人間の声を思わせるチェロの響きは聴き手の心の奥深くに浸透してくる独特な音色。若きチェリストの個性的な演奏に耳を傾けたい。
チェロは「人間の声にもっとも近い音をもつ楽器」といわれ、それは低く深々とした音色の魅力を示すことはもちろんだが、楽器を包み込むように慈しむように抱え、心臓に近いところで響かせることも大きく影響している。
近年、国際コンクールで日本人が上位入賞を果たすケースが増えているが、彼らは若いうちに海外に目を向け、国際舞台で通用するチェリストを夢見て留学し、よき恩師に巡り会うことで才能が開花。国際コンクールにも果敢に挑戦している。
今回は、若芽がぐんぐん空に向かって伸びていくようなみずみずしくエネルギッシュな演奏を行う3人の奏者にスポットを当てたい。
2010年、難関として知られるミュンヘン国際音楽コンクールで第2位入賞に輝いた横坂源はドイツに留学し、「自分が本当に演奏したいと願う本質を貫く姿勢、ドイツ語の語彙と作品との関係、音の出し方、リズムの扱い方など幅広く学びました」と語る。シュトゥットガルト放送交響楽団に在籍していたこともあり、レパートリーは広い。その視野の広さが音楽を肉厚なものにしている。
15歳からロンドン在住の伊藤悠貴は、2010年ブラームス国際コンクール第1位をはじめ数々の受賞歴を誇る。ラフマニノフを得意とし、2018/19年シーズンにはロンドンのウィグモア・ホールと東京の紀尾井ホールにおいて史上初となるオール・ラフマニノフ・プログラムによる演奏を行い、底力を示した。
伊藤悠貴の演奏は、作品の内奥へとひたすら迫る真摯なもの。緊迫感に満ち、しかもおおらかで自然体。聴き手の心を作品へと近づける。
2019年、ミュンヘン国際音楽コンクールのチェロ部門で日本人初の優勝に輝いたのは佐藤晴真。現在はベルリンでさらなる研鑽を積んでいる。
「ブラームスに心惹かれています。ブラームスの作品はチェロの低音を効果的に用いて豊かにうたうように書かれているため、自分の声とシンクロする感じがする」
そんな彼がデビューCDに選んだのはオール・ブラームス。チェロ・ソナタ第1番、第2番に歌曲の編曲版を組み合わせた独自の選曲である。
ここではピアノと融合し、またあるときは丁々発止の対話を繰り広げ、低音の馨しい響きを存分に披露している。彼らの演奏は個性的な光を放ち、多様な響きが微妙なニュアンスを生み、分厚い低音がヒューマンな歌を奏でる。チェロの魅力を堪能させてくれる国際派たちの誕生だ。
文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)
(ENGINE2021年1月号)
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