2021.03.27

LIFESTYLE

【ENGINE・ハウス】コンクリートで出来たステップフロア住宅 家の主役は螺旋階段

木造建築にも見えるがRC造。外断熱を採用してキレイに仕上げられており、粗い仕上げの内部空間とは対照的。写真でみると極めてシンプルだが、実際に住宅街に建っている姿は、凛とした清々しさが。敷地は五角形で、その角を上手く使って駐車スペースに。

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フォルクスワーゲン・ゴルフRに乗る建築家の「質実剛健」な自邸は、コンクリート打ちっ放しでありながら、表情の豊かな素敵な家だった。


クルマも家も質実剛健

建築家の自邸とクルマ選びには、似た部分が多い。ある種の哲学がどちらにも反映されているのだ。今回紹介するのは、川辺直哉さん(50歳)のお宅である。同氏が建築やクルマで好きなスタイルは「質実剛健」。だが、実際に話を伺ってみると、この言葉では表しきれない深い想いがあるのが興味深かった。


川辺さんは人気の集合住宅などで知られる建築家だ。個人住宅を含め、これまでにGマークを合計で21個も獲得している。誤解を恐れず言い切れば、今の時代に相応しい無駄のないグッドテイストの住宅を、しかるべき個性を与えながらも限られた予算の中で実現させている建築家だ。まさに質実剛健。


複雑な構成の川辺邸。家の中央部にある螺旋階段も、見る角度や高さによって景色が全く違う。

そんな川辺さんのお邸は、四角い箱が3つ合わさったシンプルな形をしている。上の写真で家主が立っているのは、二つの箱が45度で接合したこの家の中心となる場所。表情のあるコンクリートの打ち放しの壁に囲われた空間の中を、鉄製の螺旋階段が、高さの異なるフロアーを繋いで上に伸びている。天井の一番高いところでおよそ6m。単純な構成の家だが、内部は随分と複雑になっており、立つ位置や角度を少し変えるだけで見える景色が全く変わってくる。そのため、延べ床面積が100平方メートルの家とは思えない広がりを感じるのだ。


写真の左手がダイニングで、数段上がった右手がリビング。

拘りの屋内空間

間取りは、1階に二人のお子さんの部屋と主寝室、バスルームとトイレにシュークローゼットが。子供部屋は「すぐに出ていってしまうのだから」と、最小限のスペースしかない。その分ホールスペースは広くとられ、洗面所もこの一角に設けられている。また、土間の前のエリアは、ちょっとしたサンルーム的空間として利用されているそうだ。そして2階に上がる手前にも小さな踊り場があり、2階はダイニングとキッチン、そして親子で使っているスタディコーナーが。そこから階段で数段上った先が、2.2mしかない天井高が囲まれ感を生んでいるリビングルームだ。個室数は最小限。家の殆どは、扉や間仕切りが存在しないひとつながりのオープン空間で、居心地の良い場所がいくつも設けられた、どこに居ても家族の気配が感じられる家だ。


写真の椅子を置いてあるエリアは、午後の光が溢れる場所。因みにこの鉄製の階段の手摺の微妙なカーブは、腕のある職人が現場で整えた。雰囲気のある表面の風合いも、この場所に階段を設置してから暫く放置して錆びさせ、ちょうど良い頃合いで止めて定着させたもの。こうした作業も、川辺さん自身が行った。躯体はコンクリートだが、2階の床が木製なのが見える。

やはり建築家の自邸である。けっして普通ではない。それどころか、相当に特別な空間に身を置いている気さえする。なんといっても、コンクリートと鉄といったハードな素材を使っているうえ、最後に川辺さん自らが加えたひと手間が効いている。壁や天井にヤスリをかけて、独特の表情を作り出しているのだ。この壁は、ツルっとした仕上げのコンクリート打ち放しを好まないクライアントへの、ショールーム的な意味合いもあるそうだ。さらに、様々な場所に設けられた窓からの光が作るコントラストが劇的である。


一方床や家具は木製で、室内には多くの観葉植物が数多く置かれ、印象はソフト。対照的な要素を組み合わせることで、躯体に使われているハードな素材の印象が薄れ、絶妙な雰囲気となっている。こうして生まれた川辺邸は、普段手掛けるGマークを獲得するような建築とは趣の異なる個性の強いもの。スタッフに任せず、業者との細かなやりとりまで全て自分で対応した。それだけ想いが詰まった建物なのだ。


外構の植物は、季節に青々と茂る。写真の中央奥がキッチン。左手奥がスタディコーナーで、ここにも扉は無い。

そもそも川辺さんが45歳でこの家を建てたのは、二人の子供たちの「実家を作る」ため。建っているのも、川辺さん夫婦の実家にも近い町だ。以前は近所の賃貸住宅に住んでいたが、子供たちの環境が大きく変わらないようにと土地を探した。子供が家から巣立っても、親や友達の住む町にいつでも戻ってこられるのが実家の良いところ。奥様はキッチン以外の部分は全て川辺さんに委ねてくれたが、内心、建築家の自邸にありがちな、使い勝手の悪い家ができてしまうのではと心配したとか。しかし完成した家には大満足だという。20歳になる上のお嬢さんもこの家が大好きで、友達をよく連れてくるそうだ。先日も川辺さんがスタディコーナーで仕事をしている時に、泊まりに来た友達とリビングでお喋りをしていたことがあったとか。なんとも素敵な親子の距離感である。


普通のゴルフではない

拘りぬいた内部空間に比べ、家の外観は極めてシンプルだ。そして、家の傍らには新車でやってきたゴルフR(2014年製)が。一見普通のゴルフのようで、中身が特別なのが川辺流だ。もちろん川辺邸は、この黒いゴルフを置くことを想定して設計されている。ボディーカラーは、奥様が川辺さんに似合う色と薦めたもの。駐車スペースは、幅4mの道路のL字に折れ曲がった角の内側にあたる。この場所に駐車すれば、出かける時はバックしないで前進すれば済むのも、土地選びの決め手となった。


リビングの天井は低いが座面の低いソファーを置いたうえに扉も無いので、サイズ以上の広さを感じる。大抵の家では窓は壁の中央にあるが、川辺邸の場合は壁の端、あるいは床や天井に接した位置に配されている。こうすることで、少し位置を変えるだけで家の見え方が大きく変わるのだとか。粗く仕上げたコンクリートの風合いが、なんとも自然である。

因みに川辺さんは、この第7世代のゴルフの前は第6世代のゴルフGTI(前期型)に乗っていた。だが、「買ってもいろいろと手を入れてしまうので、最初から何もしないで済むRにした」という。そう聞いてかなりの運転好きを想像したが、手を入れた箇所は、フロントグリルの赤いラインやGTIのバッジを外し、ホイールを替えたり車高を落としたりといった目に見える部分。川辺さんならではの美意識だ。若い頃はバイクで箱根まで走りに行くこともあったが、今は週末に家族で乗ることが殆どで、下のお子さんの野球の送り迎えも多い。仕事と家族との時間はしっかりと分け、このゴルフには仕事では滅多に乗らないそうだ。


個室スペースはミニマム。主寝室の窓のサイズは、奥様のシフト勤務を考慮してのもの。

クルマで質実剛健といえば、間違いなくドイツ車に共通するイメージである。ゴルフの前は、オペル・ベクトラにも乗っていた時代もある川辺さん。


「私には、ベンツやBMW、アウディは、ちょっと違う気がします。数字や記号ではなく、名前で呼ばれるクルマが好きなのかもしれません」


今の時代を体現する、クールな集合住宅を数多く手掛ける川辺直哉さん。しかし自邸を拝見しカーライフを聞くにつけ、なんとも温かな人だと感じたものだ。


建築家:川辺直哉 1970年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院を修了。卒業後は石田敏明氏の建築設計事務所を経て独立し、自身の事務所を構える。写真の集合住宅、HANNEGI TERACEなどを含め、これまでに21個のGマークを獲得。集合住宅、住宅を得意とするが、廃校を活用したプロジェクトや現在進行中の宿泊施設なども。カンボジアでも建築を手掛けている。著書に『現代住宅の納まり手帖』(共著)など。よく知られた建築写真家の川辺明伸氏は弟。写真:川辺明伸

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一


(ENGINE2021年4月号)

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