マセラティのモデナ工場には、実はこれまでも何度も見学に行っている。それどころか、工場の中で催された晩餐会に参加したことさえある。2014年に創立100周年を記念して、創業の地であるボローニャから、1939年に移転して現在も本社のあるモデナを経て、最新の工場のあるトリノまで特別なツアーが組まれた時のことだ。つくりかけのクルマがぶら下がったライン横で食事をするなんて初めての経験だったので、なんとも不思議な気分だったことを覚えている。あれから5年、再び同じ場所で同じようにディナーをいただくことになろうとは思いも寄らなかった。今回は、2007年以来この工場で約4万台が組み立てられてきたグラントゥーリズモとグランカブリオの生産終了を惜しむお別れ会である。
食事の前に最後の数台が流れる昔ながらのラインを見学し、その終わりに生産終了を祝して特別につくられたグラントゥーリズモ“ゼダ”のお披露目に立ち会った。ゼダというのは、モデナ地方で使われる言葉で“Z”を意味するそうで、ひとつの時代の終わりを告げるとともに新たな時代の始まりを予感させることを意図したネーミングなのだという。モデナ工場のラインは間もなくいったん閉鎖され、2020年5月にお披露目が予定されている“最先端技術を注ぎ込んだまったく新しい高性能スーパースポーツカー”の生産をスタートさせるために、ラインの全面的な改修工事に入ることになっている。実は敷地内にはすでに、新たな塗装工場も増築されており、今後はここで自分がオーダーしたクルマの塗装プロセスを実際に見学するプログラムも始める予定なのだとか。一方、次期グラントゥーリズモとグランカブリオはと言えば、マセラティ史上初のフル電動クーペ&カブリオレとなり、今後はトリノの工場で生産されることになるのだという。
ディナーのテーブルに置かれたメニューの裏表紙には、「MODENA May 2020」という年号とともに「MMXX」というロゴが目立つように描かれていた。本社内の各所にも掲げられていたこのロゴの意味するところは簡単。ラテン数字で“2020”を意味しているのだ。2020年をマセラティにとって新たな出発の年とするという決意を、内外に知らしめるために、この晩餐会は開かれたのだと理解した。
ディナーの翌日、モデナ市内にあるマセラティの新しい研究開発拠点である「イノベーション・ラボ」を見学した。2015年9月にオープンしたこの施設がプレスに公開されるのはこれが初めてである。そもそも、マセラティのエンジニアリング部門は現在、モデナ市内に3カ所あるのに加えて、工場のあるトリノのグルリアスコ、それにテスト・コースのあるバロッコの計5カ所にあり、1500名を超える技術者が働いているという。中でも最大の規模を持つのがエミリア・オベスト通りにあるこのイノベーション・ラボで、1100人を超える職員がいて、その大半はエンジニアだとか。
この施設の最大の特徴は、商品開発の中にデジタル・プロセスを大幅に取り入れている点だ。すなわち、最新世代のダイナミック・シミュレーターを使ったヴィークル・ダイナミクス部門、スタティック・シミュレーターを使ったアドバンス部門、そしてマン・マシン・インターフェースの設計をヴァーチャル・テクノロジーによって進めるユーザー・エクスペリエンス部門が3つの柱になっている。たとえば、シミュレーターの導入により、これまでだったら実地走行試験で6カ月もかかっていた開発を、ヴァーチャル走行によってたったの2週間で仕上げることができるようになったという。時間的にもコスト的にも大幅な削減が可能になるだけでなく、今後、電動化や自動運転に向けてどんどん複雑になっていく開発要求にもきめ細かく対応していくことができるのが重要だというのだ。まさに、2020年に向けて変わりゆくマセラティの中核を担う精鋭部隊がここに集結しているといっていいだろう。
さて、この日の夕方、すべての取材を終えてモデナ本社を後にする時、迎えのバスの前にカモフラージュを施された不思議なスポーツカーがいるのに気がついた。明らかにミドシップのプロポーションをしているが、「アルファ4Cか?」「いや、8Cく らいの大きさはある」と話しているうちに走り去ってしまった。後から発表で知ったのだが、これこそがスーパースポーツカーのプロトタイプだったのだ。もっか、エンジンは100%自前ということだけが発表されているが、いやぁ、もっとよく見ておけばよかった。残念無念!
文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=マセラティS.p.A.
(ENGINE2020年2月号)
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