2021.01.09

CARS

フェラーリ812スーパーファスト&F8トリブート、熟成したスーパースポーツカーの王者!

フェラーリのフラッグシップと最新のV8モデルを箱根に連れ出し、スーパースポーツにおけるフェラーリの進化を考えた。


812はスーパーカー?

荒井 最初に登場するのはフェラーリ。フラッグシップの812スーパーファストと、最新のV8モデルであるF8トリブートに試乗しました。座談会は西川淳さん、山崎元裕さん、本誌ムラカミ編集長の3名。そこに私、アライも加わります。


村上 最初に聞きたいことがある。以前、座談会で西川流スーパーカーの定義が出たよね。


荒井 マルチシリンダー(8気筒以上)でミドシップのロードカーをいう、というやつですね。


村上 ということは、フェラーリのフラッグシップたる812スーパーファストはFRだからスーパーカーではないということですね。


西川 ちょちょっ、ちょっと待って。編集長。僕、ミドシップって言いましたよね?


一同 言った、言った。


西川 フロント・ミドシップもありなんではないかと。


一同 アハハハ。そう来たか。


西川 今回の取材で完全なるフロント・ミドシップは、スタイルの面でも性能の面でもリア・ミドシップに匹敵するという発見があった。


山崎 上手いこと逃げたな。


西川 思い返せば、SLRマクラーレン、AMGGTしかり。しかし、ベントレー・コンチネンタルGTやBMW M8は違うと。ご理解いただけますか? 完全なるフロント・ミドシップ・スーパーカーの、そのロングノーズっぷりたるや凄まじい。異形というか、美しいとは言い切れない迫力がある。その点で812スーパーファストもスーパーカーであります。


村上 認定?


西川 ハンコ、押しましょ。


荒井 いただきました! フェラーリ812スーパーファスト、西川流スーパーカー認定です!


山崎 550マラネロや599もフロント・ミドシップで、そこはフェラーリもきちんとやってきたけれど、それが美しいかどうかは別問題だと思う。


西川 そういうことです。スーパーカーは美しくあってはならない。今回の試乗でわかりました。


荒井 新しい条件入りました(笑)。


西川 あとでアストン・マーティンの話もするけれど、アストン・マーティンは素晴らしく美しいからスーパーカーにはなれない。


スポーティでありながら華やかな雰囲気を持つ独特のインテリア。乗り込んだ瞬間、ワン・アンド・オンリーの世界にドライバーを誘う。ドライバー正面にレブカウンターを備える。

山崎 ノーズがずっと先に見える812スーパーファストに乗りながら、この異形さもアリかなと思った。


西川 でも、前輪の上の峰がちゃんと見える。あれ、フェラーリのミドシップ・モデルの特徴なんです。それをFRでもやってる。


電子制御データはFXXで

村上 確かに812スーパーファストには見る人を驚かせるオーラがある。それはスーパーカーに共通するものだね。


荒井 乗り込んでも高揚する。ステアリングを切ると、あんなに前輪が遠くにあるんだと驚くし、普通じゃない感が満載なんだよね。


西川 一方で懐かしくもある。昔のスポーツカーってこうして、前の方で舵が効いていたなあと。812スーパーファストは古典的なキャラクターを残しつつ、最新の電子制御技術で万人向けにしている。


6.5リッター自然吸気12気筒エンジンはフロント・ミドに極限まで低く搭載 されている。8500rpmで最高出力800psを発生する。変速機はリアに置かれるトランスアクスル式7段DCTとなる。

山崎 800psだからね。電子制御がなかったら扱えない。電子制御技術はFXXのようなサーキット専用車からのデータを参考にしている。プロのレーシング・ドライバーではなく、サーキットを走るのが好きというフェラーリ・オーナーにFXXでサーキットを走ってもらって、いざという時、どういう操作をするのかというデータを取って、それを量産車の電子制御に反映している。


レザー・シートの掛け心地、サポートともに申し分ない。F8トリブートのシートと見比べると、812スーパーファストがGTカーのテイストを持ったクルマだということがよくわかる。

村上 確かに以前、599に乗った時に感じたおしりがムズムズするような危険な香りは812スーパーファストにはない。


西川 特にウェット・モードにすると、落ち着いたGTカーのような走りになる。一方でスポーツ・モード以上にすれば、これまでのFRフェラーリのような危うい感じもある。


3世代目のF8

村上 一方のF8トリブート。僕は本当に感心した。ゆっくり走っても、速く走っても、都会で走っても、峠道を走っても、サーキットでも、そして誰が乗っても気持ちいいクルマ。


荒井 僕も痺れました。コーナリングがこんなに気持ちいいクルマはほかにないんじゃない?


西川 458、488、そしてF8トリブート。同じプラットフォームを使って、3代目だからね。フェラーリも3代やれば熟成するんだと思った。いままでは308と328、348と355、360と430というように2世代でフルモデルチェンジしていた。


荒井 どうして今回は3代なの?


西川 フェラーリとして今後のパワートレインをどうするか? という問題で、ちょっと時間が必要だったんじゃないかと思う。


山崎 F8トリブートも812スーパーファストも初期に乗ったのと全然違う。いわゆるラインチェンジを積極的にやるようになった。今回乗ったF8トリブートは脚の動きがしなやかで、びっくりするぐらい熟成していた。


812スーパーファストに比べると、よりスポーティな印象を与えるF8トリブートのインテリア。主要なコントロール・スイッチをステアリング・ホイールに配置するのは、812スーパーファストと同様となる。

村上 本当にF8トリブートにはちょっと参ったな。ミッドシップのお手本だと思う。


西川 あまりにも良すぎて後ろ髪が引かれなくなった。欠点がないのが欠点という感じ。


村上 どのモデルまで引かれたの?


西川 458。


荒井 488からターボになったから最後の自然吸気V8。


西川 それもある。また回したい、もっと回したいと思うのは、やっぱり自然吸気だね。音もいいし。


山崎 僕は430かな。マニュアルもあったし。


村上 僕もV8モデルで一番好きなのは430です。


山崎 360モデナから430への変化はものすごいものがあった。


812スーパーファストよりレーシーな印象のあるバケット・タイプのレザー・シートは、肉薄ながら掛け心地は素晴らしい。2台のサイドビューを見ると、Aピラーと前輪の位置関係がよくわかる。

村上 そうそう。ポルシェ911で言うと996型が997型になった感じ。同じシャシーでここまで違うのかよ! って。フェラーリは360から430へ進化するときに、エンツォ・フェラーリを作った。僕はあれでフェラーリのクルマづくりが変わったと思う。


ポリカーボネイト製のリア・ウィンドウの下に鎮座する3.9リッターV8ツイ ンターボ・エンジン。歴代V8モデル最強となる最高出力720ps、最大トルク770Nmを発生する。0-100km/h加速2.9秒、最高速340km/hを誇る。

西川 あのあたりで誰でも乗れるスーパースポーツカーになった。F50は誰でも扱えるというわけにはいかなかったけれど、エンツォ・フェラーリはいきなり全開にすることができた。エンツォ・フェラーリはフェラーリの歴史のなかで重要なクルマで、そこからフェラーリのロードカーは変わった。技術が下りてきた。


山崎 まあ、創業者の名前を付けるぐらいだからね。


村上 なぜ、いまスーパースポーツカーの時代なのかというと、電子制御のブレークスルーによって、それまで絶対に感じることができなかった領域を、誰でも体験できるようになったというのが大きな要因だと思う。今回2台のフェラーリに乗って、つくづくそう思った。


西川 そういう意味で、F8トリブートは象徴的なクルマ。めちゃくちゃ速くて、とても安心で、驚くほど乗り心地がいい。感心したのはウェット・モードでのコーナリングがものすごくニュートラルなこと。“こいつ、道知ってるな”という感じで動く。ずっとウェット・モードでいいと思った。


荒井 熟成した最新モデルにフェラーリの余裕を感じるよね。


村上 そう思わせるところも含めて、やはりフェラーリはスーパースポーツカーの王者だ。フロント・ミドシップあり、リア・ミドシップあり、V8あり、V12あり。さらにはポルトフィーノやローマというエレガント系まで。懐が深いよ。


語る人=西川 淳+山崎元裕+村上 政(ENGINE編集長)+荒井寿彦(ENGINE編集部/まとめ) 写真=神村 聖



■フェラーリF8トリブート


駆動方式 ミド縦置後輪駆動 
全長×全幅×全高 4611×1979×1206mm 
ホイールベース 2650mm 
車両重量 1570kg 
エンジン形式 90度V型8気筒ツインターボ 
総排気量 3902cc 6496cc
最高出力 720ps/7000rpm 
最大トルク 770Nm/3250rpm 
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション 前&後 ダブルウィッシュボーン/マルチリンク 
ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク 
タイヤ 前/後 245/35ZR20 305/30ZR20
車両本体価格 3264万3000円


■フェラーリ812スーパーファスト


駆動方式 フロント縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4660×1970×1275mm
ホイールベース 2720mm
車両重量 1790kg
エンジン形式 65度V型12気筒DOHC
最高出力 800ps/8500rpm
最大トルク 718Nm/7000rpm
変速機 7段自動MT
サスペンション ダブルウィッシュボーン
ブレーキ 通気冷却式ディスク
タイヤ 275/35ZR20 315/35ZR20
車両本体価格 4000万円

(ENGINE2020年12月号)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

語る人=西川 淳+山崎元裕+村上 政(ENGINE編集長)+荒井寿彦(ENGINE編集部/まとめ) 写真=神村 聖

タグ:

advertisement

PICK UP



advertisement