2021.05.09

LIFESTYLE

『ファーザー』でアカデミー賞を史上最高齢受賞 アンソニー・ホプキンス、83歳の名演

半世紀以上のキャリアを誇るイギリスの名優が、新たなる代表作となる名演を披露した。


『羊たちの沈黙』のレクター役で知られるアンソニー・ホプキンス。昨年末に83歳を迎えたイギリスの名優が先日、2度目のオスカーを受賞した。2012年にパリで初演された戯曲を映画化した『ファーザー』で、自身と同じ名前、年齢の主人公を演じているのだ。


舞台はロンドンにあるアパート。一人暮らしの老人アンソニーは、娘のアンが用意する介護人をことごとく拒否し、周囲を困らせている。そんなある日、アンソニーは、リビングに見知らぬ中年の男が座っていることに気づく。彼はアンの夫だと話すが、アンソニーには見覚えがない。そこに当のアンも現れるが、彼女もまったく知らない他人だった。


まるでミステリーのような展開で始まる本作だが、実は主人公は認知症を患っていて、我々が見ているものも、実は彼の頭の中の出来事であることが次第に分かってくる。繰り返される同じ会話、いつの間にか消えてしまったお気に入りの絵……。一体、どこまでが現実で、どこまでが妄想なのか? ラストに明かされる現実が、厳しくも切ない。


本作が長編初監督作となるフロリアン・ゼレールは、オリジナルの舞台も手掛けた劇作家である。それだけに全編を通して濃密な会話劇が進行するが、認知症を患う主人公の頭の中を視覚的に見せる構成は、映画の題材としても適している。


なお本編に登場する役者はたったの6人。娘アンを演じるオリヴィア・コールマンなど、一級の役者たちによるアンサンブルが見事である。


だが本作で圧巻なのは、やはりホプキンスである。現実と幻想の境界線が崩れゆく中、主人公が感じる混乱、恐怖、悲しみを、驚くほどリアルに表現する。一方で、シリアスな芝居を見せながらも時折、ユーモアを交えるあたりは、半世紀以上のキャリアを誇る名優ならではの余裕だろう。


ちなみに「私は老戦士ですからね」と語る実生活のホプキンスは、今も気力に溢れ、俳優業を引退する気は毛頭ないそうだ。


2012年に初演されたオリジナルの舞台はフランス最高位のモリエール賞最優秀作品賞を受賞。その後、日本を含む世界30カ国以上で上演された。主演のアンソニー・ホプキンスは、晩年、認知症の兆候があった自身の父親を思い出しながらこの役を演じたという。娘役のアンに扮したのは「女王陛下のお気に入り」でアカデミー賞主演女優賞を獲得したオリヴィア・コールマン。97分。(C) NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINE-@ ORANGE STUDIO 2020

『ファーザー』は5月14日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他 全国ロードショー


文=永野正雄(ENGINE編集部)


(ENGINE2021年6月号)


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