スーパースポーツカーのMC20を発表し、新たな時代に向けて動き出したマセラティの、同社初の電動化モデル、ギブリ・ハイブリッドが上陸。新たにラインナップされたV8のトロフェオと共に袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗した。
新型コロナの影響で、新型車の試乗会の開催もままならないなか、マセラティ・ジャパンは袖ヶ浦のサーキットを占有して、3台の特別なギブリの試乗会を開催した。ナンバーが付かないからサーキットで試乗会をやるのだろうと思って行ってみると、なんとイタリア本国のナンバーが付いているではないか。イタリアに行けないなら、クルマを持ってくればいい。さあ、思い切り乗ってくれ、という声が聞こえたようで、さすがマセラティ、やることが違う、と思わずジンときてしまった。
マセラティが空輸したのは、ギブリのハイブリッドとトロフェオ、そしてS・Q4の3台。目玉は初物のハイブリッドとトロフェオだが、試乗の順番は2021年モデルのS・Q4からだった。コレ、全然特別なモデルではないが、やっぱりサーキットで乗るギブリは楽しい。3リッターV6ツインターボは430馬力もあるから文句なく速い。580Nmの最大トルクも比較的低回転の2250回転から発生するので、タイトなコーナーもグァァァァーっと力強く立ち上がるから痛快だ。
Q4の良さは4輪駆動ならではの安定感にある。極端に無茶なことさえしなければ安心してサーキットが楽しめるところがいい。エンジンのドライビング・レッスンでギブリを見かけることは滅多にないが、普段乗りに使いながら、たまにサーキットを走るような人には、スポーツ・セダンとしていい選択肢だと改めて思った。
そんなS・Q4から乗り換えたトロフェオは、コレはもう強烈だ。ひと言でいうと、手に汗握るスポーツ・セダンである。S・Q4のように平和な気持ちでは楽しめない。90度バンクの3.8リッターのV8ツインターボは、伊達にフェラーリの工場でつくられているわけではない。マラネロ製ということは、イタリアを代表するエンジンだということだ。さすがにグラントゥリズモの4.7リッターV8自然吸気エンジンのような鋭い吹け上がり方はしないが、猛烈なパワーと以前よりバリトン系の低音の厚みが増したエグゾーストノートには獰猛という言葉がピッタリだと思った。
ドライブ・モードをスポーツにしているときはまだ良かった。パワーはすごいが良くできた電子デバイスのおかげで強烈な走りを楽しむ余裕も少しはあったが、モードをコルサに変えると状況は一変する。一段と高まるエグゾーストノートは、まるで準備はできたかと問いかけているようだし、道幅の広いサーキットでほかに走るクルマがないことがわかっていても、後輪駆動で580馬力を解き放つのは勇気が必要だ。コーナーというコーナーでは細心の注意を払いながら右足でアクセレレーターを操作し、脱出では後輪のグリップに意識を集中しながら加速する。ヒリヒリするような感覚。この感覚がトロフェオの魅力であるのは間違いない。ちなみに、MC20を別にすれば、ギブリのトロフェオが、マセラティの最速セダンになる。
そんなトロフェオも、見た目はS・Q4と変わらないように見えるが、よくよく見ると、フェンダーのエアダクトの縁は赤く塗装され、前後のスポイラーはカーボンと、悪そうな匂いがプンプンする。それでいてエレガントな雰囲気もある。こういうアンバランスな表現がマセラティは実に上手い。悪いけど美しい。
試乗の順番は自分では決められないから仕方がないが、強烈なトロフェオの後でハイブリッドに乗るのは正直気が引けた。トロフェオの印象が強すぎて、ハイブリッドが霞んでしまうのではと思ったからだが、それはまったくの杞憂だった。
と、その前にシステムの概要を説明しておこう。マセラティが電動化モデルを市販するのはもちろんコレがはじめて。モデル名はハイブリッドだが、おおざっぱに言うと、内容はベルト駆動のスターターが発電、充電を兼ねた、いわゆるマイルド・ハイブリッドである。
マイルド・ハイブリッドというと燃費指向の場合が多いが、マセラティが燃費の奴隷であるはずがない。ではどうしているのかというと、BSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)で発電した48Vの電力かもしくは一度バッテリーに蓄えた電力で、eブースターと呼ばれる電動コンプレッサーを駆動し、ターボと連動して過給している。高電圧の48Vで力強くコンプレッサーを駆動することで、ターボラグを解消するだけでなく、低回転時のエンジン出力を大幅にアップし、スポーツ・モードではターボにプラスして過給も行い、さらにパフォーマンスをアップしているというから驚く。システム全体の最高出力は330馬力で最大トルクは450Nmだ。ベースとなっているのはFCAの2リッター4気筒のマルチエア・ユニットだが、ほぼ新設計だ。また、BSGはスタートや加速時に最大41Nmのトルクで駆動もアシストする。
で、サーキットでの走りはどうだったのかといえば、トロフェオとは全然違う驚きがあった。とにかくスタートやコーナーからの脱出加速がすごい。体感的には430馬力のS・Q4より力強いと思ったくらいで、コレが2リッターの直4とは俄には信じられない。フィーリング的にはV6に近いが、溢れ出すような中低速のトルクはまるでディーゼルのようだと思った。
しかも、スポーツ・モードを選ぶと、俄然勇ましくなる。エグゾーストノートのチューニングが絶妙なこともあるが、気持ちのいい吹け上がり感もちゃんとある。ダウンシフトしたときのブリッピングも痛快だ。コレほどマイルドという言葉が似合わないハイブリッドもないと思った。さすがマセラティだ。
文=塩澤則浩(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦
■ギブリ・ハイブリッド・グランスポーツ
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4971×1945×1461mm
ホイールベース 2998mm
トレッド(前/後) 1635/1653mm
車重 1950kg
エンジン形式 直噴式直列4気筒ターボ+eブースター+BSG
排気量 1998cc
最高出力 330ps/5750rpm
最大トルク 450Nm/4000rpm
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 235/50R18/235/50R18
車両価格 未定
■ギブリ・トロフェオ
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4971×1945×1461mm
ホイールベース 2998mm
トレッド(前/後) 1635/1653mm
車重 1969kg
エンジン形式 直噴式V型8気筒DOHCターボ
排気量 3799cc
最高出力 580ps/6750rpm
最大トルク 730Nm/2250-5250rpm
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 245/35R21/285/30R21
車両価格 未定
■ギブリS Q4
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4985×1945×1485mm
ホイールベース 3000mm
トレッド(前/後) 1635/1655mm
車重 2060kg
エンジン形式 直噴式V型6気筒DOHCターボ
排気量 2979cc
最高出力 430ps/5750rpm
最大トルク 580Nm/2250-4000rpm
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 235/50R18/235/50R18
車両価格 1235万円
(ENGINE2021年5月号)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
PR | 2024.11.21
LIFESTYLE
冬のオープンエアのお供にするなら、小ぶりショルダー! エティアムか…
2024.11.21
CARS
日本市場のためだけに4台が特別に製作されたマセラティMC20チェロ…
PR | 2024.11.06
WATCHES
移ろいゆく時の美しさがここにある! ザ・シチズン の新作は、土佐和…
2024.10.25
LIFESTYLE
LANCIA DELTA HF INTEGRALE × ONITS…
2024.11.19
WATCHES
エンジン時計委員、菅原茂のイチオシ 世界限定1200本! グランド…
2024.11.01
CARS
これは間違いなく史上最速のウルスだ! プラグイン・ハイブリッドのウ…
advertisement
2024.11.16
こんなの、もう出てこない トヨタ・ランドクルーザー70とマツダ2 自動車評論家の渡辺敏史が推すのは日本市場ならではの、ディーゼル搭載実用車だ!
2024.11.15
自動車評論家の国沢光宏が買ったアガリのクルマ! 内燃エンジンのスポーツカーと泥んこOKの軽自動車、これは最高の組み合わせです!
2024.11.15
GR86の2倍以上の高出力 BMW M2が一部改良 3.0リッター直6ツインターボの出力をさらにアップ
2024.11.16
ニスモはメーカーによる抽選販売 日産フェアレディZが受注を再開するとともに2025年モデルを発表
2024.11.16
【詳細解説】320iセダンと420iクーペがドライバーズカーである理由を、自動車評論家の菰田潔が語る なぜBMWは運転が楽しいクルマの大定番なのか?