いま着けたいのは、“物語” のある時計--。その興味深いストーリーを知るほどに魅力は深まるばかり。ここに現代の名品たちを主役にした珠玉の短編集を編んでみた。
21世紀の時計史の中で、最も衝撃的な出来事のひとつが、2001年にユリス・ナルダンが発表した「フリーク」だ。今や多くの時計ブランドが採用するシリコン製のムーブメント素材や、後に各社が挑むことになる拘束角の小さな新型脱進機を盛り込みながら、輪列全体を60分で1回転させる奇抜なセントラルカルーセルを採用していた。
言わばフリークは、ムーブメントそのものが回転して時間を表示するのだ。基礎設計を行ったのは、若き日のキャロル・フォレスティエ=カザピ(現在はリシュモン グループの複雑系ムーブメント開発を一手に手掛ける"トゥールビヨンの女王")。製品化に向けての大改良を行ったのは、かのルードヴィッヒ・エクスリン博士だ。
以降ユリス・ナルダンは、フリークを新技術開発のショーピースと位置付け、革新を盛り込んでいく。しかし一方で、フリークの複雑さと奇抜さは年々加速していき、手軽に使えるシロモノではなくなっていった。2019年に発表された「フリークX」は、そんなもどかしさを一発逆転させるエントリーモデル。一般的な自社製自動巻きをベースに、象徴的なセントラルカルーセルだけをダイアル上に残したのである。これで200万円台という価格も大いに魅力だ。
文=鈴木裕之
(ENGINE2020年9・10月合併号)
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