割れ、欠けは破損ではない。修復で新しい個性をつくる。不完全さを愛でる日本アートクラフトが世界を癒す。
安土桃山時代の茶人が始めたとされる金継ぎ。割れたり、欠けたりした陶磁器を漆でつなぎ、そこに金の修飾を施す。最近、この伝統工芸が静かなブームだ。立役者のひとりがナカムラクニオさん。前職のテレビ番組ディレクターのころ、人間国宝の陶芸家からもらった湯のみ茶碗が欠けてしまい、どうしても直したいという思いから見様見真似で始めたのがきっかけだった。初めてながら満足できる仕上がりになったことで本格的にのめりこみ、やがて自ら経営するカフェで教室を開くことに。「最初は少なかった」という参加者の状況が一変するのは、東日本大震災の後。
「習いたいという方が一挙に増えました」
多くの人が捨てられなかった大切な品を持ち込み、金継ぎに没頭した。壊滅的な災害の後で、単にものへの愛着が増したわけではない、ナカムラさんは、修復自体が内にため込んだ不安やトラウマへのセラピーと考えている。
「器を直すことで自分自身の心を癒しているのではないかと思います」
城というシンボリックな文化財が大きなダメージを被った熊本。ボランティアで開いた金継ぎ教室も、地元の多くの人が詰めかけて大盛況だった。
実は金継ぎのような修理法は海外には見当たらない。修復自体は珍しくはないが、破損個所を隠すようにすることはあっても、金などであえて目立たせることは日本独自。特に呼継ぎという異なる器の破片を組み合わせる技法は、海外でも驚きと感嘆をもって受け入れられるという。その手応えを感じたナカムラさんは、伝統を踏まえつつ、金継ぎの伝道師として新しい可能性を積極的に発信している。
「金継ぎは単なる修繕ではありません」とナカムラさん。「傷を無かったことにするのではなく、歴史の一部にする。新しい調和の象徴なんです」
最近では、紛争を繰り返す隣国同士の陶磁器を国境線で呼継ぎした作品を制作し、動画で公開。各々の存在を生かし、分断から融合へと導く発想が感動的だ。
破片(Piece)が平和(Peace)をつくる。傷が絆を生む。不完全さを許容し、金という新しい輝きを与えて再生させる美意識を、日本人はもっと誇りに思っていい。
ナカムラクニオ/1971年生まれ。映像ディレクター、荻窪のブックカフェ「6次元」店主、そして金継ぎ作家として活躍。日本全国のみならず、海外でも普及に努めており、最近ではオンラインでのレッスンも頻繁に行っている。『金継ぎ手帖 はじめてのつくろい』(玄光社)など著書多数。
文=酒向充英(KATANA) 写真=杉山節夫
(ENGINE2020年9・10月合併号)
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