2020.01.23

CARS

名医の診察にかかる 44号車はやはりお宝だった!【メルセデス・ベンツ300TE(1992) 長期レポート ♯04 】

過去13年間分の雑誌記事をWEBで再掲載している連載です。毎週水曜日12時更新。


【初回を読む】2008年、エンジン編集部で124型の購入を決定!


W124の名医、44号車を診る。やったぞ、ベスト・コンディション!メルセデス・ベンツのメインテナンスを30年続けてきた熟練メカニックの手により、新車同然の状態になりました。


完治しない不整脈

千葉県千葉市のアウトハーフェンで行った「ボッシュ・カー・サービス」の診断で、エンジンの燃焼状態にやや問題があると指摘された44号車。信号待ちなどのアイドリング時に発生するブルルッと震える不整脈がずっと続いていた。


メルセデス・ベンツの正規ディーラー、ヤナセに相談すると「ウチにW124のすべてを知っているメカニックがいるのでクルマを持ってきませんか?」という。


東京、芝浦のヤナセ東京支店で44号車を待ち構えていたのは、サービス担当の副部長、深沢誠さん。口数が少なくいかにも職人といった印象の深沢さんは、メルセデス・ベンツのメインテナンスを手がけて30年。現在は現場のトップに立つ人である。「少し運転させていただいてもよろしいですか?」


果たしてW124のすべてを知る深沢さんに44号車はどう判定されるのか? こちらが緊張した。


この道30年、W124のことなら自分の体よりよく知っているという深沢さん。

運転席に乗り込むとパワー・シートのスイッチを手始めに、ウィンカーやエアコン、そしてサンバイザーまでイッキにチェックする。海岸通りを走ること5分。前を見据えた深沢さんが重い口を開いた。


「う~ん。これは……」えっ? 何でしょう?


「素晴らしいですね。この年代でベストの1台と言っていいでしょう」


おお! やった 44号車はやはりお宝だったのだ。


「シフト・ショックの小ささからして、トランスミッションは問題ないでしょうね。ボールナット式のステアリングはスムーズなフィールでいいですね。ステアリング・ギアボックスも大丈夫。乗り心地も抜群だから、ダンパーやブッシュなど足回りについてもオッケーでしょう。ボディのガタもない。こんな個体がまだあったんですね。実に素晴らしい」


口数の少ない深沢さんが急に饒舌になるほど、44号車は上物だったようだ。


気になるのは燃料系だけ

試乗を終えると44号車をジャッキ・アップする深沢さん。「われわれは後ろから見ていくんです。まず、リアの5リンク・サスペンション。ガタはありません。ブッシュも大丈夫ですね。ドライブ・シャフトのここ、衝撃吸収用のラバー・マウントがかませてありますよね。こういう細かいことをしているんですよ。W124は。ここがボロボロになっているものがあるんですけど、これはまるで新品のようです」


振動を抑えるためにドライブ・シャフトにかませてあるラバー・ブッシュをチェックする。ここが劣化しているものが多いという。
サスペンション・アームのガタを調べる。

ステアリングのタイロッドのガタつきやオイル漏れなど、蛍光ランプを手に次々とチェックしていく。最後にジャッキを降ろし、エンジン・ルームをのぞきこんだ。


「W124の弱点はここです。シリンダー・ヘッドの前側なんですけど、オイル漏れが多い。このクルマは滲みもない。乗ったときの印象通り、調べてみてもいいクルマですね。アイドリング時の不整脈は燃料系でしょう。インジェクション・バルブか、フューエル・ディストリビューターか。これはお預かりしないと」


最悪の場合は交換だとおっしゃる。パーツ代はフューエル・ディストリビューターが約30万円、バルブはおよそ2万円(×6本)で12万円。


W124のウィーク・ポイントはボールペンで指した場所。シリンダー・ヘッドの前の部分でオイル漏れに注意。

3日後の電話は交換の必要はなかったという朗報だった。ただし、6気筒のうち2番と4番のバルブの噴霧状態が悪かった。清掃することで本来の状態に戻したという。作業はほかにフューエル・ディストリビューターの清掃、スパーク・プラグとエンジン・マウントの交換、ヤナセのメカニックに大好評だというフューエル・コンディショナーの注入。持ち込みバッテリーの装着とエンジン・オイル&フィルターの交換も一緒にやってもらった。費用は工賃5万8852円、パーツ代5万2599円の計11万1451円。


「清掃だけで不整脈は相当軽減されたのですが、エンジン・マウントの交換でトドメを差しました。ちなみにエンジン・マウントのパーツ代は左右で4万5570円です。アクセル・ワイヤーの遊びも調整しました。今回の仕上がりは私のなかでも非常に満足できるもの。自信があります」


インジェクション・バルブ。2番、4番の噴霧状態がよくなかった。
バルブの噴霧状態は圧力をかけてチェックする。汚れはこのときに大分飛ばされる。

まるで"凪"のよう

深沢さんの仕事がパーフェクトだったことはヤナセからの帰り道ですぐに実感した。信号待ちのアイドリングでブルブルがない。ざわめきがなくなってまるで"凪"のようにシーンとしている。本当はこんなに静かだったのか。吹け上がりも軽くなっている。走っても停まっても、それまでとは全然違う300TEだ。


編集部で92年型の300TEを購入した理由は「ちょっと前のメルセデス・ベンツは、やっぱり永久自動車か?」の検証である。長期リポートのスタート早々、ヤナセの熟練メカニックの手により新車同然のコンディションに戻ったのは本当に嬉しい。先月装着したACネットの燃焼向上効果にあわせ、深沢さんのメインテナンスが加わったわが300TE、ヤナセから戻って1週間経った12月12日、最良燃費8・57㎞/ℓを記録した。万歳!


文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=柏田芳敬


■44号車/メルセデス・ベンツ300TE
MERCEDES-BENZ300TE
購入価格:168万円
導入時期:2008年9月
走行距離 3万4570km+8713㎞

(ENGINE2009年2月号)

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