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ニュルブルクリンクに続き、鈴鹿サーキットでもFF市販車最速記録を更新したルノー・メガーヌRS最速最強の〝トロフィーR〟。このサーキットを速く走るためだけに生まれたスペシャル・モデルのステアリングをこの手で握れる。場所は筑波2000。3周という限られた周回数ではあるものの、クルマ好きとしては夢のようなひと時がやってきた。
ワン・グレード下の〝トロフィー〟で3周したのち、いよいよトロフィーRのシートに収まる。サベルト製のフルバケット・シートと全周がアルカンターラ巻きになるステアリング・ホイール、さらに変速機がMTになる以外はほぼ、いつも見慣れた素のRSと変わらない。
300㎰の高出力モデルとしてはそれほど重くないクラッチを切り、シフト・レバーを1速に収め、スタート。鈴鹿でのタイムアタックの際にレーシング・ドライバーの谷口さんが発した、「Rは腕のある人にしか勧められない」という言葉を思い出し、ちょっと腰が引けたまま第1コーナーを回る。
そんな弱気な状態でもすぐに感じ取れたのがボディの軽さ。後輪操舵(約35㎏減)と後席(25.3㎏減)を取り外すなどにより、トロフィーに対して130㎏という大幅な軽量化の効果がアクセレレーターをひと踏みしただけでわかる。
1.8リッター直4ターボが発生する300㎰/40.8kgmの出力はトロフィーと変わらないにもかかわらず、加速が断然鋭いのだ。「タイム更新には130㎏の軽量化が不可欠だった」というルノー関係者の言葉を、加速しただけで十分に体感することができる。
オーリンズ製の車高調整機構付きダンパーや前輪のキャンバー角をさらに寝かせる方向に1度増やすなど、トロフィーR専用に仕立てられたシャシーは、限界を探りながらコーナーを攻めているレベルでは意外に素直。むしろ慣れが必要になるのは、後輪が逆位相時に予想以上に回り込むような挙動を見せる4輪操舵付きのトロフィーの方だ。
ブレーキングやスロットル・オフなどにより前輪に荷重を掛けるとオーバー・ステアが誘発でき、スロットルを開けて後輪に荷重を移すとリア・タイヤがピタッと安定に転じるという挙動は、メガーヌRSのほかのモデルと変わらない。ただし、トロフィーRはオーバー・ステアによるテール・スライドのタイミングや量をより自在にできる。
もちろんその分だけコントロールもシビア。ちょっとスロットルを戻し過ぎると「ドリフト競技かよ」と自分でツッコミを入れたくなるほど後輪がスライドするし、テール・スライドを維持したいところでもステアリングやスロットルの開度を少しでも見誤ると途端にスライドが収束してしまう。
そのあたりはトロフィーの方が寛容。「Rは腕のある人にしか勧められない」という谷口さんの言葉が少しだけ理解できた気がする。
あとブレーキも秀逸。試乗車は〝カーボン・セラミックパック〟でフロントに炭素繊維強化樹脂製のディスクと専用のキャリパーが備わっていたが、この出来が素晴らしい。私の試乗は何人かが走行したあとだったが、すでにトロフィーのペダル・ストロークが伸びていたのに対し、トロフィーRは終始、これが最初の走行かのような高い制動力と優れたフィーリングを見せたのである。
速いだけでなく、前輪駆動ながらコントロールの幅が広い。神経質な側面ももちろんあるが、サーキットではとても楽しいオモチャになる。普段使いに素のRS、サーキット専用にトロフィーRという2台持ちは悪くないかもしれない(笑)。
■ルノー・メガーヌR.S.トロフィーR
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 4410×1875×1465㎜
ホイールベース 2670㎜
トレッド 前/後 1620/1600㎜
車両重量 1330㎏
エンジン形式 直列4気筒DOHC16V直噴ターボ
総排気量 1798cc
ボア×ストローク 79.7×90.1㎜
エンジン最高出力 300ps/6000rpm
エンジン最大トルク 40.8kgm/2400rpm
変速機 6段MT
サスペンション形式 前/後 ストラット式/トーションビーム式
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前後 245/35R19 93Y
車両価格(税込) 689万円
文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=宮門秀行
(ENGINE2020年5月号)
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