2019.11.20

CARS

ポルシェ タイカンに海外初試乗 まったくの新感覚、けれど紛れもなくポルシェのスポーツカーだ!

9月4日に世界3カ所の自然エネルギー発電施設を舞台に同時発表されたポルシェ初のフル電動4ドア・スポーツカー、タイカン。その走りを体験できる日がついにやってきた。

ポルシェ初のフル電動スポーツカー、タイカンの国際試乗会は、これまたポルシェの試乗会史上では初めてという乗り継ぎツアー形式で行なわれた。スタート地はノルウェーのオスロ。そこから第1陣はスウェーデンのイエテボリまで。続く第2陣はイエテボリからデンマークのコペンハーゲンまで、といった具合に欧州の各地を巡り、最後の第11陣はポルシェの本拠地シュトゥットガルトに至る、9カ国、6440㎞を18日間かけて駆け抜けるグランド・ツーリングになっていたのだ。


これだけでもポルシェがこの新型車にかける意気込みが分ろうというものだが、広報担当者によれば、今回は何よりも、電気自動車でも十分に旅ができることを証明したかったのだという。立ち寄り先には、欧州の人たちがよく行くスキー・リゾートや観光地が選ばれており、実際にバカンスに出かけるシーンと重ね合わせることができるように、11のツアーが組まれていたわけだ。


そのうち日本チームが参加したのは、インスブルックからザルツブルク周辺を巡ってミュンヘンに至る第9陣。2日間の行程は天候にも恵まれ、街中から幹線道路、アウトバーンからラリー・コースのような山岳路までを気持ちよく駆け抜けることができた。そしてその旅を終えたいま、私は断言できる。ポルシェはタイカンによって、自動車の歴史の新たな扉を開いたのだ、と。そのくらいタイカンの乗り味はまったくの新感覚のものであり、そうでありながらも、紛れもなくポルシェのスポーツカーであることが、とりわけ山岳路を運転していると伝わってきた。実を言うと、上海で開かれたワークショップに参加して、サーキットでインストラクターの運転するタイカンに同乗試乗した際、あまりに強烈なGの立ち上がりに仰天して、こんな乱暴なスポーツカーを出して大丈夫かと、いささか心配していたのだ。だが、それは杞憂だった。私が運転したタイカンは極めて完成度の高い、素晴らしく洗練されたクルマだった。果たして、それがどこまで言葉で伝えられるか。できうる限り、感じたことをそのまま素直に書いてみよう。



ミドシップのような動き

インスブルックの街からアルプスへ上った所にある高級リゾート・ホテルから東へ。1日目はアルプスの山並みを縫いながら370㎞走ってザルツブルク近くのモンドゼーという湖のほとりの街まで行く。途中、180㎞走った高速道路上のパーキング・エリアで充電とともに昼食休憩を取ることになっていた。


最初に乗ったのは、タイカン・ターボS。前後二つの電気モーターを合わせたオーバーブースト時のパワーは761ps(ターボは680ps)、最大トルクは1050Nm(同850Nm)というスーパーカーなみのスペックを誇るスーパー電気自動車だ。エア・スプリングに可変ダンパーを組み合わせた足を持ち、カーボン・セラミック・ブレーキをはじめ、後輪操舵システム、さらにはオプションとして可変スタビライザーのPDCCスポーツまで装備した超豪華かつ超スポーティな仕様である。


ドアを開けてドライバーズ・シートに収まると、新型911や新型パナメーラとも共通したテイストの、水平ラインのダッシュボードを基調にしながら、そこにT字型にセンター・コンソールを突き刺し、複数の大型デジタル・パネルを配置した、最新ポルシェの文法に則ったデザインのコクピットが目の前に拡がった。他のポルシェと違うのは、独立した湾曲型のメーターパネルが完全に液晶デジタル化され、中央に最後まで残っていたリアルな針を持った大型回転計がついに消え失せたことだ。


ステアリングの左奥にあるボタンを押してエンジンを始動、いや、クルマに通電する。ギアをドライブ・モードに入れようと思ったが、シフト・レバーが見当たらない。パドルもないのでどうしたものか、と思ったら、ステアリングの右奥に小さなシフト・レバーがついていた。これをDに入れてアクセレレーターを踏み込んで行くと、まことに静かに、スルスルとクルマが動き始めた。



ほとんど無音である。かすかにモーターが回るヒューンという音とタイヤが発生するロード・ノイズが聞こえるが、エアサスの乗り心地が素晴らしくいいせいもあって、静かな空間がそのままスルスルと移動していく感覚だ。しかし、それでは応接間で寛いでいるような気分かと言えばまるで違って、同じ4ドア・サルーンでもパナメーラよりもっとスポーティな、どちらかと言えば911に近い運転感覚がある。


フロント・ガラスを通して見える風景は、ほとんどスポーツカーそのものだ。左右のフェンダーの峰がしっかり見えるから見切りが良く、2メーター近い横幅を持つとは思えないくらいコンパクトに感じられる。そして、そもそも着座位置が低いのだが、それ以上に重心がズシンと低い感じが、クルマのちょっとした動きから伝わってくる。なにしろ、ケースも含めて650㎏もあるバッテリーがフロアの下に並べられているのだ。その結果、911よりも重心が低いというのは、なるほどこういうことか、と乗ってみて深く納得した。ミドシップのクルマをさらに洗練させたような、ステアリング操作に対して自然にスッと向きを変えるハンドリングを実現している。


ただし、それでは軽快かと言えば、これが決してそうではないのだ。車両重量は約2・3tもあるのだから、むしろドッシリと重厚な乗り味で、しかしハンドリングは軽快という、その点でもまったく新しい感覚のクルマだと言えるだろう。


ブリッピング音も響かせる

他のポルシェと同じように、タイカンもステアリング上のロータリー・スイッチで、ドライブ・モードを切り換えられるようになっている。モードは、効率重視で前輪のみで走行する場合もあるレンジ、基本設定のノーマル、ダイナミック性能重視の後輪寄りのトルク配分となるスポーツ、車高が22㎜下がり、すべてのシステムがサーキット走行に最適な設定となるスポーツ・プラス、そして、自分好みの設定にできるインディビジュアルの5つ。スポーツかスポーツ・プラスを選ぶと、ターボSに標準装備されるポルシェ・エレクトリック・スポーツ・サウンド(ターボではオプション)が、スピーカーを通して、増幅されたモーター音を響かせるようになる。テスト・ベンチに載せたモーターから音をサンプリングし、不快な周波数の音を取り除いて独自のサウンドに仕立てたというのだが、興味深いのはアクセレレーターを踏み込んでいくと、あたかもエンジンの回転数が高まっていく時のようにサウンドがドラマチックに変化していくことだ。ブレーキを踏んだ時には、なんとブリッピングを模した音まで響かせるのには思わず苦笑してしまった。


やがて、道幅が狭く大小のコーナーが連続するラリー・コースのような山岳路に入ると、タイカンはその飛び抜けたダイナミック性能の高さを見せつけた。サーキットと違い路面が決して良くない道では、スポーツ・プラスでは足が硬すぎて走りにくい。スポーツが最適で、まるで水を得た魚のように自在に向きを変え、ニュートラル・ステアでコーナーを駆け抜けていく。セラミック・ブレーキの効きも素晴らしいが、コーナーからの立ち上がりのトラクションも、911ターボもかくやという凄まじさで、呆気にとられるほど速い。しかも運転がし易く、我を忘れるほど楽しい。実は対向車がやってきて初めてクルマの大きさを意識した。運転している時には実際よりもずっとコンパクトに感じられるのだ。


アウトバーンでの走行性能も特筆ものだ。ドーンと加速するのも、200㎞/h以上で超高速巡航するのも、あるいはゆったりと走るのも自在。瞬時に最大トルクが立ち上がる電気モーターにとって追い越し加速は得意科目だ。


昼に充電を終えた後は、ターボに乗り換えたが、正直なところ、ターボSとの間には、ブレーキの効きとタイヤのサイズが異なることによる感触の違いがあるくらいで、速さとハンドリングに関しては、ほとんど違いが感じられなかった。サーキット走行でもしない限りは、大きな違いは感じられないのではないか。


左右のフロント・サイド部分に充電ポートを1つずつ備えており、交流では左右どちらか、直流では右側を使う。800Vでの充電が可能な高圧ステーションでは、電池の残量5%から80%までの充電を22分30秒で行なえる。欧州では、Ionityというジョイント・ベンチャー企業が続々と高圧ステーションを建設しており、すでに150カ所が稼働、60カ所が建設中で、2020年末までに400カ所になる予定だという。
タイカンの荷室容量はフロントが81ℓ、リアが366ℓ。乗車定員は4人が標準だが、5人乗りも選べる。ただし、リアはやや天井がやや低めで圧迫感があり、オプションのパノラミック・ルーフが欲しくなる。

回生ブレーキの凄さ

2日目はモンドゼーからミュンヘンまで323㎞を走った。途中203㎞のところで、1日目と同じように充電と昼食のための休憩がある。


長い間走っているうちに、最初はまったく新しいクルマだと感じさせた室内の静寂やモーターの音、独特の乗り味にも慣れてしまい、これまでのエンジン車とあまり変わらないと思えるようになってきた。そしてやがて、いや、それこそがポルシェがタイカンを開発する上でのキモだったのではないか、と思い至った。


すなわち、まったくの新感覚と、これまでと変わらないポルシェのスポーツカーの走りを同居させること。それはたとえば、回生ブレーキの使い方にハッキリと表れている。ステアリング上にある回生スイッチがオフの時はアクセレレーターを戻しても積極的な回生は行なわず、基本的にコースティング状態となる。だから、たとえばBMWのi3のようにアクセレレーターを戻しただけでブレーキが掛かってワンペダルで走れるようなことはない。たとえ回生スイッチをオンにしても、アクセレレーターを戻しただけでは普通のクルマでギアを落としてエンジン・ブレーキが少し強めにかかるくらいの回生をするだけで、感覚としてはエンジン車とほとんど変わらないように仕立てられているのだ。


しかし、それでは回生能力が低いかと言えばそんなことはなく、最大265kWの回生出力を持っており、なんと日常走行でのブレーキ操作の90%までが実際のブレーキを使うことなく、電気モーターによる回生ブレーキで制動されているというのだ。それでいてブレーキ・タッチに違和感を持つことは一度もなかったのだから、その作り込みの凄さこそが、一番の驚異かも知れないのだ。


試乗車を返す頃になって、2日間走っても、まだまだこのクルマの本質は見抜けていないような気がしてきた。タイカンはそのくらい完成度が高く、奥が深いクルマだと思った


文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=ポルシェA.G.


ポルシェ・タイカン・ターボS


駆動方式 前後アクスルに電気モーター各1つの4WD全長×全幅×全高 4963×1966×1378㎜ホイールベース 2900㎜トレッド(前/後) 1690/1655㎜車両重量 2295㎏バッテリー出力 93.4kWh最高出力(ブースト時) 625ps(761ps)最大トルク 1050Nmトランスミッション フロント1段、リア2段サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/エアスプリングサスペンション(後) マルチリンク/エアスプリングブレーキ(前後) 通気冷却式カーボン・セラミック・ディスクタイヤ(前/後) 265/35R21、305/30ZR21最高速度  260㎞/h航続距離(WLTP) 388-412㎞車両本体価格(ドイツ) 18万5456ユーロ

ポルシェ・タイカン・ターボ


駆動方式 前後アクスルに電気モーター各1つの4WD全長×全幅×全高 4963×1966×1381㎜ホイールベース 2900㎜トレッド(前/後) 1702/1667㎜車両重量 2305㎏バッテリー出力 93.4kWh最高出力(ブースト時) 625ps(680ps)最大トルク 850Nmトランスミッション フロント1段、リア2段サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/エアスプリングサスペンション(後) マルチリンク/エアスプリングブレーキ(前後) 通気冷却式サーフェス・コーティッド・ディスクタイヤ(前/後) 245/45R20 、285/40R20最高速度 260㎞/h航続距離(WLTP) 381-450㎞車両本体価格(ドイツ) 15万2136ユーロ

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