20余年ぶりに復活したアルピーヌのニュー・モデル。その走りは小型スポーツの傑作との呼び声高い。"S"は2019年末に加わった高性能版で、標準モデルと同じ1.8L直4ターボは292psへと40psの出力向上が図られ、操縦性能を高めるべくサスペンションを硬めの設定にし、さらにルーフを炭素繊維強化樹脂に変更することで軽量化にも磨きを掛けるなど、よりサーキットで真価を発揮するような仕立てへと改良が加えられている。全長×全幅×全高=4205×1800×1250mm、ホイールベース=2420mm、車両重量=1110kg。価格は899万円。
対向車の人が見たら気味悪かったと思うけど、ステアリングを握りながら「そうそう、これですよ、これ!」と終始ニタニタしてしまった。というのも、発表されるや否や世のオジさんエンスーを虜にしたフランスのアイドルA110が、さらにブラッシュ・アップされ進化していたからだ。
エンジンは40psアップのパワー以上に、フィーリングが洗練されてデュアルクラッチ式7段自動MTとの一体感がより高まったのが印象的。脚回りはRRの初代を意識したノーマルのテールハッピーな味付けが好みという意見があるかもしれないけど、個人的にはリヤがガシッと粘るようになったA110Sの方が好み。それに加えてブレーキング時の姿勢がピターッと安定するので、とても運転しやすいのも◎。アナログ的な味わいを持つ「21世紀の心情的スポーツカー」をお求めのエンスー諸氏に、アガリの1台としておすすめ。A110は良い!でもA110Sはもっと良い!!ドライバーがクルマを常に支配下におき意のままに操れる、ライトウェイトスポーツの新たな「メートル原器」の誕生である。
これぞゴーカート感覚の鋭いハンドリングは乗った誰をも虜にするアルピーヌA110。その魅力をさらにチューンナップした"A110S"が誕生した。まずエンジンはブーストアップと高回転化で+40psの292ps/6420rpmのパワーと32.6kgm/2000rpmのトルクを7段DCTで滑らかかつダイレクトに変速して後輪のみに伝達。路面とのグリップ力を高めた専用タイヤのミシュランPS4とそれに見合うハードなサス設定が理に叶っている。
高速直進性の確かさと、目地の通過では硬いが不快な突き上げのない乗り味はスポーツカーの理想型。コーナリングも驚愕。公道でこんなに高い横Gと旋回速度を可能にする前後のグリップ・バランスに驚き、アルミ・ボディにカーボン・ルーフが効く、車重1110kgしかない上屋の軽量剛性感も十分。0-100km/h加速4.4秒の瞬発力の鋭さと260km/hの最高速度はサーキットで活きる。前後輪で路面に押さえ付けるように制動するブレーキ力も頼もしいの一語。まさにトータルに凄いスポーツカーの完成形だ。
単なる高性能なA110で終わっていなかったところがさすがアルピーヌだと思った。エンジンは40psアップというスペック以上にレスポンスの鋭さと高回転域の気持ち良さが印象的。とりわけ5000rpm以上で奏でる快音を一度耳にしてしまったら最後、そこばかり使いたくなる。脚ははっきり硬くなった。西湘バイパスの継ぎ目はそれなりに伝える。でも接地感は健在。最初はクイックになったステアリングにびっくりするけれど、しばらく走っているとサスペンションがしっとり動き、乗り手の意志どおりに姿勢を変えていくことが分かるので、安心して踏んでいける。
つまりガチガチというより、路面が近くなった。よくできたモダン・スポーツであるスタンダードのA110に対し、こちらは1960年代に登場した初代のクラシックA110を思い出させる。5年前、ディエップの裏山でジャン・ラニョッティが操るクラシックA110グループ4の横に乗せてもらったときのことを思い出した。そういえばあれも1.8Lだった。 advertisement
もう登場した時からしてやったり!現代のアルピーヌと言われて納得できるデザインに、まずやられましたよね。最近のスポーツカーにしてはお手頃サイズ。よりコンパクトに見える、カッコ・カワイイ・デザイン。これなら私でも乗れるかも♪ なんて、世の乙女まで迷わせるスタイリングなわけですよ。そしてひとたび乗れば、とにかく軽いっ!重心がセンターに、自分のお尻の隣くらいにある感じで、クイックイッ曲がる。スカッと爽快な走り味。「そろそろ羽根が生えるんじゃないかしら~」という気分に浸れます。どこぞのCMじゃないですが、イケメン男子がストレス解消してくれるような感じですね。
ちなみに今回は高性能版のA110Sというグレードに乗ったのですが、こちらはシートが前後スライドの調整しかできないので、小柄な私の体格だとさすがに前が見えず、狭い街中を走り回るのは厳しい感じ。そのあたりをフォローしたリネージュというグレードならば、十分いけると思います。というか、そこまで歩み寄ってくれたら、あとは私がなんとか合わせます!
新型A110に乗ったとき、私は即座に伊丹十三を連想したことは前年のこの特集で触れた。映画作家にして、文筆家。私は伊丹の「女たちよ!」(1968年)を、高校生のころ読んで感心したものだ。ライフスタイルに関するエッセイ集で、彼我の文化比較が多い。クルマだとたとえば、「フランスにはろくなスポーツカーがない。スポーツカーというのは、まず吝嗇の精神から最も遠いところにあるのでありまして(中略)フランス人の国民性に真向から相反する」という一節がある。
実際には1962年にA110が登場。おなじころ伊丹はフランスでロータス・エランを購入しているので、そのときにはこのフランス製スポーツカーが街を走っていたはず。私が伊丹を連想したというのは、いまのA110こそ、さりげないカッコよさ、これみよがしでない性能ぶりが、スタイリストである伊丹に代表されるおとなの男のクルマだと思うからだ。パワーアップしたA110Sもしかり。ポルシェ911ほどの荒々しさもなく、なめらかで洗練されている。街中で乗るのも、じつにすてきだ。
(ENGINE2020年4月号)
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