いま着けたいのは、“物語” のある時計--。その興味深いストーリーを知るほどに魅力は深まるばかり。ここに現代の名品たちを主役にした珠玉の短編集を編んでみた。
ファッションメゾンが時計を作ることは珍しいことではなくなり、 どんどん両者の垣根はなくなっている。しかしだからといって、完全に融合することは難しい。時計は太陽と月の動きから導き出された時間という概念を表現する"人類が生み出した最高峰の機械"である。もう一方は、"自己表現の道具"として洗練を重ねてきた衣裳文化の最先端。つまり時計とファッションは、伝統と革新をぶつけ合うライバルでもあるのだ。
だからこそデザイナーズウォッチには価値がある。ファッション デザイナーが、時計文化の伝統に敬意を払って時計をデザインしたとき、時計とファッションは初めて融合するのだ。トム・フォード自身、かねてから着手したいと望んでいた「トム フォード タイムピース」が2018年にローンチした。刻々と変化するモードの世界との融合を考え、ケースはラウンドとレクタングルという伝統的なスタイルのみ。そしてストラップを変更可能にして、軽やかにファッションと結びつけるのだ。
今年は待望のメタルブレスレットが誕生。厚さ2mmという薄くて繊細なスタイルは、時計メーカーのモノとは一線を画しており、トム フォードの創造性を完璧に表現している。
文=篠田哲生 写真=近藤正一
(ENGINE2020年9・10月合併号)
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