ポルシェは初のフル電動スポーツカーを開発するにあたって、見た目はもちろん、走りに関しても紛うことなきポルシェであることを目指したという。そのために市販車として世界で初めて採用されたのが、通常の400Vではなく、800Vという飛び抜けた高電圧を使った電気駆動システムだ。
そのおかげで、瞬時に最高のパフォーマンスが発揮できるのみならず、0-200km/h加速を何度も繰り返しても性能が落ち込まないような、本物のポルシェに求められるべき高い水準の走行性能を得ることができたという。そして、それと同様に重要だったのが日常的な使い勝手に大きく影響する充電時間の短縮だ。
直流(DC)の高出力充電ネットワークを使えば、5分で最高100㎞走行可能なエネルギーを充電できる。また、バッテリーの充電状態5%から80%までチャージするのに、最短22分30秒しかかからないというのだ。単に速いだけでなく、その速さを持続できて、さらに日常的な使い勝手にも優れるのが、本物のポルシェというわけだ。
セルだけで450㎏、ケースも合わせると650㎏もあるバッテリーを床下に配することにより、911よりも低い重心を実現している。後席の床下部分に窪みを設けているのは、後席に座る人のフット・スペースを確保するための苦肉の策だとか。電池は韓国のLG製。ただし、生産工場はポーランドにあり、なによりもデリバリーのために排出されるCO2もトータルな環境負荷に計上されることを考慮して、選んだという。
Cd値0.22を達成するため、まずはコンピューターの3D技術によるシミュレーション、続いて3分の1モデルでの900時間にも上る風洞実験を経た上で、さらに約1500時間を実物大モデルでの風洞実験に費やしたという。フロントではインレットから取り込んだ空気をホイールハウスから出してエア・カーテンを作り、気流を整えている。排気管のない床下は完全にフラットで、リアには巨大なディフューザーも装備される。
タイカンのモノコックは他のポルシェの市販モデルと同じくスチールとアルミによる適材適所のハイブリッド構造を持つ。ピラーまわりやクロスメンバー、フロアなど中央部にある構造上重要な部分にはスチールを使い、前後トランクのリッドやフェンダー、ドアにはアルミニウムを使って軽量化を図っている。
タイカンは前後アクスルにひとつずつ計2基の永久磁石同期モーターを持つ。これはフロントのモーターのカットモデルで、上部に装備される箱はパルス制御インバーター。タイカンの電気モーターは独自の"ヘアピン巻き"の採用でより多くの銅をコイルに巻き込み、同じ体積のまま出力とトルクを増加させているという。
リアアクスルにはモーターと合わせて2段のトランスミッションが装備される。これはそのカットモデル(上)と分解図(下)。1速ギアは主にスポーツないしスポーツ・プラス・モードを選択している時に使われ、ローンチ・コントロールによるスタンディング・スタートでもその威力を発揮する。2速ギアはフロントのプラネタリー・ギアと同じ8対1のギア比を持ち、これにより最高速度の260㎞/hを実現する。
文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=ポルシェA.G.
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