優れたエンジニアリングは、天才の系譜によって受け継がれる。自動車業界では、フェルディナント・ポルシェからフェルディナント・ピエヒ&ハンス・メツガーへという才能 のバトンがあったように、スイス時計業界においても、エンジニアリングの継承から優れた時計を作ってきた歴史がある。その筆頭が、スイス北部の街で1868年に創業された名門「IWC」だ。
IWCのエンジニアリング哲学の礎を築いたのが、アルバート・ペラトンという人物。彼はIWCの技術開発責任者で、今でも傑作ムーブメントと誉れ高い「キャリバー89」を1946年に開発する。このムーブメントは、視認性に優れるセンターセコンド式でありながら、厚みが4.35mmしかなかった。このスペックが、’48年にパイロットウォッチの傑作「マーク11」を生み出すことになる。
当時のパイロットウォッチは、着陸時のレーダースクリーンに対する耐磁性能に難があった。しかしキャリバー89は薄型なので、耐磁性に優れる軟鉄製のケースでムーブメントを覆ったとしても、ケースが大きくならずパイロットの操縦を邪魔しない。もちろん精度は高く、機構は堅牢。つまりペラトンのエンジニアリングが、パイロットウォッチを生み出す原動力になったのだ。
マーク11はIWCの象徴として1981年まで現役を続け、現在は「マーク18」へと進化を遂げることになるが、このパイロットウォッチをきっかけに大きく発展したIWCの技術力を次世代へと牽引したのが、ペラトンの元で研鑽を積んでいたクルト・クラウスである。
ペラトンから技術を学んだクラウスは、ペラトンが退社した後のIWCの技術開発責任者となった。彼は複雑なメカニズムをシンプル化し、操作性を向上しつつ巻き上げの効率化を高めることを念頭にムーブメントを開発。多くのグランド・コンプリケーションを開発し、そして師匠が考案した画期的な巻き上げ機構「ペラトンシステム」をベースに、6年の歳月をかけて開発したIWCの自社ムーブメントのキャリバー5000を2000年にデビューさせ、IWCは再びマニュファクチュールブランドとして力強く前進を始めた。
現在のIWCのエンジニアリングは、ペラトンとクラウスの理念を継承する形で発展している。キャリバー5000から再始動した自社ムーブメントは、現在7シリーズ、20種まで規模を拡大しており、サイズや機構も多彩に取り揃えている。
もちろんIWCのエンジニアリングの象徴であるパイロットウォッチにも自社ムーブメントは搭載されているが、単なる〝機械自慢〟にはならない。大きなパーツを用いて堅牢さを高め、美しい仕上げを施しているにも関わらず、シースルーバックではないのでその姿は見えない。とにかく徹底的にストイックなのだ。
外見は計器としての価値を損なわないように、ダイアルは伝統的なデザインを継承。そこにセラミックやブロンズといった素材の技術を磨いて表現力を高めている、しかしあく までも計器であるという姿勢は崩さない。その実直な信念が、なんともIWCらしいのだ。
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文=篠田哲生 写真=近藤正一 スタイリング=仲唐英俊
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