SUVでヒット作を飛ばし続けるトヨタからまたもや新たなSUVが登場した。こちらも販売は絶好調で、すでに計画の10倍近い3万9000台を受注したらしい。
世はクロスオーバー/SUVブームと言われているが、実際に新車国内販売ランキングを見ると、売れているのはほとんどが“トヨタの”SUVである。何しろ、昨年RAV4を復活させ、ライズを投入。今年は新型ハリアーと、立て続けにヒットを飛ばして市場を席巻しているのだ。
それでもトヨタは満足できないらしく、続いて発売されたのがヤリス・クロス。その名の通りヤリスと基本骨格、つまりはTNGAのGA-Bプラットフォームを共有する。
もっとも外観はヤリスとはあまり似ておらず、クロスオーバー的な洗練度と力強い前後フェンダーなどが醸し出すタフな雰囲気がうまくブレンドされている。日本に加えてヨーロッパが主戦場ということで、力強さはやり過ぎくらいでちょうどいいのかもしれない。
全長4180mm×全幅1765mm×全高1590mmとサイズもヤリスよりひと回り大きくなっている。その分はしっかり室内空間に反映されていて、前席だけでなく後席も狭苦しさは感じないし、荷室容量はひとつ上のセグメントにも匹敵する390リッターが確保されている。後席背もたれが40:20:40分割式とされ、さらにフロアボードまで左右別々に高さ調整が可能と、様々なアレンジが可能。足のジェスチャーで開くパワー・バックドアまで用意されているが、その動作スピードも大幅に速められているという。開発メンバーの方々、手動で開けた方が速いと言われ続けて奮起したのだそうだ。
思えばヤリスは先代より全長を短縮し、ドライビング・ポジションの適正化も図った一方で、後席や荷室の広さは二の次とされていた感がある。それもこれも、ヤリス・クロスが後に控えていたからこその思い切りだったのだろう。
走りっぷりはヤリス譲りの軽快な仕立てで、それに加えて静粛性が高められたこともあり、一層気持ち良く走ることができる。特に電気モーター出力の高められたハイブリッドはドライバビリティが良く、活発。それでいて燃費は売れ筋であろうFF版で30.8km/Lと超少食なのだ。
またガソリン、ハイブリッドともに用意される4WDは、雪道発進アシストの枠を超えて各種走行モードを備え高い悪路走破性を実現しているなど、意外やSUVとしての性能も真摯に追求されている。また、ヤリスではレバー式だったパーキング・ブレーキが電動になり、その恩恵でレーダー・クルーズコントロールが完全停止・再発進可能に進化しているのも見逃せない。
乗れて、積めて、しっかり走れる。ヤリス・クロスの完成度は非常に高い。不満と言えば、売れて売れて街にあふれ返りそうだというぐらいではないだろうか?
文=島下泰久(モータージャーナリスト) 写真=望月浩彦
(ENGINE2020年12月号)
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