2020.01.21

CARS

PSAの電動化戦略1 DS3の電気自動車にパリで乗る

いよいよ電動化に対して本腰を入れて取り組み始めたPSA。その第1弾となるDS3クロスバックEテンスにパリで乗った。

2010年に三菱からOEM供給された電気自動車、i-MiEVをプジョーとシトロエンのブランドで販売。さらに2012年には前輪をディーゼル・エンジンで、後輪をモーターで駆動するPSA独自のハイブリッドを搭載した〝ハイブリッド4〟を市場に投入するなど、独自の歩みで電動化に取り組んできたPSA。しかし、躍起になって電動化を進めるドイツ勢と比べると、正直いって〝細々〟という印象は拭えなかった。


潮目が変わったのは2018年。PSAはプジョー、シトロエン、DSの3ブランドにおいて、2019年以降に登場するすべてのモデルに電動化モデルを設定し、さらに2025年からは3ブランドで販売するすべてのクルマを電気自動車もしくはハイブリッドといった電動車両にするというドイツ勢に勝るとも劣らぬ電動化戦略を打ち立てたのだ。その第1弾がDS3クロスバックEテンス。DSのスモールSUVをベースにした電気自動車だ。


アウディeトロンやメルセデスEQC、フォルクスワーゲンID.3など、ドイツ勢のほとんどは電気自動車を設定する際に専用車種を開発しているのに対し、PSAは既存車種をベースに電動化している。その理由は、同じ車種で電気、ガソリン、ディーゼルの中から好きな動力源を選べるようにしたかったから。選択の自由を残したかったというわけだ。


その戦略はDSに限らず、プジョーでもシトロエンでも変わらない。そのため、DS3クロスバックEテンスは見た目もボディ・サイズも、そして使い勝手もほぼガソリンやディーゼル・モデルと変わらない。後席も荷室容量も同等の広さを持つ。大きな違いはパワートレインだけなのだ。


プラットフォームはガソリンやディーゼルと同じ〝CMP〟をベースにしたE-CMPプラットフォームを採用。CMPとの違いは容量50kWhで300㎏の重さを持つリチウム・イオン電池を床下に積むため、ホイールベース間の構造が異なる程度に過ぎない。そのほかの部分はほぼ同一である。ちなみに、満充電時の最大航続距離はWLTP計測で320㎞。充電時間は200V・6kWの充電器で約8時間半程度となる。


DS 3 CROSSBACK E-TENSE

メーターの表示やインパネ中央に配されたインフォテイメント用のモニターにエネルギーのやり取りを表す画面が追加される以外、インパネはガソリンやディーゼル・モデルとほとんど変わらない。上質な質感と斬新なデザイン、凝った細工もそのままだ。明るいベージュの内装色はEテンス専用となる。
座った限り、前後ともシートの着座位置に変わりはないように感じた。
5名乗車時350ℓ、最大で1050ℓの荷室容量もほかのモデルと同じだ。

高級車みたい

試乗コースはパリ市内から郊外を往復するルートで、市街地、高速道路、ちょっとしたワインディング路が程良く組み合わされていた。


走り出して最初に気付いたのは静かなこと。「電気自動車なんだから当たり前」と思われるかもしれないが違うのだ。エンジン音がしないだけでなく、ロード・ノイズもかなり抑えられている。高級車だってここまで静粛性が高いクルマはそれほど多くない。あとで聞いたのだが、厚めのガラスを使用したり、ドア・パネルの板厚を増やすなど、ガソリンやディーゼル以上に音を遮断する技術を多く取り入れているという。


モーターはフロントに1つ搭載されている。出力は136ps/26.5kgm。日本にも導入されている1.2ℓ直3ターボのガソリンとほぼ同等だ。ただし、Eテンスの方が320㎏ほど車両重量は重い。ところが、市街地、高速道路、ワインディング路のどのステージでも不満を感じなかった。


むしろ周りの流れに乗るような、ハーフ・スロットル程度で走っている限りは、アクセレレーターに対するクルマのレスポンスがよく、ガソリンよりも速く感じる。停止状態からの加速がいいため、とても扱い易い。130㎞/hで巡航しても全く苦にならなかった。絶対的な出力がものをいうフル・スロットルの時以外、動力についてはまったくストレス・フリーだ。


重いものが低い位置に集中しているのが功を奏しているのか、乗り心地もいい。路面からの入力に対してスモール・クラスとは思えないほどフラットかつ落ち着いた動きをする。CMPプラットフォームは、プジョー3008などに採用されているひとクラス上のEMP2プラットフォームよりも乗り心地に優れるが、E-CMPはさらにその上を行く感じ。300㎏以上重い車両重量を感じるのは、コーナリング時などで大きな横向きの力が掛かったときとブレーキングのときくらいに過ぎない。


静かで、落ち着いた乗り心地で、パワートレインも力強くて扱いやすい乗り味は、ラグジュアリー志向のDS3クロスバックが持っているキャラクターにピッタリ。このクルマの良さをさらに際立たせてくれる。電気の消費量から類推した航続距離はおよそ250㎞弱程度。なので、どんな用途でも最適とは言わないが、この航続距離で問題がない人にとっては、このEテンスこそがDS3クロスバックのベスト・モデルと言っていい。なお、日本には2020年中に上陸する予定だ。


◼︎DS3 クロスバック E-テンス


駆動方式 フロント・モーター前輪駆動
全長×全幅×全高 4118×1791×1534㎜
ホイールベース 2558㎜
トレッド 前/後 1548/1557㎜
車両重量 1525㎏
エンジン形式 永久磁石同期型モーター
最高出力 136ps/-rpm
最大トルク 26.5kgm/-rpm
変速機 1段減速
電池 リチウム・イオン
電池容量 50kWh
最大航続距離 320km(WLTP)/430km(NEDC)
サスペンション形式 前/後 ストラット式/トーションビーム式
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前後 215/55R18 99H


文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=DSオートモビルズ


(ENGINE2020年2月号)


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