遠方の友人から久々に電子メールが届いた。こちらからはさっぱり連絡を取らないのだから、久々もなにもないものだが、「クルマを買い換えました」という便りだった。写真が添付されている。新型ジムニーだった。
納車は2020年の11月とのこと。そうか、今でも長い納車待ちが続いているのかと、その人気ぶりに驚く。そういえば、お世話になっているエディトリアル・デザイナーのお嬢さんも新型ジムニーが欲しいと言っていたみたいだけれど、さて、どうしただろうか。
スズキは、ハスラーで軽自動車のクロスオーバーSUV的なものを大ヒットさせたけれど、遠く半世紀前から絶えることなく代を重ねながら続く本格派4×4クロスカントリー・ヴィークルのジムニーもまた、新型登場に合わせて人気再燃という格好になっている。
本来的な目的用途に合わせて買う人もこれまでどおりにいるのだろうけれど、SUV全盛時代にあって、そのスタイルに憧れて手にする人も多いはずだ。
今回は、小型車のジムニー・シエラではなく、軽自動車のジムニーを連れ出してみた。3つあるトリム・レベルのいちばん上にあたるXCだ。
軽自動車だから寸法は規格枠一杯。 全長3.4m以下、全幅1.48m以下、全高は2mまで使えるが、ジムニーは約1.73mある。全高がこれだけあると、小さなクルマに乗っている感じはさほど強くない。アイ・ ポイントが高いのが効いている。
それと昨今の超ショート・ノーズの前輪駆動スモールカーと違って、はっきりと視界に入るボンネットが外から見て想像した以上に長く感じることもあるのだろう。
変速機は5段マニュアル・ギアボックスと4段オートマチック・トランスミッションが選べるが、 借り出したのは前者である。
フロアから生えるシフトレバーの手前には もう1本、短いレバーがある。パートタイム4WDの後輪駆動(2H)と4輪駆動(4H)を切り替えるためのものだ。4輪駆動時には副変速機でさらに減速するモード(4L)も備わる。早い話、舗装路から外れない限り、あるいは積雪路にでも遭遇しない限り、これは後輪のみを駆動して走るFR(2WD)のクルマである。
元祖本家筋のジープと同じようにパワー&ドライブトレインはホイールベースの内側にほぼ収まっている。前後重量配分は上々だ。
しかし、都内を走り始めて早々に、ATにしておけばよかったと少し後悔した。シフトレバーの動作は節度があり、操作感もいい。クラッチ・ミートも容易な方だ。けれど、1速のギア比がかなり低い上に、2速のギア比が離れている。
わずか0.66ℓのエンジンをクルマの性格に合わせて有効活用するためにか、フライホイールは重そうで、シフトアップ時に滑らかに繋ぐためには、回転が落ちてくるのを待つ必要がある。
最近はタクシーも電動モーターの助けを借りたハイブリッドが全盛で、発進加速は威勢がいいから、信号待ちからの発進のたびに、後ろに気を使うことになる。都心で使うような場合にはATにするにしくはない。
もちろん、空いた地方の道や高速道路ではMTであってもなんら問題ない。3速 - 4速 - 5速のギア比の連携はとくに気を使わなくても上げ下げできる繋がりのいいものだ。
遵法精神に則る限り、動力性能は高速道路でも困らないだけのものが確保されている。遅いクルマに引っかかって追い越し車線に出て行く必要が生じてもそれは同じ。車体のディメンションから想像するよりはずっと横風に対する抵抗力もある。
硬く鋭い突き上げ感を伴うショックのほとんどない乗り心地は、クルマの成り立ちを思えば、かなり優秀だ。路面のうねりには正直に上下動を伴うけれど、それは狭い全幅で背の高い車体を安全に支えるためにやむを得ないものだ。
左右方向の動きは路面の不整に対して律儀だから、乗員の上体はけっこう揺すられる。しかし、ピッチング方向の動きは巧妙に抑えこまれていて、短いホイールベースを思うなら、見事と言うほかない。乗り心地への貢献大である。
大幅に剛性が引き上げられたラダー・フレームや、それとボディの間のブッシュの大容量化などと合わせて、確実な進歩を遂げていることが実感できるものになっている。
総じて、これなら乗用車ベースに作られたSUVの代わりに手にしても、こんな筈じゃなかったと後悔することはないだろう。ジムニーはSUV全盛時代においても、本格派クロスカントリー・ヴィークルの面目を保ったといえるのではないか。
ジムニーの傍に停めると、メルセデス・ベンツG550は、それこそ小山のように大きい巨漢だ。優に倍はあるのではないかと感じる。車両重量にいたっては倍以上。2.4tを優に超える。見た目こそ先代にそっくりだが、フルモデルチェンジで大型化したからなおさらだ。
そもそも軍用車両としての使用も視野に入れて開発されたのが起源だから、それこそ見事なまでに箱型のスタイルは、これだけ大きいとかなり威圧感がある。運転席に乗り込むのもよじ登るのに近い。
なのに、ひとたびキャビンに収まると、あの無骨な機能オンリーな印象はどこにもない。現行世代のメルセデス・ベンツに共通するロジックと表層処理で華やかに彩られた室内の眺めは、かつてのGクラスとはまるっきり違う。
この激変した室内の雰囲気がもたらす印象に、見事に同調するかのように、新型Gクラスは走る。オンロードでのステアリングの確実性やハンドリング性能を引き上げるためにフロントのリジッド・アクスルを捨て、ダブルウィッシュボーンによる独立懸架として、合わせてステアリング機構をラック&ピニオン式に換えた新型は、リアを支えにフロントの外輪をジワッと沈み込ませながらコーナリングする乗用車的なマナーを身につけ、なんの不安もなく狭い屈曲路を走れるようになった。高速道路での直進安定性も段違いである。
G550は4ℓのV8ツインター ボ過給エンジンから図太いトルクを捻り出すから、細かくステップアップを刻む9段ATとのタッグは、巨体を苦もなく動かす。いざとなれば、眼を見張らんばかりの速さで走らせることも可能だ。パワートレインはオンロード志向を強めるSUVの潮流に飛び込むに相応しい強心臓である。
もちろん、そうは言っても、これはゲレンデ・ヴァーゲンの直系のモデルだから、フルタイム4WD式になったこの新型でも、センターデフのみならず、リアとフロントのディファレンシャルも個別にロックできるようになっている。
いざとなればの備えについては、クロスカントリー・ヴィークルのそれなのだ。一気に近代化したからといって、軟弱になったなどとは言わせない装備が施されている。これでもかと言わんばかりに重装備を施してSUV全盛時代に舞い戻ったのがGクラスなのだ。
しかしだからといって、Gクラス がGLEやGLSのように走るわけではない。サルーンと比べられても遜色ないオンロード走行性能や快適性を手にした最新の主流派SUVの代わりが、何の不満もなく務められるわけではない。その代わりにいざという時のためのオフロード走行性能があるわけだから、当然のことだ。
SUVとはそもそもどこから生まれてきたのか。そのオリジンの意義を今に伝える古典系のクルマは、言ってみれば御神輿である。本家総本山にはジープのラングラー・ルビコンがいる。ブランド全モデルがSUVのジープにとって、ラングラーは下ろすことのできない御神輿だ。
Gクラスがなければメルセデス・ベンツの今のSUVフルラインナップはなかっただろうし、ジムニーがなければ、ハスラーのスマッシュ・ヒットも、またなかっただろうと思う。
文=齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=郡 大二郎
■スズキ・ジムニー XC
駆動方式:フロント縦置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高:3395×1475×1725mm ホイールベース:2250mm トレッド 前/後:1265/1275mm 車両重量:1030kg(前560kg : 後470kg) エンジン形式:直列3気筒DOHC 12Vターボ過給 総排気量:658cc ボア×ストローク:64.0×68.2mm 最高出力:64ps/6000rpm 最大トルク:9.8kgm/3500rpm 変速機:5段MT サスペンション前/後:3リンク式リジッド/3リンク式リジッド ブレーキ前/後:ディスク/ドラム タイヤ前/後:175/80R16S/175/80R16S 車両価格(税込):177万6500円
■メルセデス・ベンツ G550
駆動方式:フロント縦置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高:4660×1985×1975mm ホイールベース:2890mm トレッド 前/後:1645/1655mm 車両重量:2460kg(前1360kg : 後1100kg) エンジン形式:90度V型8気筒DOHC 32V直噴ツインターボ過給 総排気量:3982cc ボア×ストローク:83.0×92.0mm 最高出力:422ps/5250-5500rpm 最大トルク:62.2kgm/2000-4750rpm 変速機:9段AT サスペンション前/後:ダブルウィッシュボーン/3リンク式リジッド ブレーキ 前/後:通気冷却式ディスク/通気冷却式ディスク タイヤ前/後: 275/55R19V/275/55R19V 車両価格(税込):1623万円
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