1949年に誕生したアバルトが、今年で70周年を迎えた。これを記念したイベント「ABARTH DAYS 2019」が富士スピードウェイで開催された。かつてはF1も走った本格的なレーシングコース。世界でも有数の1500mのホームストレートに150台のアバルトが集結した。
小さなボディにMAX180psのパワーと強靭な足回りを持つアバルト。街中ではキビキビとした軽快な走りを楽しめるが、サーキットではエンブレムに描かれた「サソリ」と同様、内に秘める強力な「毒」を解き放つことができる——。オープニング早々、アバルト・オーナーの参加者全員から、そんな心の高鳴りを感じた。
レーシングコースを先導車に続いて参加車が走る。ホームストレートを通過する速度は徐々に上がっていき、アバルト特有の少しこもったようなエキゾーストノートがサーキット中に響きわたる。
イベント会場では、フォトグラファー・ケイ オガタ氏が手掛ける「The SCORPION SPIRIT 2019」の第3弾が公開された。今回出演したEXILEのAKIRAさんは、スタントなしでアバルトの運転シーンにチャレンジするなど、納得いくまで時間をかけて撮影に臨んだという。
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「ABARTH MUSEUM」特設ピットから、さらに大きな排気音が聞こえてきた。ここには1959〜1985年式までのクラシック・アバルト34台が展示されている。展示だけでなく、ほぼすべてのクラシック・アバルトは「走るために」このサーキットへ来たのだという。チンクエチェント博物館の深津浩之館長はこう語る。
「ここまで貴重なクラシック・アバルトが集まるのは、本国イタリアでも稀だと思います。とくにTCRが5台並んで走っている様は、もう一生見られないかもしれませんね。しかもみんな本気で走っていて感動しました」
そんな伝説的アバルトTCRのモチーフが、この日、日本初公開となった「アバルト696・70周年アニバーサリー限定車」に取り入れられている。約50年前に登場したTCRはエンジンがエンジン・ルームに収まりきらないために、リアのフードを開けたまま固定して走っていた。同限定車は、その姿を模したリア・スポイラーを採用したのだ。
プロドライバーのサーキット走行に同乗できる「CIRCUIT TAXI」に参加させてもらった。私自身、サーキット走行の経験はなく、プロドライバーがどのような走り方をするのか興味津々だった。
車両はアバルト595コンペティツィオーネ。595シリーズ最強グレードで、コロッとした外見からは想像できない180psものパワーを持つ。エキゾースト・システム「レコードモンツァ」もヘッドレスト一体型のスポーツシートも、サーキットでこそ体感したい。
ドライバーは「全日本ジムカーナ選手権」4年連続(クラス変更あり)チャンピオンの小俣洋平選手。ジムカーナは、様々なコーナーが施されたコースをタイムアタックするレースで、速さはもちろん、ミリ単位の精度が求められる。小俣選手は、相当なドライビング・テクニックを持っているはずだ。
ピットからコースに出て加速すると、すぐに第1コーナーが迫ってくる。コースはテレビやゲームで見たことはあるが、思った以上に傾斜のある坂を、右に回り込んでいく。コーナーではパンとブレーキを踏みインに切り込んで曲がり、そして加速する。その時に受けるGの変化に、これが「荷重移動」なのだと実感した。小刻みなマニュアル・ミッションのシフト操作も、信じられないくらいスムーズだった。
後半、ダンロップコーナーからは、強いGで左右に振られるも、アバルトの挙動はビシッとキマっている。アバルトの秘める高いポテンシャルと、高度なドライビング・テクニックを実感することができた。小俣選手は「これでもそこそこの走りです。もっと速く走ることもできます」というが、クルマを降りるとブレーキから白煙が。かなり頑張ってくれたに違いない。
今年スタートした、女性のためのドライビング・レッスン「SCORPIONNA」も開催された。ドリフト競技の元日本チャンピオン、石川紗織選手をはじめ、インストラクターもすべて女性。ジムカーナ・コースで行われた実技レッスンでは、周回するごとに参加者のドライビングが上手くなっていく様子が印象的だった。他にはない、こんなチャレンジングな試みもアバルトならではだと思う。
アバルトのエンブレム「サソリ」は、創立者、カルロ・アバルトの星座に由来するという。その内に秘めたスピリッツは、70年経った今も脈々と受け継がれ、新旧、男女問わず、アバルト・ファンの心を揺さぶる。
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文=山元琢治(本誌) 写真=小河原 認、荒川正幸
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