アメリカのサンタモニカでS60の国際試乗会が行われたのは、ちょうど1年前の今頃。サウスカロライナのチャールストン工場で生産がスタートしたばかりのときで、ひと目見て「このクルマは売れる」と思ったのを覚えている。
なんでそう思ったのかといえば、ずばりカッコいいから。カッコいいにもいろいろあるけれど、S60の場合は知的でお洒落というのがポイント。基本的には新世代デザインになって最初に登場したフラッグシップ・サルーンのS90と同じ見た目だが、よく見るとシンプルな造形のS90にはなかったボディ・サイドの凹凸や、スポイラー形状のトランク・リッドなど、ボルボにしてはかなりアグレッシブなデザインになっている。この"ボルボにしては"というのがミソで、やたらと押し出しの強いドイツ勢のメルセデス・ベンツやBMWと比べると控え目で上品に見える。でもベンツやBMWに負けているかというと全然そんなことはなくて、スウェーデンのシンプルなライフスタイルを連想させる洗練されたデザインは十分個性的で、独特な存在感がある。しっかり差別化ができていて、なおかつ魅力的なモノになっているというわけだ。
これまではワゴンやSUVばかりだったラインナップのなかで、セダン・スタイルのボルボはとにかく新鮮。ちなみに、新型の全幅は日本サイドの要求で1850㎜に収められているという。ボルボは本気も本気。日本のプレミアム・セダン・マーケットを牛耳るドイツ勢や、レクサスなどのライバルたちと相当面白い戦いになると思う。
日本に導入されるのは、FFで190馬力のT4モメンタム(489万円)、同じくFFで254馬力のT5インスクリプション(614万円)、PHEVの4WDで340馬力のT6ツイン・エンジン(779万円)、そして420馬力のハイパフォーマンスPHEVで4WDのT8ポールスター・エンジニアード(919万円)の4モデル。そのうち箱根の試乗会にはFFの豪華仕様のT5インスクリプションが用意されていた。
アメリカでは、いずれも4駆のガソリン・エンジンのT6Rデザイン(日本未導入)とT8ポールスター・エンジニアードに試乗したが、FFモデルのS60に乗るのは今回がはじめてだ。乗った印象をひと言でいうと、スポーティの一語につきる。アメリカで乗った2台がいずれもそうだったので、ある程度は予想していたけれど、4駆よりもより明らかに軽快な感じがする。足回りはやや硬めな印象だが、全然嫌な硬さではない。ほかの試乗車のなかにはオプションの電制ダンパーを装着したモデルもあったようだが、これは標準の"一発決め"の足回り。ちなみにタイヤはオプションの19インチで、本来の標準仕様は18インチである。この一発決め・19インチ・FFという組み合わせは、つい最近まで長期リポート車として乗っていたワゴンのV60と同じだが、スポーティで若々しい乗り味もそっくり。ただし、ワゴンと違ってリアを固める必要がないからか、S60の方が若干乗り心地がいい。
ボルボというとかつてはおっとりとしたイメージで、走りがいいというより、なにをおいても安心、安全が最優先という感じだったけれど、S60は運転していて楽しいところがいい。パワーは254馬力もあるので箱根の上り坂でも不足を感じることはまったくない。ハンドリングはシャープというほどではないが、ステアリングを切ったら切ったぶんだけスッと向きが変わるので、ワインディングを走っていても、ストレスは感じない。熱くなるようなことはないけれど、気持ちよく走れる。S60の魅力は、このBMWとはちょっと質の違う、あえて言えばクールなスポーティさだと思った。
アメリカで乗った経験からいうと、これがプラグイン・ハイブリッドのT8ポールスター・エンジニアードになると、更にホットでクールになる。なにしろ420馬力もあるので速い、速い。ところがこれ、先日ネット上で予約の受付が開始されたとたん、限定30台がアッという間に完売した。S60、注目のボルボです。
文=塩澤則浩(ENGINE編集部) 写真=小林俊樹
ボルボS60 T5インスクリプション/VOLVO S60
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