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齋藤 いまや親会社が同門でもあるランボルギーニの、ウラカンEVOです。すでにクーペの方は広報車両があったんですが、折りよくスパイダーが加わったので、2台を同時に借り出しました。スパイダーという呼称ですが、ソフトトップの作りは入念で、高級カブリオレにも劣らぬ仕立てが施されています。
村上 マイナーチェンジしたウラカンの新型ということだね。
齋藤 ランボルギーニ史上最高の商業的成功作といわれたガヤルドの後を受け継ぎ、その成功をさらに大きなものにしたウラカンの、ビッグ・マイナーチェンジ版。その名称が表わすように、進化型となる。後期型といってもいいと思う。
村上 何が変わったの?
齋藤 クーペもスパイダーもパワートレインは同じ。V10の5.2リッター自然吸気エンジンをリア・ミドシップに縦置きして、その後ろにデュアルクラッチ式7段自動MTを組み合わせ、4輪すべてを駆動する。この基本構成は先代モデルとなんら変わっていない。ただし、エンジンはウラカン・ペルフォルマンテでの経験が活かされて、ペルフォルマンテ用と同じ640psまで引き上げられている。フロント・アクスルへの動力伝達を司るセンターデフは、ハルデックスの最新型が投入されている。また、シャシーには新兵器が投入されていて、リア・アクスルに電子制御電動式のステアリング機構が標準で追加されている。4WSです。それに加えて、車両全体の電子制御系を関連統合制御するシステムが、これまではフィードバック制御だけだったのが、新たにフィードフォワード制御のプログラムも組み込まれている。つまり、電脳が進化して予測制御が入った。あとは、クルマを構成する色々な要素技術が最新の成果を織り込んだものへとアップデートされた。さらに空力性能のアップ。空力効率は5倍になったらしい。
村上 イタリアのスーパー・スポーツカー製造メーカーって、モデル・ライフの終盤になると、スペシャル・バージョンを出すじゃない。フェラーリだったら458スペチアーレだとか、488ピスタだとか。ランボルギーニもウラカンでペルフォルマンテを出した。そうしたモデルの開発で得た技術が次世代のカタログ・モデルに落とし込まれる。ウラカウラカンEVOの場合も、まさにそれだよね。
齋藤 ウラカンEVOではエアロ・ベクタリングまではやっていないけどね。あと、そうだ。立派な作りの幌屋根を備えたオープン型のウラカンEVOスパイダーは、クーペに比べると、車両重量が120㎏重い。クーペの車検証重量は1630㎏。スパイダーは1750㎏。前軸静荷重でプラス50㎏、後軸のそれでプラス70㎏。知っておくべきことはこんなところかな。
村上 そういうウラカンEVOに試乗したら、これが素晴らしかった。
大井 スパイダーも、踏んで乗ったら120㎏重くても、これだけ力持ちだと全然関係ない。
村上 乗ってびっくりするのは、とびきり乗り心地が良くて、乗りやすいクルマになっていること。これは凄いことだと思った。進化のポイントはそこだと思う。そもそも最初のウラカンが出た時にも、乗りやすくて、しかもガヤルドに比べて速くなっていて、凄いなぁと思ったけれど、新しいウラカンEVOに乗ると、スーパーカーの民主化というのもあるんだと思った。ほんとに普通に乗れちゃうクルマになっている。
齋藤 ガヤルドからウラカンに代が変わったときに、唖然とするほどに洗練されたでしょ。これだったら、ポルシェ911ターボの代わりが務まるじゃないかとすら思った。それがさらに洗練を極めた感じがする。
村上 ランボルギーニの場合は格好の凄さがあるから、911ターボの代わりを完全に務められるわけじゃないけどね。
大井 たとえ地味な色を選んだとしても、お葬式には乗っていけない。
村上 ただ、乗りやすさについていえば、スーパー・スポーツカーに対する認識を改めさせられるクルマだということにかわりはない。
新井 商品力という点ではEVOになっても変わらなかったとしても、そこに注ぎ込まれている技術はどんどん向上している。
村上 そういうぐあいに洗練されていくと、ランボルギーニじゃなくなっていくのかというと、そうじゃない。これぞランボルギーニという感触がひしひしと伝わってくる。
齋藤 乗り込んで目の前に広がる景色は21世紀版カウンタックという感じだしね。
村上 音もそうだよね。
大井 昔のスーパーカーと違うのは、覚悟がなくても乗れるということ。昔のは覚悟なしに乗ろうものなら、たいへんな思いをしたわけだから。
村上 後ろもちゃんと見える。フットウェルのスペースも昔のそれに比べたら、苦労要らずになったし。
新井 それでもまだ車体内側に寄せるオフセットは残っていますけどね。
齋藤 出た、新井センサー。オフセットに敏感だからねぇ。昔のスーパーカーは坐骨神経痛製造機だったよ。
村上 ウラカンは2ペダルだけだから。もうほとんど気にならないよね。
大井 ひとつ気になったのは、身長174㎝のオレでもシート・スライドをいちばん後ろに下げる必要があった。そこでベスト・ポジション。
新井 僕もそうでした。
大井 背の高い人はどうするんだろう?とは思ったね。
齋藤 僕はスライド代が残ってた。
大井 それにしても、あのエンジン。640psもあると、レヴ・レインジの半分も使わずにたいていのことを終えてしまう。
齋藤 5.2リッターもあるエンジンを8000rpmまで回して640psですからね。おいそれと回せないですよ。
大井 公道では無理。
村上 とはいいつつも、明確なロング・ストローク型であることが利いているのか、下からきっちりトルクがついてくるから、そもそも上まで回す必要がない。
齋藤 出力特性で見れば歴然と高回転型のそれなんだけれど、可変機構は備わるし、ロング・ストロークだし、そもそも車両重量に対して余裕綽々ということもある。スーパー・スポーツカーはどれもそうだけど。10気筒もあるから、下でよく粘るし、滑らかだしで。至極扱い易い。それとデュアルクラッチ式の7段自動MTの変速マナーが素晴らしい。デュアルクラッチ式としては最上のもののひとつでしょう、間違いなく。寸刻みの渋滞のなかでも極めてスムーズ。惚れ惚れとするよ。ボトムエンドからレスポンスの鋭いトルク・キックがあるから自由自在になる。
大井 そこに自然吸気エンジンの良さが出てくるよねぇ。
村上 それと、多気筒って、やっぱりいいねぇ。味わいがある。
齋藤 ランボルギーニは世界市場で、法的折り合いがついている状況が続く限りは、自然吸気エンジンを採用し続けると言い続けているけれど、それは何も、ダイナミック・パフォーマンスだけを考えての発言ではないんだと思う。自然吸気エンジンには数字には記せない良さというのがいろいろとあるんだよ。僕は、小型実用車なんかより、こうした多気筒大排気量のハイ・パフォーマンス・カーでこそ大いに意義あることなんだと思う。
村上 10気筒エンジンって、もうウラカンだけになってしまった?
齋藤 アウディR8。
村上 そりゃそうだ。いってみれば姉妹車のような関係にあるからね。
新井 ヴァイパーは消えちゃいましたね。8リッターの超弩級でした。
村上 ポルシェ・カレラGTがそうだったけど、とうに生産終了。
大井 BMWのM5が一時、自然吸気V10だったよね。
齋藤 BMWがF1に出でいた時期のすぐ後ぐらいかな。でも、シングクラッチ式の自動MTがシンドかった。超絶スムーズな高回転型V10を活かしきれない恨みが残ったなぁ。
村上 このV10も2003年に出たガヤルド以来だから、もう17年使い続けている、いってみればちょっと旧いエンジンでしょ。それにあれやこれやと不断の改良を加え続けて、ここまでのものにしていることを考えると、大したもんだよなぁ。
齋藤 街なか走って、混雑した首都高速走って、東名高速走って、山道も走ったけれど、とにかく洗練されている。村上さんの言うようにさらに乗りやすくなっている。どんな交通状況、走行状態でもそうなんだ。でも、それが4WSが入ったおかげなのか、シャシーのセットアップのチューニングが進んで、いい部分を抽出できているからなのか、予測制御が入ったおかげなのか、結局、さっぱり分からなかった。これだ!と理由を特定できなかった。レスポンス鋭くて、けれど滑らかで、挙動が予期しやすくて、いいクルマだなぁ、というのはありありと実感するのに。それぐらいあらゆる部分が自然なんだよね。
大井 EVOで新しく装備されたセンタコンソールの縦長大型液晶があるでしょ。その表示モードを切り替えると、4WDの前後アクスル駆動トルク配分と、4輪の操舵角がリアルタイムで表示される。場所が場所だけに運転中に見るのが難しいのが玉に瑕なんだけど、そこを観察していると、山道でも普通に走らせている限りはほとんど後輪駆動。後輪操舵も入らない。パンッとスロトッルを開ければ前輪に駆動力が入ることが分かるけれど、ほとんど2WD。穏やかに走っているときには介入してこないんだね。
齋藤 あぁ、そうでしたか。
大井 それがね、駐車場に入って向きを変えようとすると、途端にクルッと小回りするでしょ。
新井 逆相でリア・ステアが入る。
齋藤 あれにはびっくりする。ウラカンEVOって、全長は4.5mほどしかないけれど、リアにV10縦置きしてその背後にファイナル・ギアが置かれているから、ホイールベースは2620㎜だったかな、決して短くない。これまでは回転半径は大きかったわけですよ。それが今度はクルンとUターンできる。ポルシェの911だって、前輪の最大舵角が決して大きくないけれど、何せホイールベースが極端に短いから、スーパー・スポーツカーとしては小回りが利いて、その利便性の高さがある。リア・ミドシップ・エンジンのスーパースポーツはそこで勝ち目がなかった。でも、逆相RWSがあると、その不便が一気に解消される。画期的だと、今回、改めて思った。
大井 ハンドリングということで言えば、以前のウラカンでも4WDであることを意識させない素晴らしさに驚いた記憶が鮮明に残っている。ところが新型はさらに良くなっている。こんなに申し分のない4WDがあるのに、誰が2WD版を欲しがるの?ってオレなんかは思っちゃう。
齋藤 とにかく、「俺がやってるんだぁ」というドライビング・ハイを堪能したい人なんでしょうね。つい先日発表されたウラカンEVO・RWDには後輪操舵機構も付かないみたいだし。キャリブレーションを完全にやり直したトラクション・コントロール・システムは、スポーツ・モードでは大胆なオーバーステアを許容するものになってるみたいです。いわば古典的ファン・トゥ・ドライブを満喫するためのクルマみたい。その方面では、マクラーレンのトラクション・コントロール・システムが積極的にオーバーステアを楽しむためのトリックを制御プログラムに備えているでしょ。そっちへの対抗もあるんじゃないかしら。
村上 どのみちレーシング・ユースのRWDバージョンを開発するわけだから、それならカタログ・モデルにも用意しようという現実的な事情もあるはずですよ。そういう意味ではRWD版はサーキット指向の強いモデルでもあるといえるのかな。
大井 なるほどね。
齋藤 走り以外はどう感じました?
村上 質感がむちゃくちゃ上がっている。ウラカンでポンと質感が上がっていたわけだけど、新型のEVOになって、そこも良くなっている。見た目、触った感じ、開口部を開け閉めした時の感触、それとスパイダーでいえば、その幌屋根自体のデキのよさ、クーペに遜色ない遮音性能の高さ、開閉時の動作のスムーズさ、小さなスイッチひとつにいたるまで、本当に見事。上質感に溢れている。
大井 スパイダーについて加えれば、剛性感も凄いよねぇ。カーボン・バスタブ使っているわけではないのに。ミシリともいわない。ステアリングの支持剛性にしても、文句なし。
齋藤 スカットル・シェイクという言葉を一度たりとも思い出さなかった。入念な補強が施されているだろうにしても、ほんとに見事。
新井 乗り味の違いでいえば、ゆったりと走っていると、クーペの方が少し軽やかですよね。
齋藤 鞭を入れたら何も変わらない。
新井 やれることはいっしょですよ。
村上 でも、やれることに大きな違いがあるでしょ。屋根が空く。オープン・エア・モータリングが満喫できる。この違いは大きいよぉ。ウラカンEVOスパイダーの屋根を開けて走ると、いかに気持ちいいことか。
大井 エア・フローも念入りに考えられているのが分かる。
村上 ウラカンEVOは、どちらも本当に文句のつけようがないよ。
話す人=大井貴之+村上 政(ENGINE編集長)+新井一樹(ENGINE編集部)+齋藤浩之(ENGINE編集部、まとめも) 写真=望月浩彦
▶「ランボルギーニのおすすめ記事」をもっと見る■ランボルギーニ・ウラカンEVO/LAMBORGHINI HURACÁN EVO
駆動方式 リア・ミドシップ縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4520×1933×1165㎜
ホイールベース 2620㎜
トレッド 前/後 1668/1620㎜
車両重量 1630㎏(前700㎏:後930㎏)
エンジン形式 V型10気筒DOHC 40V直接+間接噴射
総排気量 5204cc
ボア×ストローク 84.5×92.8㎜
最高出力 640ps/8000rpm
最大トルク 61.2kgm/6500rpm
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション 前後 ダブルウィッシュボーン式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク(CCMC)
タイヤ 前/後 245/30R20 305/30R20
車両価格(10%消費税込) 3282万7601円
■ランボルギーニ・ウラカンEVOスパイダー/HURACÁN EVO SPYDER
駆動方式 リア・ミドシップ縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4520×1933×1180㎜
ホイールベース 2620㎜
トレッド 前/後 1668/1620㎜
車両重量 1750㎏(前750㎏:後1000㎏)
エンジン形式 V型10気筒DOHC 40V直接+間接噴射
総排気量 5204cc
ボア×ストローク 84.5×92.8㎜
最高出力 640ps/8000rpm
最大トルク 61.2kgm/6500rpm
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション 前後 ダブルウィッシュボーン式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク(CCMC)
タイヤ 前/後 245/30R20 305/30R20
車両価格(10%消費税込) 3611万362円
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