メルセデスが電動化時代に問う、電気自動車専用モデル。メルセデスの電動化専用ブランドの"EQ"に、Cクラス・サイズのモデルということを表す"C"を足してEQC。モーターは前後に2つ配され、4輪を駆動する。システム総合出力は408ps/78.0kgm。車両重量は2500㎏とヘヴィ級だが、超低回転域から最大トルクを発生するモーターの出力特性により、瞬発力はスーパースポーツ並みに機敏だ。床下に配置した80kWhのリチウムイオン電池により、最大航続距離は400㎞を実現。全長×全幅×全高=4770×1925×1625㎜、ホイールベース=2875㎜。価格は1080万円となっている。
EVにはいまのところ2種類の作り方があると思っている。ひとつは、内燃機関のクルマから乗り換えても違和感のない乗り味。もうひとつは"EVらしい"乗り味である。しかし"EVらしい"とは言っても本格的量産型EVはまだ登場したばかりだから、ほとんどの人はEV未体験なわけで、"EVらしい"なんて本当は誰もよく知らない。だからメーカーの言ったもん勝ち、やったもん勝ちみたいなところがあって、BMW・i3やジャガーIペイスやポルシェ・タイカンがそれに該当する。
いっぽう、ガソリン/ディーゼルの延長線上にあることをあえて意識して作られたEVにはアウディのeトロン、そしてメルセデスのEQCがある。EQCの走る曲がる止まるはまごうかたなきメルセデスのそれで、重量が重い分だけ重厚感みたいなテイストが加味されて、どことなくW124やW126時代の香りすら感じてしまう。昔のメルセデスを"古き良き時代"と信じている人は、EQCにそこはかとない懐かしさを抱くかも知れない。

ベースとなったGLCと同等の使い勝手をキープしながら、燃料電池の搭載も前提としたフレキシブルなEVプラットフォームを違和感なく構築、さらにフロント部には同等以上の衝突安全性能を確保するボルト・オンのケージ構造を用いるなど、メルセデスらしさを堅持するためにエンジニアは知恵を巡らせている。EVに対して過剰な投資が見合うかが読めない現状に多くの自動車メーカーが頭を痛めるなか、EQCのパッケージは様々な示唆に富んでいる。
らしさという点では走りも然りだ。発進からのトルク・コントロールは完璧で、自然なスロットルワークには至って自然な加減速で応えるなど抜群のリニアリティを備えている。踏めばスポーツカーもかくやの強烈な加速を示すも、EVの特徴を必要以上に誇示するほど大袈裟なものではない。そしてライド・フィールやハンドリングはいかにもな安心感や包容力に満ちたものだ。メルセデスがEVを作ると、ともすれば内燃機モデル以上にメルセデスになる。EQCはそれを証明した記念すべきモデルだろう。
電気モーターによる加速は図太いトルクがあって頼もしく、静かでスムーズなのが美点ではあるが、その反面エンジン車のようにメーカーや車種ごとの個性が出しづらくなると言われている。最新のプレミアム・ブランドEVはそこを強く意識しているようで、EQCも乗ってみると、なるほどメルセデスらしい。パワートレインは扱いやすく、いざとなればスポーツカー顔負けの加速をみせるが、癖がなくていい意味で存在を主張しすぎない。高性能だが黒子に徹します的な雰囲気がメルセデスのエンジンにも通じるのだ。
一方、今どきのEVはシャシー性能も目を見張るものがある。バッテリーは前後アクスル内の低い位置に搭載されるので、ヨー慣性モーメントが低くハンドリングには大いに有利だ。前軸重1200㎏、後軸重は1280㎏で、今回試乗したなかでパイロン・スラロームをもっともスムーズかつ素早く、しかも楽しく駆け抜けられる1台だった。プレミアム・ブランドが本気で仕立てたBEVはいろいろとスゴい。いち早く飛びつく価値は十分にあるのだ。

このガイシャ、「電気自動車であることを意識させないドライバビリティ」がスゴイ! "初モノ"に対しては、とかくその技術や存在を分かりやすくアピールするクルマも多い。必ずしも自己満足だけでなく、ユーザーに新技術を認識させるという狙いもあり、各ブランドのフィロソフィの違いとも言える。
一方、EQCはメルセデス初となる電気自動車だが、過剰アピールしない派。かつて、メルセデスのクラスを超越して一貫した乗り味を「金太郎飴」と称していたが、まさに、電気自動車になっても、何の違和感もなく、すんなりドライブでき、メルセデス・クオリティがある。たとえば、パドル操作で回生の強さを調節できるが、従来通りギア・ダウンした時と同じ「エンジン・ブレーキ」の感覚で使える。インターフェイスも機能も、難しいことを意識させず、今までの感覚でドライブできるのだ。じゃあ、新しさはないのかと言えば、限りなくワンペダル・ドライブに近いこともできるし電気ならではの特徴もちゃんと備える。技術以上にブランドの自信と強さを感じさせる。

408ps/78.0kgm。無造作にアクセルを床まで踏み込むと、その瞬間78.0kgmの超強力な駆動トルクが路面に伝達され、体がシートに埋め込まれ身動きができないほど強烈な加速Gに包まれる。まるでAMGシリーズの一台かと思えるほどの速さだ。メルセデス・ベンツが世に送り出した電動化モデルのEQCは、非常識と思えるほど強烈なモーターを積んだクルマだった。
メルセデス・ベンツからEVが出ると聞いて、国産EVを基準に、退屈な電気自動車が出てくるのか? と、動力性能に関してはあまり期待していなかった。ところが蓋を開けたらテスラやIペイスと同じく向こう側のEVだった。その結果、速いEVが例外なのではなく、むしろマイルドな国産EVが置いてきぼりを食わされた感が強くなった。ユーザー心理からしてもわざわざ高いお金を払って退屈なEVを買うはずもない。わかりやすくFUNや個性を強調するなら、速さは効果的な要素の一つだ。ちゃんとEQCを選ぶ積極的な理由になっている。
(ENGINE2020年4月号)
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