複雑に機能する時計のムーブメントは、もはや小宇宙といっても過言ではない。スーパースポーツカーにとってエンジンが大切なように、時計選びもエンジン=ムーブメントがキモなのだ!
現代の数ある独立時計師の中でひときわ異彩を放つのがフィンランド出身のカリ・ヴティライネン。2002年からスイスに工房を構えて独自の時計を作り始め、ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリでの受賞も7回に及ぶ才人だ。2020年新作の「Vingt-8 28SC センターセコンド」は、代表作「Vingt-8」のシンプルな中3針モデル。手巻きムーブメントをはじめ、ケースやダイアルも自社で製造し、徹底して職人による手づくりにこだわるのはいつも通り。21世紀の今、18世紀の時計師を彷彿させる孤高の作風がなんとも印象的で感動を呼ぶ。
ご本人にはスイスで何度もお目にかかったことがある。穏やかな印象だが、古典的な時計製作に精通し、徹底してこだわりの人。ハイビートやハイテクが注目される中で、自社ムーブメントはロービートで、脱進機も極めて特殊。察するにアブラアン-ルイ・ブレゲに影響を受けた一人。もっと知られるべき貴重な時計師だ。
「時計界のオスカー」と呼ばれるジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)を7度受賞のヴティライネン。ダイアルの見事のギョーシェや青焼きスティールをかしめた針に目を奪われるが、注目したいのはムーブメント。大型のテンワと2つのガンギ車を採用したロービートの大らかさと精緻さをあわせ持つその動きは優雅の一言に尽きる。
文=菅原 茂/前田清輝(ENGINE編集部)
(ENGINE 2021年1月号)
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