CogXは、毎年6月にロンドンで開催される人工知能と先端テクノロジーの祭典。2019年には、700人近くのスピーカー、約2万人の聴衆が参加した。しかし今年はCogXもコロナ禍の影響を受け、全面的にオンラインに移行。発表から僅か2カ月後、昨年を上回る規模で、ヴァーチャルカンファレンスが実施された。
私も登壇のオファーを受け、セッションを任された。テーマはテクノロジーとデザイン。この社会の状況を受けて、科学者とデザイナーが共に未来を創っていくような例を示したいと思い、現在プロジェクトをご一緒している浅川智恵子氏をお誘いすることにした。
浅川氏は、中学生の頃に両眼の視力を失い、それにも関わらずコンピューターサイエンスの研究者として数々の発明を生み出し、視覚に問題を持つ人々を助けてきた。現在はIBMフェローかつ米カーネギーメロン大学教授を務め、来年には日本科学未来館の館長にも就任する。
セッションでは、浅川氏が研究を共にしているカーネギーメロン大学のKris Kitani氏にも参加頂いた。まず浅川氏にこれまでの研究について話して頂き、視覚障害者を屋内で正確に目的地まで誘導するアプリや、撮影した写真をAIが解析して写っている物を読み上げる技術、予め自分の所有物を登録しておき、後日カメラにかざせば内容を教えてくれる技術などが紹介された。
「缶を持ってもビールなのかコーラなのか分からない、それが大きな問題」と説明する浅川氏だったが、まさに自分が当事者として様々な苦労を経験しているからこそ、本当に必要なものを生み出せる。コンピュータービジョンの専門家であるKitani氏からは、その裏側にある要素技術について説明があった。
そして最後に、浅川氏が現在取り組む「AIスーツケース」が紹介された。自動運転車の如くLiDARで環境を測定し、AIで処理しながら自律走行するスーツケースである。空港や街で、ユーザーを希望の場所まで案内する。
奇しくも私は、昨年発売されたGlobe-Trotterの最新スーツケース「AERO」の開発に携わったばかり。ご縁あって、このプロジェクトにも参加することとなった。私が加わった当初の試作機は、荒削りなロボットに、市販のスーツケースを上から被せたようなもの。
私の仕事は、これをファッションとしても最上の、「本当のスーツケース」に設計し直すこと。盲導ロボットである以前に、周りの人も羨むクールなスーツケースでなければならない。街や旅に連れて歩きたい、ファッションを楽しむ自由を、享受できるものにしたい。
CogXでこのようなセッションを紹介できたことは重要だと思う。技術は困難を解決し、出来なかったことが出来るようになる。しかし、それだけでは不十分である。自信を持って、快適にそれが出来る、ということが大切である。そこに、科学者とデザイナーが一緒に考えることの重要性がある。
文=吉本英樹
(ENGINEWEBオリジナル)
吉本英樹(よしもと・ひでき)/デザイン・エンジニア。1985年生まれ、和歌山県出身。2008年東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業、2010年同大学院修士課程を修了。同年日本人工知能学会全国大会優秀賞、2013年LEXUS DESIGN AWARDなど受賞多数。2016年英ロイヤル・カレッジ・オブ・アート博士課程を修了。同時にロンドンにてTANGENT(タンジェント)を設立。2019年にはエルメスの大型インスタレーションを手掛けたほか、グローブ・トロッターの新シリーズ「エアロ」のデザイン・エンジニアリング・ディレクターを務めた。工学、デザイン、アートと、領域を超えたユニークな活動が注目されている。
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
文=吉本英樹
advertisement
2024.07.20
CARS
クルマは「自由な時間をくれる相棒」という漫才師のオール巨人さん 愛…
PR | 2024.06.28
WATCHES
宇宙のロマンがここにある! 壮大なる宇宙の風景を表現する限定モデル…
2024.07.03
CARS
「プレジデントは愛人です」という俳優の寺島 進さん、43歳で買って…
PR | 2024.07.16
WATCHES
ザ・シチズンの100周年記念限定モデルの文字盤はなんと、藍染和紙!…
2024.06.29
LIFESTYLE
MASERATI GranTurismo × FENDI スタイリ…
PR | 2024.07.16
WATCHES
パテック フィリップは旅時計も超複雑時計も革新・進化を続ける! シ…
advertisement
PR | 2024.07.17
アバルト695の最後の限定車、「695 75°アニヴェルサーリオ」が350台限定で登場
2024.07.20
クルマは「自由な時間をくれる相棒」という漫才師のオール巨人さん 愛車は5リッターV8マニュアルの素敵なBMW Z8
2024.07.03
「プレジデントは愛人です」という俳優の寺島 進さん、43歳で買って17年を共にした愛車が工場入り 動かなくなっても持ち続けるという言葉がジンとくる
2024.07.10
500馬力のスーパースポーツよりマツダ・ロードスターのほうが上の理由とは? モータージャーナリストの斎藤慎輔がズバリ指摘するND型ロードスターの魅力
2024.07.18
アウディA4がフルモデルチェンジ A5に改名した理由や、一新された外観や進化した中身を解説