「キング・オブ・スプマンテ」と称される、FERRARI(フェッラーリ)。イタリア大統領官邸の公式晩餐会でサーブされるほか、イタリアのモード界やモータースポーツ、サッカーなど華やかなシーンで登場するスパークリング・ワインである。そのフェッラーリの産地TRENTO(トレント)に、9月中旬、幸運にもシャルドネ収穫の真っ只なかに訪れた。
ミラノからクルマで約2時間半、ドロミティ(Dolomti)山塊を望むトレントは、四方を山に囲まれた平地にある。澄んだ乾いた空気で、初秋でも朝晩は10度を下回る。フェッラーリのブドウ畑は、その山々の中腹、標高400〜700mにあって石灰岩質の地質を持つ。ちょうどフランスのシャンパーニュと同じような気候・地質なのだという。
案内してくれた農学者のGiulio Manica(ジュリオ・マニカ)さんは、このブドウ畑の特徴についてこう語る。
「地下60cmまでは、水はけがよい乾いた土で、その下は水を蓄える地質になっています。灌漑システムもありますが、これまで使ったことがないほどブドウ栽培に適しているのです。2年前には、すべての自社畑がオーガニック認定を受け、さらに質の高いブドウ作りを目指しています」
収穫はすべて手摘み。スタッフは一房一房を手で包むようにして丁寧に扱うが、そのスピードは想像以上に速く、あっという間にバケツがブドウでいっぱいになる。そして麓のワイナリーへ運ばれ、収穫から数時間以内にプレス作業が始まる。
「今年のブドウは、花が咲く時期に寒かったこともあって、収穫量は少なくなりますが、とてもよいコンディションです。ただ、今は多くの畑で一斉に収穫期を迎えたので大忙しです」
マニカさんに「食べてみて」と言われ、ブドウをいただく。小ぶりな粒だが実はしっかりしていて、味は濃く、美味しい。このブドウがスプマンテとして飲めるようになるのは、最低2年以上先である。
年間540万本を生産する巨大なワイナリーには、多くのステンレスタンクが並ぶ。自社畑だけでなく、600もの契約農家のブドウもここに集まる。高品質で安定した味わいをキープするため、量にかかわらず、一つのタンクに一区画のブドウ果汁が入れられ、それぞれの出来栄えをチェックしながら一次発酵を進める。
ワイナリーの一角に古いワインセラーがあり、半世紀前のヴィンテージ・ワインも並ぶ。澱をとってラベルが貼られ製品化されたワインだけでなく、澱をとる前の仮蓋のままのワインもある。フェッラーリでは、それぞれの経年変化も研究しているという。ちなみに、前者はコクと深みが増し、後者は半世紀前のワインでもフレッシュさが感じられるという。機会があれば、ぜひ味わってみたい。
文=山元琢治(ENGINE本誌) 写真=増田岳二 通訳=田中小百合 協力=日欧商事
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