ホンダ初の量販EVとして話題のホンダe。ターゲット層を絞り込んだ、その魅力を解説する。
ホンダ初の量販EVとなる、その名もホンダeはズバリ「街中ベスト」を標榜する。世のEVの航続距離競争に乗っかれば、バッテリー容量が増えてクルマが大きく重くなり、価格も上がる。ホンダはそことは一線を画し、EV本来の静かでスムーズな走り、優れたローカルエミッションといった美点を活かしてシティコミューターに徹したEVを作ろうと考えたのだ。
サイズは全長4m未満と小さく、最小回転半径はわずか4.3mというホンダe。これを可能にしたのがリアモーター後輪駆動のレイアウトだ。それによる大きな前輪切れ角が短いオーバーハングと相まって、軽自動車並みの小回り性を実現した。
開発は手慣れたFFで始まり、途中でこの大転換が起きた。それならばいっそと、ここから走りにも力が注がれ出したのだという。電気モーターはハイブリッドのアコードからの流用で、その大トルクを活かすべくリアサスペンションは独立懸架とされ、上級グレードのタイヤにはミシュランPS4が奢られているのだ。
バッテリー容量は35kWh。航続距離は283㎞に留まるが、急速充電の速度向上により、充電30分で走行200㎞分をしっかり充たせるという。なので実は長距離行でも、旅行時間は思いのほか短くて済むというわけである。
デザインも見どころだ。ツルンとした造形の外観は、小さく愛らしい中に骨太さもあり存在感十分。リビング感覚と謳うインテリアは、ずらり5枚が並ぶモニターが壮観だ。ネットは常時接続され、「OK、ホンダ」の呼びかけで起動するホンダパーソナルアシスタントも搭載するなど、コネクト機能も充実している。
こんな具合に妥協なく作り込まれたホンダeだが、おかげで価格は451万円からと決して安くはない。そもそもは欧州のCAFE(企業平均燃費)規制対応が主目的ということもあり、国内販売予定は年間1千台と非常に控えめである。
しかしながら、対象を絞ったことによる割り切りが、久々にホンダらしいと評したくなる大胆さに繋がっているのも事実だろう。実際、国内向けの最初の数百台は、発表数日で完売したとのこと。機能的価値よりも、情緒的価値でアピールするEVの登場である。
文=島下泰久 写真=本田技研工業
(ENGINE2020年11月号)
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