タービンはGT3レーシング・カー用。
↑ブレンボとの共同でブレーキ・キャリパーも新たに開発。発売は10月を予定。
なにより20年型ニスモのパフォーマンスで驚かされたのは走り出しからのタウンスピード、そしてアウトバーンといった公道領域でのマナーの良さだ。
激しい突き上げや轍による揺すりといったGT-Rがゆえの乗り心地のキツさはすっかり影を潜め、車体は努めてフラットに路面に追従していく。大入力ではさすがにバネやスタビの硬さをもろに映し出すが、日常的なライド感は進化した20年型の標準車と比べても大差ないと思えるほどだ。
もちろんサーキット・スピードでのレスポンスもしっかりと向上を果たしている。旋回時の鼻先の入り方やアンダーステアの度合いは新型では明らかに軽い。
パワーオーバーにはやすやすと持ち込めないほど4輪の接地感は極まっているが、さらにアクセレレーターを踏み込んだ際のテールの動きの穏やかさやリニアさは、初期のGT-Rにはなかったものだ。
制動力の持続性やコントロール性も違和感はなく、とんでもない速度域の中でさえ操る楽しさを優しく味わわせてもらえる余幅が備わっている。それは登場から12年の月日を熟成に費やし続けたゆえに辿り着いた丸さだろうか。
ともあれ初期型を知る人ならば、やり尽くした完遂感をしかと感じ取ってもらえるだろう。それほどの進化を遂げていることは間違いない。
文=渡辺敏史
日産GT-Rニスモ(2020年モデル)
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