ミニ・ベースのワゴン。2015年に登場した2代目を機にVWゴルフと同じCセグメント・サイズへとボディを拡大した。さらに、後席用のドアを一般的なヒンジ式に変更。枚数も左右2枚へと増やした。ただし、テール・ドアは先代同様、観音開き式を踏襲している。機能面では新型BMW1シリーズと多くのものを共有している。JCWは2019年秋に追加されたスポーツ・モデルで、306ps/45.9kgmを発生する2.0ℓ直4ターボを搭載。全長×全幅×全高=4275×1800×1470mm、ホイールベース=2670mm。車両重量=1600kg。価格は568万円
ゴルフ・クラスにまで成長したミニのクラブマン をミニと呼べるのか。30歳すぎてロリータ服を着ているようなものではないか。と私は内心思っていた。それがビックリ!ドライブ・モードを「スポーツ」に、8段ATをマニュアル・モードにすると、ぶおおおおおおんッと排気音がひときわでっかくなって、ミニ劇場の幕 が開く。イギリス車っぽい野太いサウンドをバック・ミ ュージックに、クルマがみるみる小さくなっていく。16 00kgのボディを45.9kgmもの大トルクがびゅーんと 加速し、レスポンスのいいステアリング、硬めの乗り 心地等々によって、私は魔法にかけられる。オリジナル・ ミニのように、とまでは言えないにしても、オリジナル・ ミニを彷彿させた初代BMWミニのJCWを思い出す。
あの頃に較べたら、乗り心地ははるかに洗練されている。アクセル・オンでオーバー・ステアっぽくなる4WDのハンドリングも、とってもスポーティ。サイズは関係ない。私は私。ミニを名乗る以上、ミニはミニであることを貫き通す。その覚悟があっぱれなほどにスゴい。
ミニJCWクラブマンがスゴいのは、ミニの世界観がクルマの隅々にまで行き渡っていることだ。それは内外装デザインだけにとどまらず、運転感覚だったり、モデル構成や名前などにも及んでいる。60余年前にクラシック・ミニが造られた時、その内外装デザインにはすべて機能的な根拠と意味があった。最小限のリソースで最大限の効果を得るべく、設計者のアレック・イシゴニスは奮闘し、短時間でミニを造り上げた。優れた資質ゆえに40年間基本フォルムと構成を変えず、生き永らえ、偶像となった。その偶像をセルフ・サン プリングしたのがミニである。
JCWクラブマンは568万円する。速さや広さなどの機能的な価値を超越した「ミニであること」が最優先され、立派な"小さな高級車"にまとめ上げられている。その演出の巧みさに魅了され、世界中で販売台数を伸ばしている。クラシック・ミニはベーシック・カーだったが、現在はもはや"小さな高級車"である。ハードウェア開発と同等以上に、ミニの知財をフル活用したBMWのブランド演出力がスゴい。
ミニのJCWモデルに乗るたび、BMWのFFはこのアシをそのまま使えばいいんじゃない? と思う。ナカミがほぼ同じBMW M135iあたりだと"らしい"キャラが備わっていて差別化もキチンとできている。けれどもBMWの他のFFモデルがJCWほどファンでGTかというと、実はそうでもない。これは惜しいことじゃないか。
逆に言うとそれくらいミニのJCW系のデキが素晴らしいのだ。街のスポーツカーとしてもさることながら、ロング・ツーリングの相棒としても実は最高で、京都くらいまでならノンストップでドライブに専念できる。そんなGT、あまりない。このサイズでは皆無だと言っていい。どうしてミニにはできてBMWの最新FFにはできないか、不思議でたまらない。ひとアシ早くFFで経験を積んだからか、それとも単なるセクショナリズムか。いずれにしてもミニはモデルチェンジごとに総合性能を上げてきた。そのことは初期のプリミティヴさを失いつつあるということでもあったが、総合性能の高さはそれを補って余りあると思う。
子供の頃、『ミニミニ大作戦』(1969年)を観てその走りのパフォーマンスに感動した世代としては、こんなに大きくなったのに未だに「ミニ」だと? とBMWミニを受け入れるまでには時間を必要とした。最初の頃のBMWミニはご先祖様のテイストに仕上げようとクイックさを強調していた。それはそれで面白かったのだが、2013年に3代目となり更に熟成が進んだ現在のミニはかなりの完成度。
最強モデルのJCW搭載エンジンは従来モデルに対し76ps、トルク10.2kgmという大幅パワーアップで306ps! 45.9kgm!なんかヤバい乗り物になっていそうだが、そこはALL4のトラクションによって単純に気持ち良さだけが進化した。特に高回転の伸びが気持ちいい。ローンチ・システムは発進加速のタイム・アタックやレースのスタート以外に正しい使い道はないが、加速はトルコンATとは思えないほどシャープ。コンフォート・モードとスポーツ・モードのセッティングもこのクルマのイメージにドンピシャ。オンリーワンとしての満足度は相当高い。
"ミニマリズム"の権化ともいうべきローバー・ミニ・クーパーと20年近く暮らしている身からすると、全長 4.3m、全幅1.8mというサイズはもはや別世界の乗り物。しかも4駆。大きくなってリア・シートが想像以上に広く快適なのは喜ばしい。でもワゴンなのに荷室が360ℓしかないのはちょっと肩透かし。
そんなミニ・クラブマンに用意されるJCWは、306ps & 45.9kgmの2.0ℓ直4ターボで0-100km/h加速4.5秒、最高速度250km/hを誇る韋駄天仕様。一瞬何が目的のクルマなのか見失いそうになりながら、乗ってみて閃いた。これは"ミニ"でも"ワゴン"でもない、スペースを贅沢に使った5ドアの新たなシューティングブレークのカタチなのだ。となると、この出で立ちもパワーも乗り味もピタッとピントが合ってくる。個人的にアクティブ・ステアリングのアシストがトゥーマッチだけど、ダイナミック・スタビリティコントロールをオフにすれば大丈夫。イシゴニス博士の最小主義と対極にありながら、ミニの"ファッション性"を現代流にアレンジした快作だ。
(ENGINE2020年4月号)
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