21世紀に入り欧州にも押し寄せた SUVの波。それにすっかり乗り遅れていたのがPSAだ。ほんの数年前までPSAのSUVといえば、一般的なSUVとは一線を画す独特なスタイルの初代プジョー3008と三菱からのOEM供給車しかなかった。
ところが2014年のシトロエンC4カクタスの登場で潮目が変わる。プジョー、シトロエン、DSという多ブランド戦略の強みを活かして、SUVのラインナップを一気に拡張。市場の隙間を埋め尽くすようにたくさんのSUVを送り込むドイツ勢にこそ敵わないものの、フランスとイタリア勢の中では断トツの品揃え。今やPSAの主軸はSUVと言っても言い過ぎではないほどまで、その勢力は拡大した。
もちろんその勢いは欧州だけに留まらない。日本においてもPSAのSUVラインナップは日に日に大きくなり、市場でも大きな注目を集めている。その火付け役となった新型プジョー3008 / 5008を中心に販売もすこぶる好調だという。そんな日本市場にまた新たなPSA発のSUVが加わった。それがこのシトロエンC3エアクロスSUVだ。
C4カクタス以降のシトロエンは秀逸なデザインのクルマを連発しているが、C3エアクロスもその例に漏れていない。思わず笑みがこぼれるような愛らしさに溢れるものの、子供っぽくは見えない絶妙なデザインはとても魅力的だ。
どれがヘッドライトかわからない独特のフロント・マスクをはじめ、外観はC3のイメージを色濃く残すものの、ボディが大きくなって表現するスペースが増えたからか、C3よりも味わい深くなっているように見える。
そんな華のあるデザインをさらに際立たせているのが、ヘッドライトの縁、ドア・ミラー 、ルーフ・レール、リア・クォーター・ウインドウがボディ色と別色になる"カラー・パック"。それがデザインの上でとても良いアクセントになっている。オレンジの挿し色を効果的に配した内装もカジュアルで明るい雰囲気で好感度は高い。
C3エアクロスを買う動機はデザインだけで十分だろうと思いつつ乗ってみたら、魅力はそれだけではなかった。シトロエンお得意の乗り心地がこれまたいい味を醸し出していたのだ。
C3エアクロスSUVは、先に発売されたDS3クロスバックに用いられているCMPと呼ばれる最新のプラットフォームではなく、C3と同じ旧来からのものを用いている。さらにC3よりも重心が高く、車重も100kg以上増えているので、乗り心地についてはあまり期待していなかった。
ところがである。もちろん、高い車高と重い車重を支えるためにC3よりも乗り心地自体は硬めなのだが、乗り心地と安定性のサジ加減がすごくいいのだ。ブッシュを柔らかくすることで路面からの入力を緩和し、バネとダンパーも安定性を失わないギリギリの線まで緩めて乗り心地の悪化を極力回避。
さらに、スタビライザーを適度に締め上げてロールを抑えコーナーでの安定性を確保といったように、それぞれの部位に最適かつ最大限の仕事をさせることで、C3エアクロスが持っている能力を如何なく発揮できるようにしてある。これぞまさにセッティングの妙。プロの仕事と言っていい。
変速機は最新の8段式ではないが、110馬力1.2ℓ直3ターボ+6段ATもいい働きを見せる。シャシーに対して速過ぎるわけでもなく、かといって遅過ぎもしない。ここのバランスもちょうどいいのだ。以前よりもトルコンの設定がタイトではなくなり、適度に滑ることを許容するようになったので加減速の滑らかさが増しているのもポイントだ。
ハイドロリック・サスペンションやC5エアクロスSUVに用いられている新機軸のダンパーなど、シトロエンの乗り心地に関する技術には昔から定評がある。しかし、シトロエンの乗り心地の良さはそれだけで作られているわけではない。
このセッティングの上手さもシトロエンのマジック・カーペット・ライド、魔法の絨毯のような乗り心地を生み出す真髄のひとつなのだ。そのことを今さらながらC3エアクロスSUVに乗って再認識した。
シトロエンC3エアクロスSUVシャイン・パッケージ
(ENGINE 11月号掲載)
文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=篠原晃一
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