大阪市の東、鶴見区にある正和堂書店が始めたポップで洒落たブックカバーが話題を呼んでいる。若い才能がリアルに本と触れ合う醍醐味を提案。
もともと巻いた状態だった書物は、グーテンベルクの活版印刷発明を機に冊子として流通するようになった。同時に装幀という仕様も派生する。綴じた紙を守る表紙・裏表紙に趣向が凝らされ、本の内容を語る「顔」となった。このふたつは特権階級の所有物であった知識を、広く大衆に届ける両輪だったと言っていい。
こうした表紙は英語でブックカバーと呼ばれる。そして日本では、別のブックカバーが独自の進化を遂げた。言うまでもなく書店でかけられる紙の包装であり、レジで必要の有無を聞かれることが定例となっている。
本を汚したくないという潔癖性、読んでいる本を知られたくないという慎ましさなど理由は挙げられるが、他国にはない独自の習慣であることは間違いない。また書店にとっても自店舗の宣伝になるメリットがあることから、店ごとに独自の意匠をあしらっている。そのなかでも特にユニークな試みが、大阪の鶴見にある正和堂書店だ。
もともとは家族経営の「町の本屋」。創業者の孫である小西康裕・悠哉氏兄弟が斬新なアイデアが光る季節ごとのブックカバーを手がけ、注目を集めている。アイスキャンディ、紙袋、ピアノ、包装紙が破り取られた板チョコ、伏せるとわかる富士山など遊び心満載。アイスキャンディはスティック、紙袋は焼き芋とフランスパンがしおりとなるなど、実用性も兼ねた。
美大出身のキャリアを生かし、企画とデザイン担当の康裕氏はこう語る。
「おすすめの本を撮影し、それをインスタグラムにアップしていました。多くのフォロワーがついたのですが、店頭への影響はなかったですね。それでオリジナルのブックカバーでのアピールを考えたんです」
同じくインスタでの発信だったが、効果は絶大。関西圏はもちろん、全国からブックカバーを目当てに多くの顧客が訪れ、毎回予定枚数がすぐになくなるという。
電子書籍の台頭と今回のコロナ禍により、規模の大小に関わらず、書店の営業は決して安泰ではない。そんななか、正和堂の小さくてもキラリと光るアイデアは、紛れもなく「本屋へ行く」というワクワク感を呼び起こしてくれる。
業界の衰退という危機に立ち向かうデザインとSNSの共犯関係。小さくとも見逃せないレジスタンスに拍手を送りたい。
問い合わせ=正和堂書店鶴見店 Tel.06-6912-0669
文=酒向充英(KATANA) 写真=杉山節夫
(ENGINE2020年7・8月合併号)
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