2019.11.21

CARS

電動化に向けたメルセデスの最初の回答、EQCの実力は?

メルセデス・ベンツでCOOL!といったらEQC以外に考えられないだろう。電動化モデルのサブ・ブランドとして立ち上げたEQの第1弾となるこのクルマが、メルセデスの電動化の未来を担っていると言っても過言ではないのだ。

2018年のパリ・モーターショーで発表されたEQCがついに日本にやってきた。EQCはメルセデスが3年前に立ち上げた電動モデル専用のサブ・ブランド、EQ初の電動専用モデルで、これからメルセデスが電動化を推し進める上で旗印となる大事なクルマだ。


〝C〟はEQシリ ーズの中でCクラス・サイズのモデルということを意味している。ちなみに、GLCと比べるとEQCの方が全長が10cmほど長いものの、それ以外はほぼ同サイズとなっている。


すでにモーターショーの会場など屋内では何度も見ていたが、太陽の下で眺めるのは今回が初めて。フォルムはメルセデスのSUVモデルに似ているが、ヘッドライトをUの字でつないだガーニッシュが細い横桟のグリルを囲むように配されるEQ独自のフロント・マスクにより、ひと目見ただけで、ほかのメルセデスとは違うものであることが認識できる。


街中を走っているときにけっこう「あれ、もしかしてEQC?」という目線を何度か感じたのだが、EQCだと気付かせたのはこのフロントのデザインに因るところが大きいだろう。そういった意味では、メルセデスらしさを残しつつも独自性と差別化が上手に図られていると言っていい。


MERCEDES-BENZ EQC

2枚の大きな液晶パネルを用いるなど、インパネは最新のメルセデスの流儀に則っているものの、デザインは独自の意匠を持つ。ただし、スイッチ類はGLCと形状だけでなく配置もほぼ変わらないので、メルセデス・ユーザーには違和感なく使えるはずだ。ステアリング裏に備わるパドルで回生ブレーキの強さが4段階で調整できる。最も強力にするとほぼブレーキ・ペダルを操作せずに停止することも可能だ。
並べて比べたわけではないが、シート はGLCと同じだと思われる。床下に電池を配している影響か、若干だがGLCよりも床面が高く感じる。

ドアを開けると2つの大きな液晶画面が目を惹くいつものメルセデスのインパネが見える。ただし、良く観察すると、インパネの上部が斜めにカットされていたり、エアコン吹き出し口のフラップがこれまで見たことのない凝った形状になっていたりなど、EQC独自の意匠があちらこちらにけっこう見られる。


総じて普通のメルセデスと比べると色使いなども含めて開放感のある明るい雰囲気だ。ヒップ・ポイントは同じサイズのGLCに近いが、床下に電池を収めているからなのか床面が少しだけ高く、GLCより若干脚を投げだしたようなポジションとなる。


音のない世界

インパネに備わるスターター・ボタンを押す。いつもならエンジンがブルンと掛かるところだが、EQCはかすかに電子音が聞こえるだけ。


ふとメーター・パネルの中央を見ると走行可能距離318kmという表示が出ている。電池の残量は97%。EQCは床下に敷き詰めた、総重量652kgのリチウムイオン電池により最大航続距離は400kmとアナウンスされているが、どうやら現在クルマが記録している走行パターンだとその8割程度しか走ることができないらしい。


しかも、この数字のとおりにマイレッジを刻めるとは限らないから、その辺りを考えながら走る必要があるかもしれない。


アクセレレーターに足を載せてスタート。微速でも過敏な感じやゴムひものように間延びした印象もなく、 とても扱いやすい。そのまま街の中を流す。


エンジン音がないうえに、 ガソリン車よりも強固な遮音が施されているのか、フロントから聞こえ てくるヒューンという電子音以外は ほぼ無音。こんな状況はガソリン車では味わえない。EQCが一番映える瞬間と言っていいだろう。


5人乗車時に荷室容量は500ℓ。GLCと比べると10ℓ小さいが、ほとんど同レベルと言って差し支えない。床下には充電用のケーブルなどを収めるスペースがある。
充電用のソケットは2カ所。写真のバンパー下は普通充電用で、GLCでは燃料の給油口となる右リア・サイドは急速充電用となる。普通充電は6kW、チャデモの急速充電は50kWまで対応し、その最高値での充電時間は普通充電で約13時間、急速充電で約80分。
ボンネット下にはインバーターと前輪用のモーターがすっぽり収まる。

首都高速道路に入り、郊外を目指す。入口でアクセレレーターをちょっと強めに踏んでみる。約2.5tの車重はけっして軽くないが、一瞬にして周りを置き去りにする鋭い加速をみせる。


60km/hくらいになるとロードノイズが徐々に聞こえてくるようになり、街中で味わった無音感は残念ながらなくなってしまう。もちろん、それでもガソリン車と比べれば静かなことに変わりはない。 乗り心地も良好。道路の継ぎ目段差も衝撃を室内まで伝えないようにう まく処理している。


ガソリン車のプラットフォームを電動モデル用に改良したEQCは空車時でもリア・ヘヴィな重量配分を持つためか、リアのみに空気バネを使用しているものの、とくに違和感は覚えない。


スーパースポーツが同居

そのまま高速道路に入り、前後が空いたのを見計らってアクセレレーターを床まで踏みつけてみる。それと同時に鋭い加速Gが体を襲う。


前後2つのモーターを合わせた総合出力は408ps/78kgm。このパワーを4輪を介して路面に伝える。ちなみに最大トルクはAMG・GT・Rをも凌ぐ数値だ。0-100km/h加 速は5.1秒というが、それ以上の速さを感じる。体感的には3秒台のスーパースポーツに近い。


もちろん、静かに巡航しているときの振る舞いは高級サルーンのようにジェントル。 静かで、クルマもフラットなまま、路面を滑るように前に進んでいく。


高速を降りて山道へ。唯一EQC に弱点があるとすればこのステージだ。652kgの電池が床下にあるため低重心とはいうものの、2.5tの重さには勝てず、身のこなしがとても重く、すぐにクルマが外へ外へと逃げてしまう。


このクルマで山道を楽しもうと思う人はいないかもしれないが、いつものペースで走っているとヒヤッとするかもしれない。


再び同じコースを辿り、編集部に戻った時の走行距離は203km。でもって、メーターに表示されている可能走行距離は100km。スタート時は318kmだったからその差は5%程度。


けっして流れに乗るだけの走行ではなかったことを考えると、メ走行可能距離の数値はかなり信頼 度が高いと言えるだろう。


山道がちょっと苦手だが、そのほかのステージではガソリン車何するものぞという走りを見せてくれた。むしろEQCがガソリン車を凌ぐ場面も多々あり、とくに50km/hくらいまでの無音感はそれだけでEQCを買ってしまいそうなほど魅力的だった。


価格は1000万円を超えるが、以前ラインナップされていたGLCのプラグイン・ハイブリッドが900万円以上だったことを考えると、一概に高額だとは言えないだろう。


EQCを皮切りに電動化戦略を推し進めるメルセデス。まずは最高のスタートを切ったのは間違いない。


EQC400 4マチック(欧州参考値)


 駆動方式 前後横置きモーター4輪駆動 全長×全幅×全高 4761×1844×1623mm ホイールベース 2873mm トレッド 前/後 1625/1615mm 車両重量(車検証記載前後重量) 2495kg(前1200kg:後1280kg) モーター形式 非同期モーター×2 最高出力 408ps/-rpm 最大トルク 78.0kgm/-rpm 変速機 1段減速機のみ バッテリー種類/容量 リチウムイオン式/80kWh 航続距離 400km(WLTCモード) サスペンション形式 前/後 ダブルウィッシュボーン式/マルチリンク式 ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク タイヤ 前後 235/50R20 104Y 車両価格(税込) 1080.0万円

文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=郡 大二郎

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