電動化社会に向けてホンダが出した解答のひとつがコレ。電気自動車の短所に抗わず、長所を際立たせることで、ホンダらしいワクワクするクルマに仕立て上げた。
試乗会場へと向かう街中ですれ違った、これから乗るホンダeの存在感は際立っていた。ツルンと丸みを帯びたフォルムに丸型2灯式ヘッドランプの組み合わせは愛嬌たっぷりで、いかつく目つきのよろしくないクルマばかりの今、そこに居るだけで周囲の空気を和ませる力がある。
そんな柔らかな雰囲気をまとって登場したホンダ初の量販EVとなるホンダeだが、実は中身はかなり攻めている。何しろ電気モーターは、フィットより100mm短い全長3895mmのボディの後端に積み込まれており、駆動するのは後輪、つまりRRレイアウトを採用。駆動用リチウムイオン・バッテリーの容量は35・5kWhに留まり、満充電航続距離はベースモデルで“たったの”283kmに過ぎない。
ホンダeが標榜しているのは“街なかベスト”。EVはローカル・エミッションを抑えるのに貢献する一方、長距離走行では充電の問題がまだ拭い去れないと考えたホンダは、狙いをシティユースに定めた。そして、その最適解を追い求めた結果がこのパッケージなのだ。
航続距離を日常生活の伴侶としては十分というレベルに抑えることで車体は小さく軽くなり、EVとしての効率性も高まる。シティユースと割り切れば後席、荷室はミニマムレベルでも許される。
こうして小さくなった車体に良く切れるステアリングを組み合わせれば、市街地で扱いやすいクルマになる。ホンダeの前輪は外輪が40度、内輪が50度も切れて、最小回転半径は4・3mと軽自動車並みに抑えられている。そう、RRは前後オーバーハングを切り詰め前輪の切れ角を大きく取ることが主目的だったのだ。
それでも、せっかくのRRなんだから走りも楽しくと開発陣はやっぱり考えた。その結果、4輪独立懸架やアルミ鍛造ロア・アーム、大径ダンパーなどが奢られていったのだという。
ハイブリッドのアコードと共用の電気モーターはベースモデルで最高出力136ps、上級グレードのアドバンスで154psを発生する。最大トルクはともに315Nm。1・5トン超の車重には十分以上と言え、RRのトラクションの良さも相まって走りはとても小気味良い。重いクルマを大トルクで遮二無二加速させているのとは異なる爽快なダッシュを見せるのである。
コンパクトなだけでなく鼻先軽く、重心も低く抑えられていることから、フットワークも軽快そのもの。小回りが効くこと、そして全方位に視界が良好なことも相まって、狭く、駐車車両が並ぶ路地でも臆することなく入って行けるのが痛快だ。
実はこの取り回しの良さには、サイドカメラ・ミラーシステムも貢献している。ユニットが全幅内に収まっているからギリギリまで幅寄せできるのである。
つい走りの話から始めてしまったが、ホンダeの見どころはそれだけには留まらない。ラウンジ調でまとめられた室内には、このサイドカメラ用を含む5枚のモニターがずらりと並ぶ。各種表示をスマートフォン感覚でカスタマイズしたりアプリを使ったりもできる。また、「OK、ホンダ」と声をかけると起動して音声認識で様々な機能を呼び出せるパーソナルアシスタントも活用可能。画面に出てくる不思議なキャラクターとの会話は、さほど役立ちはしないけれど、ちょっとした癒やし効果が得られる。充電中でもパワーオンにできるから、待ち時間にこの画面で動画などを楽しむことも可能だ。自宅では何かとやり辛いオンライン会議を、ホンダeの車内でというのも今どきっぽいかもしれない。
その充電も、バッテリー容量こそ小さいものの充電速度に配慮されていて、急速充電30分で約8割を充たし、200km以上を走行できるとされる。高速道路を2時間走るごとに少し長めの休憩と考えれば、長距離だって決して苦手じゃないと言っていいのではないだろうか。
まさにコンセプト、そしてデザインの勝利と言えるホンダe。願わくば、これ一発で終わることなく、カーボンフリー社会に向けて世の中をワクワクさせるクルマを続々展開してくれることを期待したい。
文=島下泰久 写真=篠原晃一
■ホンダe
駆動方式 リア横置きモーター後輪駆動
全長×全幅×全高 3895×1750×1510mm
ホイールベース 2530mm
トレッド 前/後 1510/1505mm
車両重量 1540kg
動力形式 交流同期電動機
最高出力 154ps/3497-10000rpm
最大トルク 315Nm/0-2000rpm
変速機 1段固定
電池形式(容量) リチウム・イオン式(35.5kWh)
一充電走行距離(JC08/WLTC) 274km/259km
サスペンション形式 前後 ストラット式
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前/後 205/45ZR17 88Y/225/45ZR17 94Y
車両価格(税込) 495万円
(ENGINE2020年12月号)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
2024.11.23
LIFESTYLE
森に飲み込まれた家が『住んでくれよ』と訴えてきた 見事に生まれ変わ…
PR | 2024.11.21
LIFESTYLE
冬のオープンエアのお供にするなら、小ぶりショルダー! エティアムか…
2024.11.21
CARS
日本市場のためだけに4台が特別に製作されたマセラティMC20チェロ…
PR | 2024.11.06
WATCHES
移ろいゆく時の美しさがここにある! ザ・シチズン の新作は、土佐和…
2024.10.25
LIFESTYLE
LANCIA DELTA HF INTEGRALE × ONITS…
2024.11.22
WATCHES
パテック フィリップ 25年ぶり話題の新作「キュビタス」を徹底解説…
advertisement
2024.11.16
こんなの、もう出てこない トヨタ・ランドクルーザー70とマツダ2 自動車評論家の渡辺敏史が推すのは日本市場ならではの、ディーゼル搭載実用車だ!
2024.11.15
自動車評論家の国沢光宏が買ったアガリのクルマ! 内燃エンジンのスポーツカーと泥んこOKの軽自動車、これは最高の組み合わせです!
2024.11.15
GR86の2倍以上の高出力 BMW M2が一部改良 3.0リッター直6ツインターボの出力をさらにアップ
2024.11.20
抽選販売の日時でネットがざわつく 独学で時計づくりを学んだ片山次朗氏の大塚ローテック「7.5号」 世界が注目する日本時計の傑作!
2024.11.16
ニスモはメーカーによる抽選販売 日産フェアレディZが受注を再開するとともに2025年モデルを発表