人気バンド、ペトロールズを率いる一方、サポート・ギタリストとしても活躍する長岡亮介さん。シトロエンDSを手に入れ、ますますシトロエン愛深まる。
長岡亮介さんと話をすると、いつも感じることがある。物腰、口調、そして考え方がとても柔らかいのだ。誤解を恐れずに書くと、ファイト一発とか、エネルギッシュとか、一心不乱という言葉が当てはまらない。無理して頑張っているのは、カッコ悪いとさえ思っているのかもしれない。自分の主張を一方的に話すようなことはまったくない。むしろこちらの意向を汲んだ答えをくれる。柳が風を受け流すように、質問を煙に巻かれることがあるのは、長岡さんが聡明だからだろう。ロックバンド「東京事変」では浮雲という名のギタリストであるように、長岡さんはフワリとした人なのである。
フワリとした人だからなのか、長岡さんは大のシトロエン好きだ。いまは、アミ6とDSの2台持ちである。そんな長岡さんにクルマ原体験を聞いた。
「僕のクルマ原体験は父が乗っていたホンダ・アクティ・ストリートですね。丸いライトの初代。父がワタナベのホイールを履かせたり、リア・ゲートに“VAN”のステッカーを貼ったりするのを見て、クルマって面白いなあと思いました」
「自動車雑誌などで見て、学生時代からフランス車は好きでした。ルノー・キャトルが欲しかった。テレビドラマで反町隆史さんが乗っていて、初回で海に突っ込むんです。うわあ、これは真似したと思われたら嫌だなと、あきらめてその次に好きだったスズキ・ジムニーを買いました。それが最初のマイカーです」
壊れなかったBXブレーク
スズキ・ジムニーに乗りながらも、見据えていたフランス車があった。それはシトロエンDSである。
「でも、いきなりDSにいけなくて、BXブレークに乗り換えたんです。ジムニーとは何から何まで違いました。乗り心地が素晴らしいというのが第一印象です。もちろん、カッコイイと思いました。あの頃のフランス車ってみんな目つきが優しいんです。プジョー505だって、睨んでいるようで睨んでないでしょう?」
BXブレークの調子は良く、大きなトラブルはなかったという。これが長岡さんのシトロエン好きに拍車をかけたようだ。
「初キャンプが雨! みたいなことにならなかった(笑)。アミ6を増車しました。もう1台はドイツ車という気持ちにはまったくならなかった。シトロエンを掘り下げたかった」
そんな気持ちが強くなったのか、BXブレークはボビン・メーターの初期型に買い換えられた。
「90年代から80年代へ遡った(笑)」
そして、その初期型BXはついに念願のDSへと買い換えられた。4年前のことだ。
「80年代から70年代へ。どんどん遡ってますね。まあ、トラクシオン・アバンにはいかないけど」
学生時代から見据えていたシトロエンDSを初めて運転した感想は?
「緊張しました。でも、慣れてくると独特のダンピングに感動した。クルマの動きはすごくヤワだろう? と想像していたんですけど、そんなことはなかった。ステアリング・フィールは結構ダイレクトなんです。Dスーパーというグレードで、2リッター4気筒の4MTです」
なんと峠道も走ったという。
「そんなに速くないけど、トルキーでモリモリ走るんです。グリップがいいんだよなあ。キビキビしてるんですよ。すごく気に入ってます」
トラブルは“ライブに遅刻したぐらい”と話す長岡さん。やっぱりDSが“長岡亮介のクルマのクルマ”だと思っている。
「乗ってきたシトロエンのなかで一番いいかどうかは微妙だけれど、シトロエンであることが最もわかりやすいんじゃないかな」
シトロエンらしさって何ですか?
「独特な感じ。デザインも乗り心地も。グローバルじゃない純血な感じが好きなんです」
なかでもDSらしさとは?
「乗ったときの癒され感。あの感じはほかにないですね。ストイック過ぎるクルマって苦手かも。デザインはもちろん最高です。街中で指笛吹かれたり、手を振られたり、スマホで写真撮ってサムズ・アップする人とか、いろいろ楽しい出来事があります」
フワリとしていて掴みどころのない感じの長岡さんだが、こういう人ほど初志貫徹なのかもしれない。他人と同じものが好きではないということもずっと変わらない。DSに乗るようになって、自身が率いるバンド、ペトロールズの音楽もますますユニークなものになっていくだろう。
文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=鈴木 勝(DS)/柏田芳敬(アミ6)
(ENGINE2020年7・8月合併号)
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