フロント・ミドシップ搭載のV8とリア・トランスアクスルという基本レイアウトをカリフォルニアから受け継ぎながら、見事なまでの変貌を遂げたポルトフィーノ。イタリアの風光明媚な港町の名前をとった2+2クーペ・コンバーチブルは人気絶大で、世界中で需要に供給が追いつかない状態が続いている。コンフォート・モードにすればレイドバックしたのんびりドライブすら可能な柔軟性を備える。全長×全幅×全高=4590×1940×1320㎜。ホイールベース=2670㎜。変速機は7段自動MTのみ。車両価 格は2631万円(税込)。
スーパーセレブのための実用スーパーカー、フェラーリ・ポルトフィーノ。自分とは無縁のフェラーリながら、その完成度の高さには度肝を抜かれた。まずエンジンが素晴らしい。パワフルで扱いやすいのは言うまでもないが、ポルトフィーノのV8ターボは明確な獰猛性も獲得している。回転計の針を5000rpmより上の領域に持って行けば、そこにはF40の幻影すら浮かび上がってくる! 488GTBよりも70馬力低いはずなのに、なぜかずっとワイルドに感じさせる。まさにテクノロジーの勝利。
サウンドも進化している。フェラーリ自然吸気エンジンの甲高いサウンドを惜しむ声は絶えないが、ポルトフィーノのそれは相当程度フェラーリ的。しかもターボとしては異例なほどエンジン・ブレーキが効いてくれる。おかげで速度をコントロールしやすく、スポーティかつ快適なのである。フェラーリのテクノロジーは、エコロジーの大波をかぶりつつも、それを突破しつつある。これならハイブリッド化も潜り抜けてくれるだろう。
リトラクタブル・ハードトップのデザインは難しい。折り畳んだルーフがかさばるので、ルーフもトランクもスタイリングの制約が大きいからだ。さすがのフェラーリもカリフォルニアではそのジレンマから逃れることはできなかったようで、オープンはまだしもクローズドのフォルムはハードトップを被せたことが一目瞭然だった。ところがポルトフィーノは流麗なファストバック・スタイルを手に入れている。構造を考えれば不可能ではないかと思えるような造形を実現している。
このブランドにとって美はやっぱり譲れない項目だったのだろう。あるときはエレガントなクーペ・スタイルとともにスポーツカーそのものの走りに没頭し、あるときは屋根を開け放って天空から降り注ぐフェラーリ・ミュージックを堪能する。2+2キャビンの使い勝手の良さも魅力に数えられる。このブランドに限っては、天は二物を与えてしまったようだ。それを考えれば2000万円台後半のプライスはさほど高くないと思ってしまうから不思議である。
ステアリングホイールに設けられたエンジン・スタートの赤くて丸いボタンを押すと、マラネロ製の3855cc V8ツインターボがグオオオンッといなないて目覚める。それだけで、おおおお、と思う。ありがたいことである。折りたたみ式ルーフを開けて走り出すと、いずこからか、むおおおおおおおおおおっという低音がドライバーのまわりを包み込む。そこからアクセルをガバチョと踏み込むと、ポルトフィーノのV8は乾いた野太い咆哮を発しながら、胸のすく勢いで加速する。
速いだけならフェラーリより速いクルマはほかにもある。でも、加速の際に大地の底からエネルギーが湧き上がってくるようなイメージを抱かせるクルマはフェラーリ以外にない、と私は思う。ああ、生きててよかった。ライフ・イズ・ビューティフル! 生命力がなんだかあふれてくる。さらに右足に力を込めると、7段DCTが自動的にギアを変え、同時にV8ツインターボも音色を変えて、ああ、もうどうなってもいい、ケ・セラ・セラ、なんてことまで思わせる。フェラーリは神である。
自由自在にサックスが吹けたならこんな気持ちになるのかもしれない。これがV12になるとオーケストラを指揮しているような気分になるのだが、この3.9ℓ V8ツインターボ(600㎰と760Nm)の場合は、ジャズのカルテットで縦横無尽にソロを吹いているようだ。爆発的なパワーを噴出させられるのはもちろんだが、右足ひとつで高く低く、遠く近く、滑らかにあるいは鋭くと、どのようにも応えてくれる甘美で繊細なエンジンである。
回転の上昇につれてパワーがふんだんにリニアに溢れ出すフィーリングはきめ細やかで、かといって神経質すぎることもなく、剽悍なミドシップ・モデルにはない、香り立つような華やかなエレガンスに満ちている。乗り心地にしてもハンドリングにしても、先代に当たるカリフォルニアから10年余りでここまで洗練されたか、としみじみ感心するが、それでもやはりコンメンダトーレの時代からモデナ地方の名産は内燃エンジンである。どうせ縁がないからなどと言わず、許されるうちに一度は試してみてほしい。
(ENGINE2020年4月号)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
PR | 2025.02.07
CARS
モータージャーナリストの島下泰久さんと、ルノー・アルカナ・エスプリ…
2025.02.09
WATCHES
アンダー100万円の新作・注目作の時計4本! フォージドカーボンの…
PR | 2025.02.07
LIFESTYLE
フランスの香り漂う――。エティアムの人気モデルに、麗しきゴートレザ…
2025.02.02
CARS
車重2.5tの巨体がワインディングで気持ち良く走る驚きのロールス!…
2025.01.25
LIFESTYLE
まるで南国リゾートのような家 東京の自宅の隣にローコストで別荘を建…
PR | 2025.01.24
CARS
42台のそれぞれのディスカバリー物語【誕生35周年企画「私のディス…
advertisement
2025.02.14
「私なら門前払い」 ホンダと日産の経営統合破談会見を見て、国沢光宏氏(モータージャーナリスト)は何を思ったか
2025.02.10
ホンダと日産の統合への協議破談で日産の将来はどうなるのか? モータージャーナリストの国沢光宏氏が考察する
2025.02.20
なぜ従来型のオーナーは悩み、悔しがるのか? マイナーチェンジで新しくなった三菱アウトランダーを公道で試乗した
2025.02.14
やはり難しかったか 第一報から2カ月弱、ホンダと日産の経営統合への話し合いの中止が正式決定
2025.02.11
ホンダも実は厳しい!? 日産との経営統合協議破談でホンダの未来はどうなるのか? モータージャーナリストの国沢光宏氏が考察する