2021.04.06

CARS

同じ名前のクルマと思えない トヨタ・ミライが2代目に進化!

燃料電池自動車の未来を切り開いたミライが次世代モデルへと生まれ変わった。先代は燃料電池であることが大きなウリだった。もちろん2代目もそれは変わらない。しかし、さらなる普及を目指すために、クルマとして大事なものに磨きを掛けてきた。


クルマとして魅力的か?

トヨタの量産FCV(燃料電池自動車)であるミライが、同じ名前のクルマとは思えないぐらい大胆なフルモデルチェンジを敢行した。開発陣によれば、先代はFCV自体に興味を持つ人をターゲットと見据えていたが、新型は純粋にクルマとして魅力的なものとし、それがたまたまFCVだったという受け入れられ方をしたいのだという。


確かにテスラ・モデルSは、EVであることが決め手ではなく、魅力的なデザイン、先進的な内容が、EVに乗ってみようという思いを喚起したクルマだったと言っていい。FCVの販売を加速させるためには、そういう存在にしなければならないと、トヨタも考えを改めたのである。


外観同様、インパネの形状も大きく変わった。取材車は最上級グレードのZ“エクスクルーシブ・パッケージ”。エクスクルーシブ・パッケージは日よけや照明、アシスト・グリップなどを追加することで後席の快適性を高めたグレード。

姿かたちだけでなく、中身もまさに一新されている。実は新型ミライは、レクサスLSなどと共通のGALプラットフォームを用いた後輪駆動車に生まれ変わっているのだ。


狙いは、まずパッケージングの改善である。駆動用電気モーターをリアに移すことで、従来は前席下にあったFCスタックをボンネット内に収めることが可能になり、全高の低下が可能になった。そうして、見ての通りの流麗なクーペ風フォルムのスタイリングが実現できたのだ。全長は4975mmと大きく、最大20インチのタイヤ&ホイールを履くこともあり、存在感は相当なものである。


シートは革表皮が標準で、後席中央を除く4席にヒーターとベンチレーションが備わる。

このパッケージングは航続距離の拡大にも繋がっている。高圧水素タンクは後席下、荷室下の他にセンター・トンネル内にも収められ、計3本で容量は約5・6kg。2本だった先代より約2割増加している。それにFCシステムの効率向上が相まって、航続距離は従来の実に3割アップとなる約850kmを実現した。


インテリアは、大型ディスプレイ、液晶メーターの採用などにより先進的なイメージが強調されている。5名乗車が可能になったのも朗報。そして荷室は、9インチゴルフバッグを3セット搭載できるという。


先進装備の数々にも注目したい。マイナス・エミッション、つまり走るほどに空気をきれいにする空気清浄システムは、大量の酸素を取り込むFCのメリットを活かしたもの。もちろん、災害時などに貢献するDC外部給電システムも搭載されている。


クラウンの代わりになる

最高出力182ps、最大トルク300 Nm と動力性能は先代より向上しているとはいえ、絶対的には特筆するようなものではない。しかしながら、実用域で特に不足を感じさせないのはレスポンスの向上もあるし、シャシーの側で姿勢変化が抑えられ、後輪駆動らしく加速時のトラクション性能に優れることなどが効いているのだろう。静粛性も高く、まさに滑るように走る。


荷室は奥に電池が収まるため、縦方向が短いものの、高さがあるので思いのほか広い。

爽快なフットワークも魅力である。後輪駆動というだけでなく、前後重量配分ほぼイーブン。そして高圧水素タンク搭載などのためにボディ剛性は高く、しかも重心も低いという具合で、走りの素性はそもそも非常に良いのだ。電子制御ダンパーの類は備わらないが乗り心地も穏やか。この心地よい走りは、大きなアピールポイントになるに違いない。


先進運転支援装備も最新版が奢られている。全車速追従機能付きのレーダー・クルーズコントロールにはカーブ速度抑制機能を搭載。レーントレーシング・アシストは制御が進化して、車線内中央の維持性能が高まっている。シフト操作まで自動で駐車を行なうアドバンスト・パークも標準装備。更に、広い速度域でのハンズオフ走行などを実現するアドバンスト・ドライブも近く導入される予定で、つまりミライは運転支援の分野でも最先端の1台になるわけだ。


後席の空間は外寸から期待するほど広くないが、快適性はやはり上々。前席同様、静粛性の高さも嬉しい。今後、官公庁などでは噂のクラウンに代わってこのミライが使われていくようになるのかもしれない。


新型ミライが開発の狙い通り、純粋なクルマとしての魅力を格段に高めてきたことは間違いない。ただ、こうしたクルマに関心を抱くであろう層にアピールし続けていくためには、今後も弛まぬアップデートは必須。更に言えば、未来の世の中に向けたトヨタの思い、そこでのミライの役割といったビジョンの提示、共感の喚起も重要になってくるに違いない。


■トヨタ・ミライZ“エクスクルーシブ・パッケージ”


駆動方式 リア横置きモーター後輪駆動
全長×全幅×全高 4975×1885×1470mm
ホイールベース 2920mm
トレッド 前/後 1610/1605mm
車両重量(前後重量配分) 1950kg(前950kg:後1000kg)
動力 永久磁石式同期型モーター
モーター最高出力 182ps/6940rpm
モーター最大トルク 300Nm/0-3267rpm
燃料電池スタック/セル数 固体高分子形/330
燃料電池スタック出力 174ps
変速機 1速固定
サスペンション形式 前後 マルチリンク式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前後 245/45ZR20 103Y
車両価格(税込) 805万円


文=島下泰久 写真=茂呂幸正


(ENGINE 2021年5月号)

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