ドイツで生まれたダイアログ・イン・ザ・ダークというソーシャル・エンタテインメントがある。漆黒の闇のなかに数人のグループで入り、1時間あまりを過ごす。アテンドとして活躍するのは全盲の人たちだ。
といってもハン ディキャップの世界を疑似体験するといったお仕着せの啓蒙性とは無縁。「エンタテインメント」と銘打たれるだけあり、アテンドたちは暗闇を自在に動き、粘土をこねたり、水遊びをしたりとさまざまな趣向を繰り出してゲストを飽きさせない。
そんなアテンドのひとりが"みきティ"こと川端美樹さん。生後間もないころの病気が元で極度の弱視となり、30代前半に視力を失くした。その後は声楽家として活躍しつつ、2005年にダイアログ・イン・ザ・ダークに参画する。
「完全に見えなくなってから、むしろ世界が明るくなった気がします」と川端さんは語る。それは網膜に頼らない新しい視覚を獲得した証だったのだろう。やがて、聴覚と音感以外にも並外れた触覚を発揮するようになった。

その才能を見込んだ主催者の志村季世恵さんの発案で、ふたりの仲間とともに手触りが要となる商品開発に携わるようになる。最初の今治タオルで見事な成果を残し、次に手掛けたのが会津漆器のお椀だった。
直接現地の工房に赴き、試作品に頬ずりし、指で弾き、気になる点を次々と指摘。最初は懐疑的だった職人たちもすぐに才能に感服し、全面的な信頼を置くことになった。
「みきティたちが漆の木に頬を擦り付けて、感触を確かめていたんです。普通ならかぶれることを心配するのに。それを見た職人さんたちが『ああ、僕らと同じことをする』って感激してくれて」(志村さん)
1年に及ぶセッションから生まれた 飯、汁、菜盛りの3つの椀は、世代を超えて使われることを目指し、「めぐる」と命名。形、感触ともこれ以上ないほどの仕上がりとなり、見事に2015 年のグッドデザイン賞を受賞した。
日本の漆は使い込むほどに色艶を増し、手入れを怠らなければ100年以上持つと言われる。だが、安価な外国産に押され、現在はわずか2%の活用に留まる。その存在意義が充分に認識されているとは言い難い。だが、川端さんたちは繊細な指先と肌感覚で、見事に伝統技術へ新しい命を吹き込んだ。
アテンドに光はない。だが私たちの社会を一歩先へ導くように、彼ら彼女たち自身が光となれる。手を差し伸べる以上に、その存在と優れた感覚に敬意を表したい。

問い合わせ=ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン https://did.dialogue.or.jp/
文=呉森 克 写真=松崎浩之
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