ルノーのCEOにフォルクスワーゲン(VW)傘下にあるスペイン・セアトCEOのルカ・デメオ氏が就任することが決まった。彼はミラノ出身のイタリア人。外国人がルノーのCEOになるのは、今回が初めてのことだ。就任は7月1日で、それまでは昨年10月に暫定CEOとなったクロチルド・デルボス氏が務めることになる。
1967年生まれのデメオ氏は、ルノー、そしてトヨタ・ヨーロッパを経て、2002年にフィアット・グループに入社。2年後にはグループの顔であるフィアット・ブランドのCEOに僅か37歳で抜擢された。
続けてアバルト、アルファ・ロメオを任されたものの、2009年にVWのマーケティング部長に電撃移籍する。その後、アウディの副社長を経て、2015年にはVW傘下にあるスペインのセアトでCEOに昇格。同ブランドの創業70年を目前にした昨年は過去最高の販売台数を達成した。
自動車業界における彼の存在感を高めたのは、従来のエグゼクティヴたちとは一線を画した若々しいセンスであろう。その代表例は、フィアット時代の2007年に手掛けた現行500の市場投入計画だ。
デメオ氏はトリノのポー川沿いで、前年の冬季五輪開会式に匹敵するほどの大掛かりな発表会を企画。テレビでのライブ中継も実現した。2日目には自身がスウェットとスニーカー姿で現れ、ステージ上のフィアット500にキスをしてから司会を務めた。
当時、珍しかったライブチャットも壇上で展開。それらは経営危機にあって人々から見捨てられつつあったフィアットの印象を一気に刷新した。 実際500は、本人がフィアットを去ったあとも、今日までの13年間にわたり230万台を生産するロングセラーとなっている。
市場の読解力も的確だった。セアトではVWのMQBプラットフォームを活用してコストを抑制しつつ、1万ユーロ台のスタイリッシュなモデルを豊富に揃えた。それは経済が低迷する欧州において、まさに顧客が望んでいたものだった。アルファ・ロメオがドイツ車に対抗すべく大型化・高価格化の道を歩み、ファンを失ったのと対照的であったともいえる。
もうひとつ、デメオ氏が得意としたのは、新ブランドの立ち上げである。2007年にはアバルトの再ローンチを、2018年にはセアトの上級ブランド、クプラを生み出した。いずれも話題を提供しながらも、実際には既存モデルをベースにするという、コスト的にも理にかなったものであった。
市場が飽和状態にあるなか、彼がルノー・グループ内に同様の手法でさらなるブランドを立ち上げるのは目下のところ難しいだろう。だがルノーとしては、カルロス・ゴーンより13歳も若いリーダーにトップを託すことで、傷ついた企業イメージの刷新を図ることができる。とくにアルピーヌは期待できそうだ。
第2次大戦後のフランス系メーカー全般にいえることだが、彼らはプレミアム系車種に関するマーケティングのノウハウが不十分だった。そこを新CEOの能力によって補完できる可能性は大だ。
また仮に将来、ルノー・日産・三菱アライアンスにもデメオ氏が関与することになれば、GT-Rやフェアレディも意外な発展をみることが夢ではないかもしれない。まずは今後の手腕に期待したい。
文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
(ENGINE2020年4月号)
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