2021.05.31

CARS

「いっそポルシェと結婚すれば良かったのに」と奥さんに言われるオーナーの911GT3と911カレラカブリオレのポルシェ・ライフ!!

930カブリオレと997GT3

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念願叶って手に入れた初めてのポルシェは、近くの正規ディーラーで見つけた中古の997カレラS、PDKだった。ところが。VWやアウディのDSGに乗り慣れていたこともあってPDKを選んでみたものの、乗ってみると少しイメージが違っていたらしい。

「もっと軽やかに変速するもんだとばかり思っていたら、そうでもなくて。これならいっそマニュアルの方がいいかも、って思い始めたんです」

ポルシェ・クラブにも入った。イベントに出かけると、いやでもGT3やターボが目に入ってくる。しかも「ワンサカおるんですわ」。次第に古屋さんは、911の高性能グレードに乗ってサーキットを走る自分の姿を夢見るようになっていく。狙いは6MTのみの997GT3。

2010年式997GT3。PDKのカレラSで人生初のポルシェ&サーキットを経験したオーナー、あっという間に2ペダルでは物足りなくなった。3ペダルのGT3を探した結果、縁あってやってきたのがこの個体。普段使いにも支障がないよう、シートをレカロに換えたのみ。サーキット走行前後のメンテナンスを欠かさず、コンディション維持には常に気を使っている。オーナーの愛着が車内にも漂っていた。

「なかなか良い個体が見つからなくって。かなり時間をかけて探しました。4年ほど前かな、世話になっているディーラーから連絡が入りまして。良いタマが入庫した、と。しかも、クラブスポーツだと」

その週末、駆けつけたのだがタッチの差で逃してしまう。肩を落としてディーラーを出ようとした古屋さんの目に飛び込んできたのがノーマルの黒い10年式GT3だった。

「僕が逃したクラブスポーツの下取りで入ってきたのが、この子だったんです」。

サーキットも攻めたいけれども、普段使いもしたかった古屋さんにとっては、むしろ願ったり叶ったりの展開だった。サーキット用にシートをレカロに換えて現在に至っている。

もちろん、サーキットを初めて走ったパートナーもポルシェ。最初のカレラSだ。とにかく楽しかった。もっと走りたい。そんな気持ちもまた、古屋さんを3ペダル・マニュアル志向へと誘ったのかもしれない。

「2カ月に一度くらいの割合で、鈴鹿や岡山を走るんです。997なら電子デバイスももちろんあるけれど、アナログなところもまだ残っている。安全に性能を楽しむにはちょうど良いモデルなんとちゃいますか。僕は走行会レベルで満足してるんです。一般道で試せないことを試せたらそれで十分。RRのクセを上手く利用して思い通りにコーナーを曲がって行けたときの快感がたまらない。左ハンドルのミッション車ってボケ防止にもなりますしね」

やっぱり空冷が欲しい

GT3でサーキットを楽しんでいるうちに、もう一つの欲望が古屋さんに芽生える。子供の頃に憧れた930ターボ。否、別にターボじゃなくて良い。ポルシェ仲間がよく話題にする“空冷”とやらを経験してみたくなったのだ。

「クラシックポルシェを嗜む先輩たちがみんな口を揃えて言うんですよ。空冷クラシックモデルの入門に最適なんは930シリーズの後期やって。どうせならオープンも楽しめるカブリオレを探そうということになり、かなり探しましたよ。ようやく去年見つけたのがこのサマーイエローの930最終型カブリオレです」。



古屋さん曰く、GT3の勇ましいサウンドはいわゆるエグゾーストノートで、それはそれで好きなのだけれども、空冷930のそれは「エンジンそのものの音、メカニカル・ノイズって言うんですかね、それを楽しみながらゆっくりドライブするのが最高に楽しい」のだそう。いずれの911も“動”の魅力があるというわけだが、そのキャラクターが当然ながらまるで違う。

「とはいえどちらもRRの911ですから、乗って感じる作り込みの良さ、質実剛健さは、よく似ているんですけどね。それと、ブレーキ。制動フィールはもちろん違うんやけど確実に安心して止まってくれるという感覚はまるで同じ。そこだけはポルシェって変わらないのかなぁ、と」

時代の流れに沿って変わっていくブランドのあり方には、あまり興味がないという。生き残るためには仕方ないことだとも思っている。とはいえ、古屋さんは今なおポルシェの何もかもが大好きだ。オーナーとなって尚、憧れ続けている。何よりポルシェが好きだというだけで繋がり、増える仲間がいつの間にか古屋さんの人生の大きな財産になっている。

「1960年生まれなんですよ。引退したら同い年の356Aが欲しいなぁ、と思ったり。クラシックカー・ラリーとか、出てみたいですし。その頃にはもうGT3でサーキットは卒業して、最新の911カブリオレあたりかなぁ、隣に置くのは」

と言いながら、「明日(取材日は土曜だった)はサーキットです」、と笑顔を見せた古屋さん。大阪から岡山までの道中、きっと誰かをぶち抜いて、その人の子供の頃の夢を思い出させてあげたことだろう。

文=西川 淳 写真=望月浩彦

いずれの911もマニュアルミッション。GT3のシフトレバーやステアリングホイールからはサーキットで使い込まれた感じが滲み出ている。一方、オリジナルコンディションをきれいに保つ930カブリオレは空冷サウンドを楽しみながらクルージングする。週末には関西で有名なカフェセブンで仲間たちと語らっている。

(ENGINE 2021年1月号)

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